同じ二人、違う二人
俺と昇太がキッチンに立って皿を洗っていると、ソファーに並んで腰掛けるその二人の背中を眺める格好になる。
昇太が仕方無さそうに手を動かしながら、ボソリとつぶやく。
「……本当に似てるよな」
「ああ。昔の俺らも、あんなんだったのかねえ」
「……ふむ。でも割と早い段階で、修也が身だしなみとか面倒なこと気にしだしたからなあ」
「お前が面倒くさがりすぎんだよ」
俺からしたら、昇太が気づいたら俺と同じ格好をしなくなったという認識である。
可愛げのないやつだ。少なくとも、髪を伸ばす理由が『床屋に行くのがめんどくさい』ってのはどうかと思う。
「でもどうだろうね。まだ僕らも、同じになろうと思えばなれるんじゃないか?」
そう言いながら自分の茶碗を拭き終えた昇太と目が合う。
顔だけ切り取れば、まるで鏡に映った俺自身を見ているかのようだ。――本当に顔だけだが。
「そうか?」
コミュ力中の中、成績中の下、陸上部長距離担当の俺と違って、昇太は文芸部で運動音痴。
学校では違うクラスだが、喋るのはほとんど文芸部の活動のときらしい。
そして勉強がよくでき、頭が回る。友人から修也も見習ったらどうだと言われたことも一度や二度ではない。
とにかく利口なやつで、きっと父さんも昇太に関しては手がかからなかっただろう。
ついでに、我関せずみたいな雰囲気が受けるのか、学校の女子には隠れ昇太ファンもいるとかいないとか……
まあとにかく、時々シンクロするようなあの姉妹とは違って、俺ら兄弟はかなり違う人間になってしまっている。
「そんなのお前が嫌だろ。俺より頭良くて、女子ウケも良いくせに」
「女子ウケは変わらんだろ。それこそ身体は変わらないのだから」
昇太の言う通り、外見は容易に見分けがつく俺と昇太だけど、身長とか体重とか、そういう数値は計測のたびにぴったり同じだ。
スポーツテストの方は、俺が運動部の意地を見せてるが。
「身体は変わらないけど、それ以外は相当違うぞ俺ら。……」
「まあ確かに」
ふと、俺は思い出す。
「……美沙さん美菜さんに初めて会った時に、昔の俺らがよぎってさ。まだお前の髪が短かった頃の」
「ほお……?」
思い出すといっても、ほんの数日前のことだけども。
***
時系列でいうと、まず父さんから再婚の話を初めて聞かされたのが、春休みが始まって最初の日……終業式が終わった翌日、宿題どうしようか、中一の復習って言われてもなあ……となりながら、いつもどおりに夕飯を兄弟と父さんの三人で、居間のテーブルで済ませた直後である。
「父さんな、再婚しようと思うんだ」
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