美味しいシチュー
――考えてみれば、こうなっている原因は我々の親にあるのだ。
わかってはいるけど、俺と昇太の父……
再婚の申し入れはわずか一ヶ月前、相手とは出会って半年。
子供の俺らでも、早くない?とは思う。
とにかくせっかちこの上ないのだ。
そんなんだから、生真面目で慎重で何をするにも時間をかける母さんと反りが合わなくて離婚したのだろう、きっと。
――最も、せっかちで勢い重視なのは、美沙さん美菜さんの母……
父さんからの申し入れをあっさり承諾したあたり、こっちもなかなかの早さだ。
だから、茶目っ気があって喋り好き、同い年、取引先同士の社員で同業者、片親で双子の子連れ――ただし、瑠美さんは離婚ではなく死別――共通点の多い父さんと瑠美さんが初対面でたちまち意気投合した、というのは本当のことなのだろう。
そんな二人だから、こういう習慣のずれとか、一緒に生活する上での課題とかは、きっと『まあなんとかしていく』ぐらいにしか考えていないんだろうな。
しかもその二人はなかなか家に帰ってこない。
親に言うのもなんだが、たちが悪い。
「まあ、仕方ない。どうやら、僕たちは一つずつ、問題に立ち向かっていなきゃいけないわけだ。……修也は面白いと思わないのか?」
しかし、この状況でよくそんな余裕を持っていられるな……やっぱり俺と昇太の性格は、似てない。
「さあ、冷めないうちに食べよう」
昇太はそう言って、俺の肩をポンと叩く。
……はあ。なんだか昇太がこれだけ落ち着いてると、こっちも気持ちが静まってくる。
昇太に習って、スプーンでシチューだけ掬って一口。
「……美味しい」
思わず言葉が漏れるぐらい、とても美味しい。
なんでだろう。
キッチンに転がっているルーの空き箱は、普段俺らや父さんが使っているものと同じやつなのに。肉と野菜を切って鍋に入れ、水を入れて溶かすだけの、料理のできない男三人でもなんとか頑張ってそれっぽくなるやつなのに。
……このコクと旨味。そのままファミレスで出せそうなくらいだ。
「良かった、上手くいった……」
「二人だけで作ったの初めてだけど、何とかいった」
「……え? 初めてなの?」
またしても思わず言葉が漏れる。
「母さんが普段やってるのを真似ただけだから」
「玉ねぎを多めに入れて、バターで炒めるの」
姉妹の母さん、すなわち瑠美さんは相当な料理上手だ。
一度だけ家にいるときに作ってくれたけど、あれだけ美味いチャーハンを、俺はかつて食べたことがない。
「あと、スーパーで売ってた……スパイス塩っていうのかな?」
「煮る途中にあれを入れると、味が深く出てくるみたい」
……料理は俺の想像するよりずっと奥が深い、のだろうか。
俺や昇太が、まともに二人を手伝えるようになる日は、いつになるのだろう。
そんなことを考えてるうちに、あっという間にシチューは無くなっていった。
***
「ごちそうさま。二人共ありがとう」
「おい待て。洗い物は俺らがやる。昨日も言っただろ」
食べ終わると、謎にカッコつけて去ろうとする昇太の首筋を掴んで止め、台所に引っ張っていく。
「本当に良いの?」
「わたしたちの分まで……」
「良いよ。二人だってくつろぎたいでしょ」
美沙さんと美菜さんに答えながら、俺は重なった食器と洗剤を昇太に持たせる。
今は春休みだ。
俺が陸上部の練習に、昇太が文芸部の活動に行ってたり、家でゲームや読書に興じている間に、二人は引っ越しで持ってきた荷物整理やいろんな準備にとどまらず、家事もやってくれるのだ。
頭が上がらないし、申し訳ない。
食器洗いでも後片付けでも、俺らができるところはやっていかないとダメだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「お風呂沸いたら、先に入るね」
そう言って美沙さんは漫画を、美菜さんは雑誌を読み始めた。
……ん? 逆か? 正直、見分けはついていない。
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