026.新築祝いと三人の真ん中

シュピンとテレポートを抜けて視界が切り替わる。


そこには青い空と青い海と白い砂浜が見える海辺の住宅街だった。


ここはハウジングエリアの一角。


特定の家の前にテレポートすることは基本的にはできないんだけど、いくつかの例外があってその一つがフレンドの自宅に飛ぶ場合。


というわけで、直で転送されて姿を現した私を、ノゾミちゃんたちが歓迎してくれた。


「こんにちは! アイさん!」


「こんにちは」


「……こんにちは」


「こんにちは。良い景色の場所だね」


少し高めの坂の上に立っている家は庭から海が一望できるし、周りの家も景観から浮くような建築をしていないのでロケーションは良好だ。


ちなみに家自体は基本フォーマットから選ぶようになるんだけど、南国リゾート地に雪の積もった家を構えるなんてこともできるので隣人ガチャは結構重要だったりする。


まあ周りが埋まってる家を選べば早々変なことにはならないけどね。


「三人とも、マイホームおめでと」


「ありがとうございます!」


そして今日は三人がシェアして買った新築祝いということで、あたしが家具をクラフトするっていう話になっていた。


Sハウスだから家具もそこまで大量には必要ないだろうけど、それでもそこそこ時間はかかりそうかな。


「それじゃあまずは外装から始めよっか」


「はい!」


「まずはシステムウィンドウからハウジングの所押して。うんそこ」


この操作は家主か権限を持ってる人間にしかできないので、代表してノゾミちゃんが操作をしてみんなでそこを覗き込んでいる。


「とりあえず外壁が木造か石造りかかな」


「石造りがいいですかねー。海辺の家ですし」


「そうね、そのまま庭に出れる平屋とかは選べなそうだし」


「うん……」


「家の中はインスタンスエリアになる関係でどうしてもねー。庭にテラス作ったりはできるけど」


平屋で大きな引き戸を一枚隔てて部屋と庭が繋がっている沖縄の民家みたいな家はシステムの関係上で作ることができないので残念。


ということで家は石造りに決定。


「壁の色はどうしよっか」


「白で!」


「異議無し」


「うん……」


「じゃあ白で。屋根はどれにする?」


三角、半円、平らと三種類あるけど、これもさほど時間はかからずに三角に決定。


「屋根の色は?」


「赤!」


「青」


「緑……」


綺麗に割れたわねー。


「アイさんはどれが良いと思いますか?」


「んー、色は簡単に変えられるから最初はじゃんけんとかでもいいんじゃない?」


「なるほど」


家のデザインは変えるのにクラフトしないといけないのでそんなに安くはないけど、色塗りは染料ひとつで良いのでほとんどタダみたいなもの。


染料自体も普通に店売りしてるから安いしね。


実際に家を塗るなら大量のペンキが必要だろうけど、ゲーム内ならアイテムひとつで済むからそういうところは便利だ。


「じゃーんけーん……」


勝負の結果アリスちゃんが勝ったので青に決定。


「それじゃあちゃちゃっと作っちゃうわねー」


ということでバザーで素材を調達してトントンとクラフトを実行。


実際ワンポチなので三分もかからずに完了する。


「なにか庭に起きたいものとかある?」


「これ置いた方が良いって物とかってありますか?」


「んー、とりあえずカカシはあれば便利かな。あとはテーブルと椅子とか?」


「はい! ブランコが欲しいです!」


「ブランコなら木の枝に作るタイプとかもあるけどそっちにする?」


「そんなこともできるんてすか?」


「うん。木を生やしたり街灯立てたり噴水作ったり芝生をタイル敷きに入れ換えたりも出来るよ」


「結構自由に選べるんですね」


「あとキャンプファイヤー置いたりも出来るよ。これは流石に普通の家に置いておくと浮くと思うけど」


「危なそう……」


「実際火事になったりはしないけど、木造建築の庭に置くと見てて不安になるかも」


ということでキャンプファイヤーは無しの方向で。


あとテーブルと椅子も置いたけど、なぜかリクエストで椅子は四つになった。


「三人なんだから三つでいいんじゃない?」


「アイさんの席がないじゃないですか」


「そうですよ!」


「うん……」


まあそう言ってもらえるのは嬉しいけどね。




「中入るよー」


「もう少しだけー」


外の家具選びは一通り済んだので中に入ろうかという話になったんだけど、ブランコを漕ぐのをやめる気配がないノゾミちゃんに三人で苦笑する。


「先に入ってよっか」


「はい」


(コクリ)


ということで中へ入ると、そこには家具のひとつもなくがらんとした空間が広がっていた。


「わぁ……」


「なんだか、見学させてもらったところよりも広く感じますね」


「まだなにも家具置いてないからねー、壁に棚とか並べるとそれだけで部屋が一回り狭く感じるだろうし」


「なるほど」


「とりあえず内装から決めよっか」


具体的には壁と床。


「壁は木目調も選べるんですね」


「そうだねー、家の外装と内装は独立してるから」


外装が石造りだから内装も石造りなんて常識はここでは通用しない。


「でも……、やっぱり……、石が良いと思う……」


「そうね」


まあ統一感あった方が良いっていうのには同意かな。


好きに魔改造するなら後からできるし。


というわけで壁と床はクリーム色のシンプルな物に決定。


「家具はどうしよっか?」


「はい! まずベッドが欲しいです!」


というのはブランコに満足して家に入ってきたノゾミちゃん。


「ベッドね。結局どうするか決まった?」


「はい、二つくっつけて三人分にしようと思います」


「そっかそっか。場所はどこに置く?」


「それは……、地下に……」


「んじゃそっちに移動しようか」


あたしは一階にベッド置いてるけど、二人以上で暮らすなら地下に置くのも普通にありなんじゃないかな。


「ベッドどれにする?」


「これでお願いします」


おっ、即決。


事前に相談して決めてたのかな。


「同じの二つでいいんだよね?」


「はい」


「それじゃ」


ということでシンプルなベッドを二つ作ってインベントリからノゾミちゃんに渡す。


流石にベッドの実物を手渡しは無理なので。


「壁にはくっつけない方がいいですかね?」


「どーだろ。ひとつなら側面を壁につけるのが鉄板だけど二つだと頭側の方がいいかな?」


片方からしか乗れないと三人の場合めんどくさそうだし、ベッドを二つ以上並べてるホテルとかでも頭側を壁につけるのが多いんじゃないかな。


「なるほどー」


言いながら三人がシステムウィンドウを操作してベッドの配置をああだこうだと言いながら調整していく。


「これくらいでいいかな」


結局頭側を壁につけて左右にスペースを開けた配置に。


三人で寝てたらどっちか側から落っこちたりしそうかも。


なんてちょっと思ったけど、そもそもゲーム内で三人並んで寝る機会がどれくらいあるかもよくわからないかな。


「試しに寝てみたら?」


「そうですね」


ということで三人がごそごそとベッドにのぼって横になる。


「ん~、気持ち良い~」


「アイさんも一緒にどうですか?」


「んー、あたしは大丈夫。流石にそこに四人だと狭いだろうしね」


丁寧にお断りをして、三人が感覚を確かめている間にシステム家具を用意しておく。


とりあえず装備を収納できるクローゼット、バザーを見れるようになる専用端末、重ね着を反映できる鏡などなど。


別に絶対に置かなきゃいけないわけじゃないけど、使わない場合は家具専用の倉庫インベントリに入れておけば問題ない。




それから一階に戻ってリクエストされた膝の高さほどのテーブルと三人掛けのソファーと一人掛けのソファーをその左右に一つずつ、テーブルを囲むようにコの字に配置する。


こっちは五人分の席があるけどまあ来客用にもあったら便利だしね。


「なんだか思ったよりスペース余ってますね」


「ベッドを下に置いたおかげだね」


「うん……」


「まあ最初は足りないくらいがちょうど良いんじゃないかな。これから暮らしてくうえで欲しい物も増えるだろうし」


「そうかもですね」


ということで部屋作りは一段落したのでお茶にしようかという話になる。


あたしがティーセットを用意してテーブルに並べ脇の一人用ソファーに腰掛けようとすると、なぜか三人に手を引かれて三人掛けの真ん中に誘導された。


あたしの右にはノゾミちゃん、左にはアリスちゃん、そして膝の間にクロちゃん。


なぜ?


「やっぱり重いですか……?」


「いや、重くはないね」


実際膝にのせてるわけじゃなくて、膝の間に座ってるだけだしね。


まあいっか。


この体勢だとお茶が取れないけど、なんなら言ったら左右の二人が飲ませてくれそうだし。


開き直ってあたしの鼻先につむじがあるクロちゃんのお腹に腕を回して抱き寄せると、微かな違和感を覚えた。


「クロちゃんってもしかして、結構胸大きい?」


「ふえっ?」


「あっ、アイさん気付いちゃいましたか?」


普段は黒魔ローブのコーデだからわかりづらいし、ホーリーナイトの装備も金属胸当てだったから同上だったけど、こうやってウェストを両腕で絞ると確かにその上に存在する膨らみの大きさがわかる。


これは……、隠れ巨乳ってやつかな?


メカクレだけでも結構な属性なのに更に隠れ属性を持ってるなんてクロちゃん、恐ろしい子……。


「ちょっと揉んでみていい?」


「いいですよ!」


「だめ……っ」


流石に本人にお断りされたら触れないな。


実際に大きさを確かめるのはまたの機会にしよう。


どうせなら三人を誘って温泉にでも行こうかな。




「そうだ、これあげる」


お茶タイムが一息ついて、思い出したようにインベントリからアイテムを取り出す。


物は大きなシロクマのぬいぐるみ。


これが本当の新築祝い。


「わぁ……」


「ありがとうございます」


それは座高で1メートルくらいあるのでクロちゃんが膝の間に抱くと頭一つ分飛び出している。


「大切にしますね」


「うん、そうしてくれると嬉しいかな」


それから三人の膝の間を行ったり来たりしたシロクマくんは、最終的にソファーの一つに収まった。


あとで聞いた話だと、たまにアリスちゃんが抱いて寝たりしてるらしいけど、残念ながらまだそれを見れる機会は訪れていない。

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