025.バレンタインイベント②
『よく来ましたね、冒険者たちよ』
ラスボスかな?
語りかける女性の像に、あたしは忌憚のない意見を思い浮かべる。
『貴方達をここに招いたのには理由があります』
殺して内蔵をムシャムシャ食べるため?
『違います。私が預かっているこのラブリーカカオの本当の味を引き出すには、苦難を超えた二人の冒険者の愛が必要なのです』
ラブリーカカオて。
っていうか預かったって言ってるけど盗んだんですよね?
『違います。預かっているのです』
アッハイ。
『さあ、これを受け取りなさい。このラブリーカカオを使えば最高のチョコレートを作ることができるでしょう』
うん、まあいいか。
実際にこれを渡せばお礼としてNPCからチョコを貰えるのが毎年の通例だしね。
『あとここまで来てくれたお礼に二人の相性を占ってあげましょう』
急にフランクになった?
『むむむ』
横山三国志?
『二人の相性は! ……72%です!』
わーぱちぱちぱち。
「それで72%って凄いの?」
「どうでしょう……、低くはないと思いますけど」
なんてあたしたちの意見は無視してアナウンスは続く。
『今以上に仲良くなるには同じ時間を一緒に過ごし、関係性を育んでいくと良いでしょう』
アドバイスが普通だ……。
普遍的すぎてしょーもないとも言う。
『あとは二人の秘密などを共有する出来事があると仲が深まるかもしれません』
「それはもうやった」
「アイさん、それは秘密ですっ」
そうだったそうだった、まあNPC相手なら秘密のままだと思うけど。
でも、もうそのイベントは消化済みなのよねえ。
『なら逆でやればいいじゃん?』
「タメ口?!」
『では冒険者よ、またいつか会いましょう』
告げられると同時にふわっと舞い上がる風を感じて、そのままテレポートの時と同じエフェクトに包まれた。
「うわっ、まぶしっ」
ダンジョン内から一瞬で入り口まで転送されたあたしは、その直射日光に思わす目を細める。
「なんだか変な人でしたね」
「そうねー、実はただの恋愛脳なのかもね」
「恋愛好きのNPCってなんだか面白いですね」
「たしかにそうかも」
そんな話で二人でコロコロと笑う。
「ノゾミちゃんたちはまだ戻ってきてないみたいだね」
「そうですね。アイさん」
「ん? どうしたのアリスちゃん」
「折角なので、アイさんの秘密も教えてください」
「さっきのアレね」
と言われても急に思いつく秘密なんてあるかな。
あたしがコミュ障ぼっちなことは周知の事実だし。
「そうだ」
「なんでしょう」
「あたしね、メガネが好きなの」
「それは……、どういう?」
「正確にはメガネを掛けてる人が好きかな」
いわゆるメガネフェチというやつである。
「それは知らなかったです」
「人に言ったことないしね。あとアリスちゃんたちはメガネかけてないし」
「私もメガネ掛けた方がいいですか?」
「止めはしないけど、別にあたしを喜ばせても良いことは無いと思うよ?」
「……、とにかく覚えておきますね」
「うん」
覚えてる必要もないんじゃないかな?と思ったけど、ツッコんでもしょうがない気がしたので短く返事をする。
それと同じタイミングでノゾミちゃんたちがダンジョンから転送されて戻ってきた。
「おかえりー」
「おかえり」
「ただいま!」
「ただいま……」
「そっちも相性占いあった?」
「はい! アイさんたちもありましたか?」
「こっちは72%だったよ」
「いいなー、あたしもアイさんと相性占いたかったです」
「案外一桁とかだったりして」
「ひどい!」
「あはは、そもそもあの数字自体そこまで信用していいかはわからないけどね。ちなみにそっちは何%だった?」
「89%でした!」
「おおー、かなり強そう」
なんて話から中であったことについての話題で盛り上がって、特に三人が楽しそうに話しているのを見て思う。
こんな風に盛り上がれるのもイベントの良い所かな。
いつもあったらめんどくさいけど、たまにあるとちょっと楽しい。
そんなネトゲの定期イベントだった。
「それじゃあ帰りますかー」
「はい!」
「はい」
(コクリ)
ということで、イベントを済ませたあたしたちは街へ戻る。
そのままミミコネさんにアイテムを渡したお礼にチョコを貰ってみんなで食べた。
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