022.妹キャラ

「こんばんはー」


玄関が開くとともに、女子の声がみっつ聞こえてくる。


「こんばんは」


小さな身体でソファーからぴょんとおりて彼女たちに挨拶をすると、三者三葉に驚いた顔が見られた。


「わっ、えーっと、初めまして」


「初めまして、お姉ちゃんのフレンドの人ですか?」


「あっ、はい。アイさんのフレンドです」


「私はアイのリア妹です。BJびーじぇーって呼んでください」


「ブラックジャック?」


「あはは、よく言われます」


このゲームのプレイヤーネームはカタカナ、もしくはローマ字表記が使えるんだけど基本的にカタカナ優勢でローマ字を使う人はほとんどいなかったりする。


テキストでキャラネが表示されるような時の浮きっぷりとかすごいからかな。


逆に英語圏に行けばこっちの方が普通だったりするらしいけど。


「ノゾミさん、アリスさん、クロさんですよね。お姉ちゃんがいつもお世話になってます」


「いやいや、こっちの方がいつもお世話になってるくらいで」


「そうなんですか? お姉ちゃんから聞いた話だといつも遊びに誘ってくれる人たちっていう印象でしたけど」


「それは、そういう時も無くはないかな?」


「ふふっ、立ち話もなんですからどうぞ座ってください」


「お邪魔しちゃっても大丈夫ですか?」


「はい、お姉ちゃんは多分今日はログインしてこないと思いますけど、シェアハウス設定で家具とかは使えるのでおもてなしくらいならできますよ」


「それじゃあ……」


「どうぞどうぞ」


三人をソファーへと促して、私はキッチンで紅茶を淹れる。


「どうぞー」


「ありがとうございます」


「いただきます」


テーブルにカップをみっつ並べて、その向かいにひとつ。


「美味しいです」


「うん……」


「それなら良かったです」


喜んでもらえたようでよかった。


「でもアイさんに妹さんがいるなんて知らなかったです」


「そうですねー、お姉ちゃんはあんまりリアルのことは話したがらないので、多分偶然こうやって会わなければ紹介する気もなかったと思いますよ」


ちなみに外で出会ってあの人の妹だって言ったら疑われるかもしれないけど、今はマイホームの権利権の一部を使っているので少なくともフレンド以上の関係だとは納得してもらえるんじゃないかな。


「あと私はあんまりこのゲームにログインしないので、紹介しなくても遭遇することはないと思ったんじゃないかと。逆にお姉ちゃんは暇さえあればログインしてますしね」


「あはは、そうですね」


「アイさんってうちではどんな感じなんですか?」


「あー、言うと怒られそうなので秘密ってことにしておいてください」


「あっ、そうですよね、すみません」


「いえいえー、あと敬語じゃなくていいですよ。こんな見た目ですし」


言って広げた両腕は1メートルくらい。


身長も相応で、学生に見える三人より更に一回り以上小さい。


初期選択の種族だとここまで小さくはなれないので、小人族でキャラクリしている小学生サイズだ。


「それじゃあ、BJちゃん」


「はい、ノゾミさん」


ちゃん付けで呼ばれるのには慣れてないけど、嫌じゃないかな。




「今日は部屋を見せてもらおうと思ってきたの」


「そうなんですねー」


私が彼女たちに訪問の理由を聞くと、そんな返答。


お姉ちゃんがログインしていないのはフレンドリスト見てればわかるだろうから自然な理由かな。


「私でよければ家具とかも出せますよ」


「ほんと? それじゃあお願いしていいかな?」


「はい~、そっちに座ってもいいですか?」


「うん」


ということでテーブルの反対側に回って、ノゾミさんの膝の間によいしょと腰を下ろさせてもらう。


「まずは何を見ましょう?」


「んー、やっぱりベッドがいいかなー」


ということでリクエストに応えてカタログを呼び出すと三人の視線がそっちに集中する。


「なにかリクエストとかありますか?」


「なるべく小さいやつがいいかな、Sハウスにみっつ並べられるか確認したいかも」


「なるほどー」


ということで、カタログの中から一人用でもこじんまりとした物を試しに呼び出す。


「これでも思ったより大きいね」


「やっぱりみっつは難しいかな」


「ひとりは……地下……」


それは悲しい。


「それならいっそ大きめのをふたつ並べてみたらいいかもですね」


部屋の家具をいくつか片付けて、代わりに大きめのベッドをふたつ、ぴったりとくっつけて並べてみる。


「どうでしょう?」


「これなら結構良い感じかも!」


「そうね、部屋にも余裕があるからこれなら残りのスペースに家具も置けるかも」


「試しに……、寝てみて……、いい?」


クロさんが靴を脱いでベッドに登って横になると、あと二人ならなんとか寝れそうなスペースが残る。


「私も」


アリスさんが続いて横になると、空いてあるのは真ん中のスペース。


「BJちゃんも一緒に寝てみる?」


「いいんですか?」


「うん」


手を引かれて、ベッドの足側からノゾミさんと一緒にクロさんとアリスさんの間に挟まる。


三人でギリな計算だった所に四人寝たら同然狭いんだけど、それでも全員仰向けで寝られるくらいの広さはあった。


まあ思いっきり肩が触れてるから、やっぱり窮屈ではあるんだけど。


「なんだか修学旅行みたいですね」


「たしかに」


四人でコロコロと笑うとその拍子にアリスさんと肩がぶつかってしまう。


「あ、ごめんなさい」


「大丈夫」


半身になってこちらを見る彼女が両腕を伸ばす。


「こっち、来て」


「はい」


そのままアリスさんの方へ身を寄せると、両腕でギュッと抱きしめられた。


「わっぷ」


身長差で私の顔が彼女の胸に埋まる。


体勢の関係で表情は見えないけど、頭を撫でられる手付きが優しいので案外気に入られてるのかもしれない。


「アリスずるい!」


声と同時に、背中にぎゅっと圧迫感。


「わ……、私も……」


追加でもう一度背中に押される感触。


気付けば狭いベッドで更にくっついて、ベッド1個分くらいの幅に四人で密着している。


そのまま四人で女子会的にはしゃいでいると気付けばアリスさんとノゾミさんは寝てしまっていた。


う……、動けない。


外側二人が活動停止してしまったので隙間に挟まれて脱出は難しそうだ。


まあ二人を起こしてもいいなら強引に脱出できなくもないけど、そこまでするほどなにかしたいことがあるわけでもないかな。


「BJちゃん」


「はい」


生き残りのノゾミさんの声がつむじの上から聞こえる。


「今日は急にお邪魔しちゃってごめんね」


「いえいえ、みなさんと一緒で楽しかったですよ」


「そっか、よかった」


楽しかったのは本当。


流石に毎日だとめんどくさくなるだろうけど。


「また遊んでくださいね、ノゾミお姉ちゃん」


「……、もう一回言ってくれる?」


「ノゾミお姉ちゃん」


「……、BJちゃんうちの子にならない?」


「あはは、考えておきますね」


ネトゲでうちの子になるとは?と思わなくもないけど、そんなロールプレイも楽しいかなとなんとなく思えた。


それから少しの間二人きりでお話をして、段々と言葉数が少なくなってきた所で眠気に身を委ねることにする。


「BJちゃん、おやすみ」


「ノゾミお姉ちゃん、おやすみなさい」


そう言ってお互いに眠りにつく。


Sハウスに四人分の寝息が聞こえるのは、ある意味レアなシチュエーションだったかもしれない。

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