018.ログイン待ち15分
いつものようにログインすると、昨日ログアウトした自宅ではなく真っ白な空間に転送された。
お、珍しい。
ここはログイン待ちエリア。
プレイヤーが一斉にログインしようとした時に、本サーバーの負荷軽減のために一時的に送られる場所だ。
ちなみに何もない空間なのは通信容量削減のため。
流石に本当に何もないと虚無すぎるので、他のプレイヤーたちといくらかの遊び道具はあるけど。
ここもゲーム内という扱いになるのでシステムウィンドウを呼び出すことができ、フレンドのログイン確認なんかもできる。
リサとマスターはもう本サーバーにログイン済みで、ノゾミちゃんたちはまだログインしてないみたいだ。
メンテ明けからちょっと待ってログインしたから待機回避できるかななんて思ったりもしたんだけど、流石にメインアプデ初日はそこまで甘くなかったらしい。
まあ今回の中規模アプデじゃなくて大規模アプデだと、数時間待ちでゲーム遊ぶってレベルじゃねーぞ!って感じになったりもするので今日はマシな方かな。
システムウィンドウに表示される推定待ち時間は15分ほど。
旧来のモニター越しにプレイするネトゲなら放置して他の事してればそれでいいんだけど、ここはVRMMOなのでそういうわけにもいかない。
とはいえ周りに沢山いるログイン待ち仲間な人たちはめいめい楽しんでいるけれど。
ゲーム内の身体能力を使って格闘技をしてる人、鬼ごっこをしている人、トランプをしている人など様々だ。
ちなみに転送でベッド付きの個室にも行けるのでそっちで寝ててもいいよ。
あたしもそれでもいいんだけど、折角だし混ぜてもらおうかな。
まああっちの陽キャ集団には流石に混ざりに行けないけど。
ほらあたし、コミュ障なんでね。
ということで周りを見て、四角い机の人の居ない一面に寄る。
「ここ空いてますかー」
「ええ、どうぞー」
迎えてくれたのは三人。
向かいに一人、左右に一人ずつ。
そう、麻雀卓である。
最近は地位向上してるらしいけど、やっぱり麻雀って陰の遊びよねー。(個人の感想です)
「それじゃあよろしくお願いしまーす」
言いながらシステムウィンドウでルールを確認。
このゲームだと待ちから点計算までシステムが補助してくれるからリアルでやるよりずっと楽ちんだ。
それにどうせログイン可になった人間から抜けていくので基本的に一局一局の勝負で気軽だしね。
一応ログインは保留もできるけど。
ということで親決めが終わり配牌を取っていく。
親は右手の小人族の男の子。
その小さい見た目に似合わず牌の扱いは堂に入っているので段位持ちかもしれない。
対面は竜人族のお姉さん。
首筋に浮いている鱗が特徴的で大きな胸がぱっくり開いたセクシーな格好をしている。
左手は猫耳族の男性。
猫耳族♂はシュッとしたイケメンを作りやすいからネナベ率が高いと聞くけど、まあ見ただけじゃわからないよね。
「ポン」
猫耳族の彼が鳴く。
早仕掛けだ。
まああたしは特段頭が良いわけでもないので麻雀もそんなに得意なわけじゃないので、どんな時でも無難に面前重視で怪しければベタ降りする防御重視型。
点数計算くらいは素でもできるけど、牌効率はガバだし読みの精度もそんなにだし清一多面張を見てもその待ちと点数を数えるのに指が止まる程度。
なにより3人分のツモ切りと手出しを覚えられなかった時点で真面目に勉強するのは諦めたのよね。
なのでまあ気楽に、牌を回しながら雑談を持ち掛ける。
「そういえばパッチノート見ました?」
「見た見た、僕はメインガンナーだから上方修正はかなり嬉しいかな」
「火力結構上がりそうですもんねー。コンテンツ次第ですけど総合でDPS1割くらい上がるかも」
「ここしばらくは他のジョブに比べてパッとしなかったからありがたいよねー」
「個人的には白魔が使いやすくなりそうなのがいいですねー」
「火力はそこまででもないけどプレイフィールは良くなりそうだよね。あっそれポン」
「強くても使ってて気持ち悪いジョブってだるいしなー」
「逆に強くて使うのを強要されるから迷惑まである」
「あるある」
「あとUI拡張されるんだっけ」
「あーこれですねー、ジョブアイコン」
視界を意識してプレイヤーネーム表示モードに切り替えると、名前と一緒に自分のジョブアイコンが浮いているので指で指してみる。
「確かにこれなら味方の配置分かりやすくなるかもな」
「ヒラタンとか私服だとどこーっ?ってなりますもんねー」
「あるある」
「ヒール貰いに行かなきゃいけないのにどこにいるかわからない時の焦る感じ半端ない」
「わかるー。それロン」
「おっと」
なんて雑談を交えながら東三局。
そろそろ時間かなーと思いながら時計と手配を確認しつつ話題を振る。
「そういえば皆さん鯖はどこですか? あたしはダイヤモンドです」
「僕はサファイアかな」
「ルビー」
「エメラルドです。見事にバラバラですね」
「ですねー」
サーバー人口は通信容量の関係で均等化することが望まれるが、サーバーを超えてのマッチングもできるのでプレイヤーにとってはさほど気にするほどの要素ではない。
なんなら遊びに行けるしね。
所属サーバーで重要なのはクランメンバーが同鯖制限なのと、バザーの品揃えが仕分けられてるので買い出しに行くのはちょっと手間ってことくらいか。
要するに同じサーバーのプレイヤーだとバザーの商売敵になる可能性があるけど他鯖ならさほど影響がないって感じ。
「データベース見てて気付いたんですけど、新装備に光の粉を大量に使うみたいですねー」
「へー」
「じゃあログインしたら交換してバザーに出しとこうかな」
「まだ確認できないですけど、もしかしたら値上がってるかもですね」
光の粉というのはデイリーボーナスでもらえるコインで交換できるアイテムのひとつ。
新装備の素材を確認するか交換品の相場を確認すれば自然と高騰するのに気付くだろうからちょっとした小遣い稼ぎのお話。
そんな話にみんなの気がちょっと逸れたタイミングで、あたしは牌をツモってパタンと倒した。
「ツモ。2000/4000」
「えっ!?」
まだ5巡目で高目テンパイを警戒するには早い巡目だったので驚きの声が上がる。
それと同時に、ピコンとログイン可能のお知らせが鳴った。
「いやー、お見事」
「ありがとうございます」
「1位おめでとう」
「3局しかやってないのでほぼ運ですけどね、ありがとうございます」
「じゃあ1位記念にこれあげる」
「あっ、どうも」
小人族さんから渡されたのはダイヤモンド。
リアルなら貴重品だけど、ゲーム内だとバザーで安価だから飴ちゃんひとつくらいの感覚かな。
「じゃあ俺はこれで」
猫耳さんからは鉄インゴット。
リアルだと重くて邪魔の極みだろうけど、ゲーム内ならインベントリにそのまま収納できるから問題ない。
「ん」
竜人族のお姉さんからは炎と風の魔石。
「これってそういうことですか?」
「ん」
そういうことらしい。
手を差し出したお姉さんに賞品一式を渡すと、彼女の視線がこちらに向く。
「部位のリクエストは?」
「じゃあお任せで」
「ん」
頷いた彼女が細工師にジョブチェンジして、棚の前でカンカンカンと金槌を叩くとダイヤモンドを中心にあしらったイヤリングが出来上がった。
「ん」
「ありがとうございます」
それを受け取って左耳につける。
「似合ってますよ」
「いい感じ」
「悪くない」
「ありがとうございます」
出来上がった賞品とお褒めの言葉に素直にお礼を返す。
バザーを使えば多分1000ゴールドくらいで手に入るダイヤのイヤリング。
それは大して貴重なわけじゃないけど、ちょっとだけ記憶に残るかもしれない品で、これくらいの場の景品には丁度いい気がする。
三人で示し合わせたとかじゃなく最初がダイヤモンドだったからノリで合わせたんだろうけど、たまにはこういうのもいいんじゃないかな。
「んじゃ僕も」
気付けば全員が待ち時間を終えていたようで、手を挙げて挨拶をして各々自分のサーバーにログインしていく。
「さいならー」
「バイバイ」
「おやすみー」
「いや、これからが本番ですけどね」
偶然卓を囲んだ三人は他のサーバーの住人だし、おそらく再び会うことはないだろう。
それにもし会ってもその時には覚えていないだろうし。
だけど、こういう一期一会もMMOの楽しみ方のひとつかな。
そんな風に思いながら、あたしも左耳のイヤリングの感触を確かめつつ、自分の鯖への転送ボタンを押した。
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