14 移動の仕組みと壁の中身

「俺の移動は、物と物の位置を入れ替えるってのが基本ってことは皆知ってるだろ?」


 トイスの言葉にアルパ以外の三人が頷く。


「移動する時、俺等とその連れや物だけでなく、周囲の空間も一緒に動く。で、それを見越さないと」


 ああ、とレンテは頷いた。


「重なってしまうものがあるんですね」

「ああ、まあ実際のところ、地面の草とかは結構被害に遭ってると思うけど、そこまでは気にしなかった。だけどその時は、ちょっとぎりぎりまで木に近付いてしまっていて」


 こう、とトイスは手で曲線を描く。


「木の幹がえぐれてしまってたんだ」


 ありゃ、と三人は口を歪めた。


「だからいつも広々とした場所を用意してもらっていた訳で…… って、お前等全然気付かなかった?」

「ごめんなさい私は全然」

「俺の力はそういうややこしいの、無いからなあ」 


 そう言ってビートはふわりと自身を浮かす。


「まあそう言ったって、仕組みはわかんないけどな。だから中に飛び込むってのは危険だってこと」


 だねえ、と皆で頷いた。



 そこでとりあえず、レンテがマティの視界から割り出した地点の手前まで再び移動する。


「おお~、見事に何も無い」

「いえ、そんなことないわ」


 マティッダは目を細めた。


「あそこに可愛げの無い石のお尻が出ているわ」


 そう、彼等の視界には向こう側の景色が遠く見えているはず――なのに、一部分だけ遠近法を無視した様なものが浮いているのだ。


「マティ、それがどんな石か分かりますか?」

「どんな?」

「石そのものに焦点を合わせて僕に送って欲しいんですが」


 アルパカタも頷く。

 今度は一つのものに焦点を合わせ、それをどんどん深く深く、そして視界の中で拡大していく。


「……え」


 レンテの表情が落ち着かなくなる。


「どうしたんだよ」

「マティ、少しずらしてくれますか?」

「はあい」


 少し、と言っても拡大された視界においては石の成分が相当量見えているはずだった。

 レンテはそこからどんな石造りであるかで建てられた年代等を探ろうとしていた。

 なのだが。


「ちょっと皆も見てください」


 どうしたの、何だ、と不安と期待の混じった声に反応する。


「いいですか、少しじっと見続けていてください」


 何なんだ、と思いつつも皆壁を構成する石の細部を見た。

 見たつもりだった。


「え、ちょっと待ってくれ、何で石の中がうねうね動いてるんだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

兄皇帝からのお願いです。鉄道を通すために、見つからない街を探しに行かねば。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ