13 十年前に消えた都市・イルトタムリ

「やっぱりアレですかねえ」


 視界の連結を切った途端、レンテがつぶやいた。


「アレって何?」

「ビート、一応旅行家なら聞いたことがありません? イルトタムリのことを」


 いるとたむり? と他の三人は聞き慣れない単語に首を傾げた。


「あー、消えた都市とか何とかどっかで聞いた様な無い様な」

「十年前のことですよ。一応この辺りだったはずなんですが」


 そこでレンテは表情を曇らせた。


「何でそのことに陛下が気付かれないのか、なんですよ」


 詳しく、と皆が彼に対し話を迫る。

 そこでレンテはかいつまんで「消えた都市・イルトタムリ」のことを説明し始めた。


「十年前に音楽技師と歌い手の祭りがその都市であったんですよ。ところがその祭りが終わっても誰も戻ってこない。中には官立音楽専門学校の教授も居たので捜索の手が回ったはずなんですが」

「が?」

「そこから先が、記録されていないんです」


 何じゃそりゃあ、とトイスは呆れた様に言った。


「で、その場所がこの辺りなんですよ」

「ちょっと待って、じゃ、陛下がイルトタムリのことを知らないってことは」

「いえ、十年前だったら、まだ陛下が即位するかどうかの辺りでしたので、帝国の一部で行われた、あくまで音楽の関係者だけが集まった祭りでしたら、……まあ、特に政治に関係する訳でもないですし、陛下は音楽にさして興味がある訳でもないですから、情報が回って来なかった可能性があります」 


 何しろ帝国の版図は広いのだ。

 広いからこそ、大半はそれぞれの場所を元々支配していた者達に治めさせているのだ。


「全てを把握するのは無理でしょう。そもそも陛下は鉄道だから今回気付かれた訳で。もしそれが無かったら、イルトタムリのことなど本当に消えたままだったんではないかと」

「それでも帝都から歌姫が消えたりしたら?」


 マティッダは問いかけた。


「ううんマティ、帝都で一人歌姫が消えたくらいなら、何の事件にもならないわよ」


 アルパカタは首を横に振る。


「いつだって歌姫はその地位を上げたいと切磋琢磨しているじゃない。上がれずに絶望して消えていく者なんて数知れず。中には嫉妬で陰で消されてるひとだって居るし」


 怖っ、とマティッダは身を震わせた。


「それでも旅行家の中では、消えた都市の噂はそれなりにあったよ」


 ビートも口を挟む。


「皆ともかく見たことないところに行きたがっているし、それを誰かに伝えたい人ばかりだからさ。俺だってそうだよ。ただ何処にあるかまでは誰も今一つはっきりしたことを言わなくて」

「それじゃ、とりあえず次に飛ぶところは、さっき壁のあったあたりの近く、でいいんだよな?」


 トイスは皆に訊ねる。


「中には行けないのですかね」

「……ちょっと危険だな」

「危険?」

「アルパとこの力が出てきた時に、色々試したことがあるんだけど、基本は俺と俺の近くにあるものが飛ばせる。だけど、昔たまたま俺とアルパが一緒に飛んだ時、側に木があったんだ」

「ちょっとあれは怖かったわよね」


 そう、その時は太い木の幹がえぐれたのだ。

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