5 再会④皇帝陛下はご機嫌よろしゅう

「それじゃ行きましょう」


 アルパカタの邸内、皆それなりの格好に着替えて後、――いや、約一名は風呂にも入らされたが――広間に集合した。


「時間もよし」


 レンテは眼鏡の位置を直しつつ懐中時計を見る。


「あらそれ、前に見たのと違うのではなくて? 小型になったのでは?」

「おやマティよく気付きましたね、帝都の工房で最近試作として出来たという、温度変化にも強いという一品で」

「はいはい、だからその正確な時間なので行くぜ」


 皆で円陣を組み、手を乗せ合って。



「やあ、時間通り」


 床といい壁といい窓の色ガラスといい。

 市松模様が配置されたその部屋には、にこやかに笑う三十代前半の男が、移動した彼等の目の前に居た。

 彼等は円陣を解くと横一列に並び直す。


「お召しにより我々皇帝陛下の御前に参上致しました」

「うん、皆元気そうで良かった。さあ座って座って」


 部屋の中にはマティッダが「見た」限り、皇帝の他に誰も居ない。


「ああ、君等に会う時には基本誰も寄せ付けないよ。だって私の至極個人的な頼みだからね。それこそ影も外で待たせてるくらい」


 マティッダの表情が引きつる。

 一応伯爵夫人として暮らしている彼女にとっては、皇帝ともある者がそんな無防備であることが信じられなかった。

 そんな皆の表情を読んだのか、皇帝は続ける。


「悪いけど私は知力体力時の運によってこの地位に就いた者だ。それにそもそも、この場で私に対し突発的な敵意が余所から感じられたら、君等がまず反応してくれるだろう?」

「ああそうでした、前回もそういうやりとりがありましたね……」


 レンテは大きく頷いた。


「僕等の後ろ盾は陛下しか居ないのだから、絶対に危険に曝すことができない、という確信の上。僕等自身がこの大陸から皆で結託して抜け出そうとしない限りは」

「そうそう。良く覚えていたねえ」


 ぱちぱち、と皇帝は抑えた音で手を叩く。

 そう、現在の彼等が誰にも害されることなく帝国版図で生きていけるのは、この現在の皇帝のお墨付きのおかげだった。

 彼等にとっては異母兄。

 十年前に皇帝選抜レースによってその地位に就いた覇者。

 一方、彼等はと言えば。


「陛下のおかげで日々楽しく職務に就かせていただいております」

「うん、ああ、特にビート、君の旅行記は本当に興味深い」

「えっそうですか」


 普段と違う格好に、窮屈なのかもぞもぞとしていたビートは、皇帝の言葉にぱっと表情を輝かせた。


「お役に立てて嬉しいです。俺なんて、母上すら使えない奴って常々言ってたのに」

「そんなことないよ。君の様な冒険心溢れる者など、今の帝国にどれだけ居ることやら。それこそ君等の異能の元となったご先祖の時代なら溢れていただろうが」


 それを聞いてアルパカタはああまたその件を思い出させるのか、と感じる。

 異能――

 先祖返りのそれは、彼等にとっては諸刃の剣だった。

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