6 皇帝陛下のお願い①そもそも帝国の皇帝って

 そもそもこの帝国は一人の並外れた異能者によって始まったとされている。

 それがどの位並外れていたか、というのは現在では文献によってしか知るよしも無い。

 ともかく遠い昔の時代、世界の形など誰も知ることができない様な頃に、既に世界に「大陸」と「その外」があることを知っていたと。

 そしてその大陸内での各国各部族間での争いがあることに対し「ああそれすげえ無駄だよないろいろ」と言い放ち、現在の帝都辺りにあった小国を根城に、一人ひょいひょいと立ち回った。

 どの様に立ち回った結果なのかはここでは詳しく述べない。

 だが「戦争ってー、人命と物資の無駄だしー」と言い切ったその人物は小国そのものを「帝都」とし、従わせたそれぞれの地をそれぞれの習慣文化のまま、睨みを効かす存在として君臨することに成功したのだった。

 なおこの初代皇帝となった人物は、自分がその地位に就いて一人、最高の地位です! うはうは♪ とすることには関心が無かった。

 支配そのものに興味も無かったらしい。

 なので生きている間に実利的な統治システムと、帝位自体に執着させない選抜方法を代を重ねるごとに定着させていったということである。

 その一つ、次代皇帝の選抜方法は。

 まず、初代皇帝はともかく実に公平に各部族、国から自分の子を産むための女を差し出させた。

 彼女達のために後宮が作られたが、その扱いは決して贅沢や優雅とは縁遠いものであった。

 無論、当初は女を差し出す側にも誤解はあった。

 属国における王制で正妃以外に側室を持つ場合と同じ様に考えて選んだところは拍子抜けしたともある。

 初代皇帝はそれぞれに子供を産ませることが目的でしかなく、自身の配偶者としては、別に皇后を立てた。

 それは現在に至るまで同じである。

 この皇后にしても、必ずしも権力がどうの、という存在ではない。

 何より彼女から生まれた子供はまず最初に次期皇帝候補からは除外される。

 後宮の女達は公平に妊娠させられ、できなかったら里から次が来る。

 それぞれの後宮の「部屋」から出揃った子達は共に教育される。

 ここで彼等はきょうだいというにはやや他人に近い感覚で育てられる。

 その中で次期皇帝に自身が向かないと思った者は辞退する。

 皇帝になること自体、能力として男女は問わない。

 ただ女帝になると次代の問題が出る。

 そこで皇帝にはある程度の即位期限というものも作られた。

 上限は四十年である。

 が、実際は上限まで居続ける者はそうそう居ない。


「そりゃあ、やっぱり疲れてくるしなあ」


 現在アルパカタ達の目の前に居るこの皇帝は、そう言ったことがある。

 彼女はそう言われた時、自分達に当初から即位の資格が無くて良かった、と思ったものだった。

 異能の先祖返りは時々起こる。

 だが初代は自分以降に異能を持つ子孫には即位の機会そのものを与えない様にと決めてしまった。

 異能持ちが下手に担ぎ出されたら厄介なのは、そもそもの当人が良く知っていたかららしい。

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