3 再会②お前はいったい何処に居るんだ?

「うっうっう…… 皆すぐ帰るからね……」

「いやすみません、我々にはちょっとそれを断言できません」

「そうなんですそもそも今回の用件がはっきりしない以上」


 泣く泣く子供達と離れたマティッダを近くに引き寄せると、二人は夫君へと一言添える。


「ええ、解っておりますよ。以前もそうでしたでしょう?」


 若き伯爵は、子供達を自分の方に留めて温和に、だが切なげに微笑む。


「ともかく無事であればいいからね。お役目しっかり」

「貴方~」

「ではすみません彼女をお借りします」

「ごめんねお母様をしばらくお借りして」


 そう言うと、三人は伯爵邸の前庭から姿を消した。



「やあ」


 揺らめいた空間の向こう側は、ぽつんと小屋が一つ建っているだけの草原。

 その小屋の前に、丸眼鏡をかけた小柄な巻き毛の青年が手を振っていた。

 手には小さな、だががっちりとしたトランク。


「手ぶらでいいって言っていなかった? レンテ。そもそも旅の用意は……」


 それはそれ、と言ってレンテはトランクを胸に抱きしめる。


「僕には僕にとって必要なものがあるし」

「いやお前、それを言ったら俺の馬だってなあ」

「トイス、馬はこのトランクの何倍の重量があると思ってるの?」

「えっ」


 計算を要求される様な問いかけをされるとトイスは弱かった。


「ともかく、このくらいは体重の変化程度の誤差でしょ。それに僕のものだ、という意識がしっかりしていれば大丈夫じゃない? だって僕等、そうでなかったら、トイスに飛ばされた時に素っ裸になるでしょ?」

「ああ止めてそんな恐ろしいこと!」


 マティッダは思わず頬を染めて顔を手で覆った。


「だからトイスの飛ぶ能力の条件っていうのは、認識の」

「やめやめやめ」


 トイスはばたばたと大きく手と頭を振った。


「そういう理屈はお前に任せることにしてるだろ? 俺等の『頭』なんだから。今は俺等の『手』の位置を割り出すことにそのよく回る頭は使ってくれや」

「そーだね。じゃ、やろうか」


 皆それには黙って頷き、アルパカタの手だの肩だのに手を置いた。

 彼女は心話を所在不明のビートに向かって飛ばす。 


『皆揃ったわよ。マティと視界を繋げるから、周囲をぐるりと見渡して頂戴』

『こんな感じでいいか?』


 ビートののんびりとした心話が届く。


『あらあ…… ずいぶんと鬱蒼とした……』

『今そっちは何時?』

『11時28分』

『で、太陽がその辺りで…… 冷える?』

『ちょっと山だし』

『その山どの道から入ってきたの?』


 共有する視界とそれまでの道中の情報かレンテは熟知している地図と地形、その他気象条件等から現在相手の居る位置を特定しだす。

 彼等の中でレンテが「頭」ビートが「手」というならば、移動するトイスは「足」。

 視界を「繋げた」というマティッダは「目」。

 そしてアルパカタはそんな彼等の能力を中継し制御するターミナルであり司令塔――いわば「心」だった。

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