2 再会①馬の上からこんにちは
「おー? しばらく見ないうちに、アルパ髪伸びたなあ」
「久しぶりに会うのにそれ? レンテ貴方はいつもちょっと額剃り込み過ぎじゃなくて!?」
アルパカタは馬上から声を張り上げる相手にやはり怒鳴る。二つに分けた長い髪が揺れる。
彼等が落ち合ったのは帝都-北東辺境領の直通道の上。
帝都と北東辺境領には凍土を避け、一年中馬が走りきることができる道路が通っている。
北東辺境領の者達であるならば、凍土であれ器用に馬を走らせる術を知っているが、逆はそうではない。
大きめの幌馬車が行き交うことができるくらいの幅の道を整備したことで、帝都と北東の人と物の行き来は大きく変わった。
幾つかの場所に宿場町が小さいながらもできた。
その一つ、リルタイでアルパカタとトイスは再会したのだった。
「馬は預けておけばいい、との仰せ」
「ええーっ?」
トイスは大きな声を張り上げた。
「嫌?」
「そりゃあ嫌だよ。愛する俺の馬を……」
「じゃあ貴方、馬も連れて飛べるの?」
ぐっ、と彼は言葉を詰まらせた。
「今のところ、貴方に属するものをどのくらいまで持っていけるのか分からないのだから、その愛する馬を危険にさらす訳にはいかないでしょ?」
「あーもう。女官様は口が回ることで!」
そう言いつつも、彼は馬を下りると、アルパカタが既に手配していた宿に馬を預けることにした。
「連絡は届いております。皇宮の女官様ですね」
「すみません、いつまでお願いしたものなのか、今は分からなくて」
「ようございます。お仕事ですか、大変でございましょうねえ」
柔和な笑顔で応える宿の主人にトイスは自身の馬の手入れについて、これでもかとばかりに頼み込む。
もう気が済んだだろう、というあたりでアルパカタは彼をうながす。
二人はその宿なり道なりから少し離れた林の中へと歩みを進めた。
「まあこのくらいでいいかな」
「そもそもさっきの道だって人気があった訳でもないでしょうに?」
「本当にお前は昔っから減らず口が多いなあ!」
「貴方は昔から本当に馬のことばかりで!」
止めておこう、ととりあえず言い出したのはどちらからか。
「そんじゃ」
「うん」
トイスは手を差し出し、アルパカタはその手を取る。
『マティ!』
心話を飛ばす。
『了解よ…… うちの前庭には誰も入れない様にしてあるわ』
『視界を繋げて』
途端、心話の先――マティッダの視界が二人のそれと重なる。
行くぞ、とトイスはぐっとアルパカタの手を握る。
次の瞬間、彼等は林の中から消えていた。
*
その朝、南西辺境領に接した領地を持つイルトリヤ伯爵の邸では、奥方が三人の子供達を交互に抱きしめては、おいおいと涙を流していた。
「ああもう、君の美しい顔が台無しだよ」
若い伯爵は、妻の背を抱きながらそうなだめる。
「だってあなた、お役目が終わるまでこの子達と会えないのよ。これが泣かずに居られますかって」
「ああマティ、それは僕も同じだよ! 君が居ない毎日は凄く寂しくて寂しくて……」
そう言っている館の前庭の空間が不意にゆらり、と歪んだ。
「……ええと…… お邪魔だったかしら」
「お邪魔よ!」
現れた異母姉アルパカタに、イルトリヤ伯爵夫人マティッダはうるんだ目のまま、すかさず返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます