友達の過去に修羅を見た

第1話 邪羅威と羅刹と烈

「てめえがいちいち挨拶だけで来るタマかよ。なんの用だ?」

「心外だな。俺だって挨拶くらいしに来るんだぜ」

邪羅威が肩を揺すり笑う。

「近々一緒に仕事をするんだから仲良くしてくれよ」

えっ……

この人たちが私たちと……烈と一緒に!?

私の頭をよぎったのは、以前、烈と邪羅威が遭遇したときのこと。

この人たちと烈には何かしら因縁がある。

それなのに一緒に仕事をする!?

「は?なにを寝ぼけてやがる。俺がてめえらと組むわけねーだろ」

「そうやって仕事に私情を持ち込むようじゃあ、ガキの証拠だな」

邪羅威の顔から一瞬、笑が消えた。

「なにっ」

「なにも聞いてないの?呆れた」

羅刹が鼻で笑う。

「おまえの保護者に聞いてみるんだな」

「シュウに……」

烈は驚きと困惑が混ざり合った顔をした。

「どちみち私たちが受けた以上、あなた達には出る幕ないかもね」

羅刹は言いながら、烈から私に視線を移した。

「じゃあな烈。おまえと組めるのを楽しみにしてるぜ……ククッ……ハハハハハッ」

嘲るような笑いを残し、邪羅威と羅刹は夜の闇に消えていった。

「烈…どういうこと?あの人たちが組むって」

「わからねーよ。シュウに聞かねえ限り……あの野郎、どういうつもりだ」

烈の声には苛立ちが紛れていた。

「ねえ?あの二人と烈はなんの因縁があるの?」

私が聞くと烈は心を落ち着けるように息を吐いた。

「前にも言ったろ?他人には関わりのねえことだよ」

「でも……」

「とにかく、詳しいことはシュウに俺が聞いておくから唯愛は心配するな」

私の肩をポンと叩いた。

「うん……」

その日、烈は私を家の前まで送ってくれた。

別れるときはいつもの烈だったけど……

心配するなって言われても、心配しちゃうよ……


翌朝になっても気になって仕方ない。

「はあ~……」

朝からため息が出た。

「どうした唯愛」

「ねえ。圭吾さん。男同士の因縁ってなに?」

「は?なんだそれ?」

圭吾さんは目を丸くした。

「ちょっとね…仲悪い同士の男がいて、どうも訳ありっぽいの」

「そりゃーコレ絡みでしょう」

政が小指を立てていった。

「コレ?女ってこと?」

「人間関係、たいてい仲が拗れるって言ったら金か異性。女の子もそうでしょ?今まで仲良かった友達でも同じ人好きになったら険悪になるとか」

「ああ……それあるかも」

竜二の言葉に私は納得してしまった。

「おいおい。朝っぱらからコレだ金だとやめねーか」

「「すんません」」

圭吾さんに叱られて二人がしゅんとする。

「なあ、唯愛」

「なに?」

「もしかして……男っていうか、彼氏できたのか?そいつ絡みで気に病んでるのか?」

「ブッ…ゲホッ!!」

味噌汁を飲んでる最中に言われたから咽た。

「ちょっと!圭吾さんまで朝っぱらからなに言ってるのさ!」

「ああ…すまん!その…気になっちまってな」

「彼氏とかそんなんじゃないから」

「そ、そうなのか」

ちょっと安心したような圭吾さん。

なにを心配してたのよ?

「烈よ。烈」

「烈って?あの烈か?この前きた」

「うん」

烈は年が明けてから朋花と日向と一緒に家の新年会に来た。

圭吾さんとは久しぶりの再会だったから、圭吾さん喜んでたな……

「あいつがそんな背負いこむタイプには見えなかったけどな」

圭吾さんが首をひねる。

優等生モードの烈しか知らないのだからしょうがない。

「でも、考えてみりゃあ、あいつも複雑な育ちだ……ああ見えていろんなもんを抱えてるのかもな」

「でしょう?気になっちゃって」

「唯愛は自分から聞いてみたのか?」

「うん。でも゛他人には関わりない″って言われた」

「へ―!あんな優しい顔して強く言うね」

政が驚く。

「まあ、人に話すのに勇気や決意が必要なことってあるからな……そっとしといてやれ。言いたくなったら向こうから言うだろう」

「わかった」

結局は烈が自分から話すのを待つしかないか……

ふう……

急に羅刹の顔が私の頭に浮かんだ。

もし烈と邪羅威の間の確執が政や竜二に言うように「女性」だったとしたら!?

羅刹が関係あるのかしら……?

あの人は美人だからなあ……

女の私でもムラムラするっていうか、なんかこう胸の奥をかき乱されるような、人を虜にするような魔性の美しさとでも言うのだろうか?

烈なんてああ見えたって、思春期の男子に変わりはないしね。

あんな人が誘惑したらイチコロ……

いやいやいや!何考えてんだ!?私は!!

頭を振って邪念を払うと、急いでご飯を食べた。

「お、おい、もう少しゆっくり食べたほうがいいぞ」

圭吾さんが心配そうに言う。

「行ってきます!」

朝ご飯を食べ終えると、姿勢を正してみんなに言った。



学校に向かって歩いていると校門近くで、前を行く烈を見つけた。

「おはよー!」

「おはようございます」

「例のこと……理由わかった?」

声のトーンを落として聞く。

「ああ、それなら放課後にお店で」

烈は微笑んで言う。

「うん。じゃあ後で」

その後はてきとうな会話をして教室まで行った。

放課後までかあ……

それまでモヤモヤすることを考えると、けっこう長い。

その日の授業は上の空だった。


放課後になると、シュウさんの店に行くのは伏せて、朋花、日向と帰ることにした。

「今日はマックでも行く?」

朋花が私と日向に聞いてきた。

「あ~ごめん!私、ちょっと家の用事あるんだ」

「そっか~…日向は?」

「大丈夫だよー」

「今日のところは二人で行って」

「OK~」

三人で校門を出たときだった。

「藤崎日向さん」

ベージュのダウンに黒いセーターを着た、痩せ気味な男の人が声をかけてきた。

白髪混じりでボサっとした頭、薄く色が入ったメガネ。

「はい…」

日向は返事をしたが、顔は露骨に警戒している。

それは私たちも同様で……

堅気には見えない感じだった。


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