第6話 生首無残

「汚ったないヤツらだよ!!」

シュウさんのカフェに集まった私は感情を爆発させた。

烈はソファーに座り、シュウさんはキッチンにて私の話を聞いている。

「今でも耳に残ってるんだ……七海の声と言葉が!!」

「最初から母親はグルだったんだな……なかなか父親が戻らないので、家族が再生できるって餌を撒くために戻ってきた」

「子供たちから聞いた父親は奴等の思惑通りに戻ってきた……そこで皆殺しか」

シュウさんと烈が言う。

「私たちにも責任はあるよ……」

烈が私を見る。

たしかに汚い罠をかけて、家族の「絆」に対する思いを踏みにじり、殺した奴等は許せない。

でもーー!!

「私たちがもっと早く奴等を殺してれば……死ななかったんだよ」

薄暗い中で烈が厳しい表情をしているのはわかった。

シュウさんは……離れてて表情まではわからない。

「勘違いするんじゃねー。俺たちの仕事は依頼された的を殺るのが仕事だ」

「そんなことわかってるよ!でもさあ!!」

「おまえみたいに、なんでもかんでもやろうとしたらパンクして潰れちまうんだよ。納得いかねーなら仕事を降りろ」

「誰が降りるかよ!七海たちの仇をとるんだ!!」

「good!唯愛ちゃん」

「シュウさん……」

「気持ちはわかるよ。でも今は、やるべきことをやる。俺たちは依頼された仕事を完遂させる。考えるのはそれからだ」

言い終わってからシュウさんが腕時計を見た。

「そろそろ行くか」

烈は無言で立ち上がると、部屋を出て行く。

私は後に続いた。

シュウさんの運転する車に乗り山野の屋敷へ向かう。

別れ際の七海の笑顔が浮かんだ。

そして、私に恨みを晴らすように頼んだときの事切れる寸前の声を思い出した。


山野の屋敷のそばに車を停める。

「あそこにあるのが山野の家だ」

「でか……」

長く続く塀に囲まれた中に、バルコニーがある洋風の豪邸。

バルコニーがある二階の窓からは煌々とした灯りが漏れている。

あそこに集まって祝杯をあげてるわけか……

そう思うと、再び怒りが湧いてくる。

「あの塀には防犯カメラが設置されてるから、忍び込もうとしてもすぐにバレる」

「手下がモニターで監視してるわけね」

「どうするんだよ?」

烈の問にシュウさんがニンマリして答えた。

「5分間だけジャックする。あのカメラ映像の受信先に偽の映像を送り込む」

「どうやるんだ?そんなこと」

「見てみ」

シュウさんがノートPCの画面をこちらに向けた。

「今、受信先にハッキングして映像を共有してる状態、で、こちらは録画中」

「なるほど……録画した映像を送るわけか」

「烈くんgood!つまり後から録画した映像を再生しても5分間の空白が生まれるわけ」

「ほえ~」

感心した私は素っ頓狂な声を上げた。

「オートロックの門は?」

「向うから開けさせる」

シュウさんはニッと笑を見せると私を見た。


「俺たちは外にいるからこれに着替えてね♪」

「私??」

シュウさんは私に紙袋を手渡すと烈と一緒に車の外に出た。

「あっ…」

袋の中身を見て声が出た。


「じゃあそろそろ行こうか」

シュウさんがハッキングして映像をごまかせるのは5分。

今こうして三人で歩いている姿を連中は見ることができない。

門の前まで来ると私は顔を伏せてインターホンを押すと、インターホンのカメラ上にあるライトが点灯した。。

「はい…」

インターホンから声が聞こえた。

「お母さん…いますよね?」

「は?」

「お母さん…いますよね?」

「――!!」

シュウさんが私に渡したのは七海の学校の制服。

顔を伏せていればパッと見は誰だかわからない。

防犯カメラは映像が五分前のものだから私たちの姿はどんなに探そうと映っていない。

中にいる連中はパニックだろう。

一分もしないうちに玄関が開く音がして男が出てきた。

オートロックの門が開く。

「誰だおまえ?」

ガッ…

「動くな。声も出すな」

横に潜んでいたシュウさんが男の喉を右手でつかんだ。

「俺たちを中に案内しろ。逆らったり抵抗したらこのまま喉を砕いて殺す……理解したらうなずけ」

男は恐怖に引き攣った表情でうなずいた。

私はいつもとは全く違うシュウさんの「殺し屋」としての顔を見て震えた。


門から玄関の前に来るとシュウさんがロックされたドアを開くように命令すると、男はカードを取り出してドアノブの位置にあるセンサーにあてた。

ガチャっとロックが外れる音がする。

「山野と仲間たちは二階のバルコニーがある部屋にいるのか?」

男がうなずく。

「ほんとうだな?ウソなら殺すぞ」

男が必死の形相で二度うなずいた。

「サンキュー♪」

ゴキッ!!

「ぐえっ…!!」

ニッコリとして礼を言うと、シュウさんは一気に手首をひねって男の喉を砕きながら首の骨をへし折った。

ドサッと男が倒れる。

「よし。行くぜ」

ドアを開けて烈、私、シュウさんの順に家の中へ入った。

「俺はモニターで監視してる連中を片付けてくる。上は頼んだぞ」

「ああ」

シュウさんと別れて私と烈は二階へ。


「どうなってるんだ?家族は皆殺しにしたんだろう?」

「はい」

「私も見たよ!たしかに子供も死んでた……息があってもあの出血じゃあ助からない」

「じゃあなんでここに来るんだ!?」

二階に上がると言い争う声が聞こえてきた。

半開きになっているドアから明かりが漏れているのが見える。

あそこか……

「とにかく幽霊なんてわけがねえ。とっ捕まえて殺すんだ」

「そうだよ!私だってあんな冴えない男とガキの面倒を見てたのも、男とガキの分、保険金の二億円が入るからってこの人が言うから」

「おかげで俺たちはあそこの土地が手に入る。これで再開発に向けてぼろ儲けできるんだ!つまんねーことで邪魔されてたまるか」

私はゆっくりとドアのそばに行くと口を開いた。

「どこまでも外道な奴らだね」

「ひいっ!!」

俯いて七海と同じ制服を着た私を見て母親が短い悲鳴を上げる。

「だ!だれだてめえは!?」

金髪にジャージの男が叫ぶ。

「お母さん……」

か細い声で言うとサッとドアの陰に隠れた。

「捕まえろ――!!」

「待てガキ!!」

怒号とともに部屋から金髪ジャージと鼻ピアスが飛び出してきた。

スパッ!!スパッ!!

ドアの横に身を隠していた烈が二人の首にナイフを一閃させる。

「えっ?」

「なに?っていうか誰おまえ」

烈を見て状況が呑み込めない二人の首に赤い線がすっと浮き上がった。

「死神だ」

ブシャーッ!!

烈が答えた瞬間に首から血を噴き出した二人を烈は部屋の中へ蹴り倒す。

「きゃああ――っ!!」

「な!なんだああ――!?」

部屋の中にいた山野と母親が驚き、叫ぶ。

ナイフを持った手をだらんと下げながら烈が部屋に入る。

大きなテーブルにはシャンパンが数本。

それにオートブルのような食事が並んでいて、上座の椅子に山野が、横には母親が立ち竦んでいた。

「誰か!!誰かいないのか――!!」

ヒステリックに山野が叫ぶと烈が静かに返す。

「みんな死んだよ。おまえたち二人だけだ」

山野がガタガタと震えだした。

「た…助けてくれ!金、金なら好きなだけやるから…!!なっ!?いくら欲しい?」

媚びるように言う山野。

しかし烈は無言だ。

「た、頼む!!し、し、死ぬのはイヤだ!!」

ザクッ!!

山野の額に烈が投げたナイフが突き刺さった。

絶命する山野。

「ひいいいいい――っ!!!」

狂乱したかのように取り乱すと母親は逃げ出そうと烈の横をすり抜けようとする。

烈はその首筋に素早く抜いたもう一本のナイフをピタッとあてた。

「あっ……」

母親の動きがピタッと止まる。

「こ…殺さないで……」

烈はなにも返さない。

「言われて…命令されて仕方なくやったの……私だってやりたくなかったの!!」

なにを今さらさえずっているんだ?こいつは。

「私も嫌だったの!!あの子たちやあの人を騙すなんて!!でも――」

「もういい」

「えっ」

「よくわかった」

「た…助けてくれるの?」

「てめえには一秒たりとも生きる資格はねえってな」

烈はナイフを逆手に持ち帰ると母親の喉を右に切り裂き、返す刃で左に切り裂いた。

鮮血をまき散らして床に倒れる母親。

倒れた衝撃で首が転がる。

こいつはあの世でも首と体がバラバラになるんだ。

ざまあみろ……

首からどくどくと噴き出す血に七海の顔を見た気がした。

七海、こんなことしかできないけど……

これでいいかな……?

「行くぞ。もうすぐ時間だ」

「うん」

烈と一緒に一回に降りると玄関ではシュウさんが待っていた。

「仕留めたか?」

「ああ」

外に出ながら話すシュウさんと烈。

「残り時間は?」

「あと40秒。急げ」

私たちは急いで屋敷の外に出ると、シュウさんの車に飛び乗った。

「ふーっ…時間ぴったり」

「さあ。ずらかろうぜ」

烈の言葉を受けてシュウさんが車を出した。


「烈。おれはちょっと野暮用があるから唯愛ちゃんを送ってってくれ」

「ああ。野暮用ってなんだよ?」

「野暮用は野暮用だよ」

シュウさんは笑って答えた。

私と烈をいつもの公園で降ろすとシュウさんは車を走らせた。

「シュウのやつ…なんだろうな?」

烈が首をかしげる。

「まあいいや。行くぞ」

私に声をかけたとき、烈の表情が一瞬で険しく豹変した。

「誰だッ!!」

街灯の明かりが及ばない闇に向かって叫ぶ。

「なに!?」

「さがってろ!!」

ザッザッザ…

暗闇からこちらに向かってくる足音が聞こえる。

足音の主が街灯に照らされた。

「あっ…」

「よく会うな烈」

「邪羅威!!」

烈が懐からナイフを二本取り出した。

「仲いいのね。あなたたち」

羅刹がせせら笑うように言う。

「挨拶しに来たんだ。そう身構えるなよ」

邪羅威が笑みを浮かべて言った。

その笑顔がとても邪悪で、腕の毛が逆立った。





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