第4話  試作ギア研究室-Prototype gear laboratory

 俺はこの荒廃しつつある世界で亡霊レギオンの相手ができる機械の兵士を作っている。俺は元々ドイツで人工知能AIの研究をしていたが、世界が壊れていくうちにこんな埃っぽいアメリカのド田舎の基地に落ち着くことになった。


 まぁ、俺としてはライフワークであるAI研究が出来てる時点でこの世の誰よりも幸せなのだろう。兵器に転用されるのはしゃくだがな。


 だが俺に不幸なニュースが3か月前に届いた。俺の一号機“Erstエアスト”はヒューストン基地に配備されてすぐに亡霊レギオンりつかれたらしい。亡霊レギオンはなんにでも憑りつく。ムカつく幽霊だぜ、まったく…。


 俺は同じてつを踏まないために2号機の“Zweitツヴァイ”には旧知の研究仲間ダチから送られてきた”ナノレジストプログラム”ワクチンを実装させた。これでこいつはりつかれる事のない悪霊を払うエクソシストだ。


 だが神様は何を思ったのかココに亡霊レギオンの大群を寄こしてきた。

 畜生…“Zweitツヴァイ”は組み上がったばかりでとても戦闘に出せる状態じゃないってのによ……。

 

 なんでこんな時に亡霊レギオン共は…。 






            爆音にも似た騒音に僕は跳ね起きた。


 イドロ「何があったの!?」


 白と深紅に配色されたギアが格納ユニットの固定具を力ずくで剝がそうともがいていた。


 ハルさん《イドロ、おはようございます。あの試作ギアの起動には成功しましたが。私のデータにない人工知能AIユニットが組み込まれており、そのAIが駄々をこねているのです。》


 僕はハルさんの説明に笑ってしまった。駄々をこねる機械があることが面白かった。


 駄々っ子ギア「そこぉー!何笑ってやがる!!」


 駄々をこねるギアが怒ってきた。


 駄々っ子ギア「父さんはどこだ!なんで居ない!!」


 ハルさん《ですから、2号機。ここにはあなた以外には誰も存在していなかったと説明しましたよ。》


 駄々っ子ギア「そんなわけあるかぁ!父さん以外に俺を起動できる奴なんか居ないんだ!嘘に決まってる!」


 ギアは怒り心頭のようで身動みじろぎしてみせた。

 

 駄々っ子ギア「それに俺は2号機なんてダサい名前じゃねぇ!父さんにもらった“Zweitツヴァイ”って名前があるんだ。そう呼べぇ!」


 まるで人間のように振る舞う“ツヴァイ”の自我は作り物のように見えなかった。僕はツヴァイを落ち着かせるために彼の前に立って話しかけた。


 イドロ「笑ってしまってごめんなさい、ツヴァイ。」


 僕に声をかけられて大人しくなる。僕を見下ろすツヴァイの一対のセンサーはまじまじと僕を見つめた。


 イドロ「僕はイドロ、よろしく。僕らは旅をするためにギアを探しに来て君を見つけたんだ。ここには君しかいなかったのは確かだよ。」


 ツヴァイ「イドロってぇのか。まぁヨロシクだ。」


 ツヴァイの言葉と首の動作で気さくに挨拶を返してくれた。うまく自己紹介ができたようだ。


 ツヴァイ「だけどよ、俺を起こせるのは父さんの起動パスワードだけのはずだぜ。そこらのAIじゃクラッキングできねぇ仕様なんだ。」


 ハルさん《ですから、私をそこら辺のAIと比べないでください!》


 ハルさんが感情的になっている。


 イドロ「まぁまぁハルさんも抑えて…」


 ツヴァイはまだ納得いってないようだ。ハルさんは何回目かわからないけど、ツヴァイに起動できた方法の説明を始めた。

 ………長い、長いハルさんの説明が終わり僕とツヴァイは聞き疲れていた。専門的な内容で僕にもサッパリ分からなかった。


 ツヴァイ「……まぁ、それでハルは俺を起動できたんだな。もうそれで構わねぇわ…。」


 ツヴァイは降参の意思をハルさんに伝えるとハルさんに質問した。


 ツヴァイ「ところでハルよぉ、俺を起動させたのは分かったけどよ。俺を起こして、これからどうすんだ?」


 ハルさん《そうでした、説明がまだでしたね。私たちはイドロの記憶の復元できる施設に向かうための移動と自衛手段を手に入れるためにこの基地にやってきました。しかし、ここにはあなたしかギアが残されておらず、私のインストール可能なギアがあなただけだったのです。》


 ツヴァイは驚いた。


 「……ンッッ!?まさか俺を乗っ取る気か!?」


 またガンッと大きい音を立てながら格納ユニットを振りほどこうとする。


 ハルさん《いえ、私をインストールする意思は今ありません。特殊なAIユニットが搭載されており、ツヴァイに最適化されています。私を組み込んでも不具合が生じるでしょうし。ツヴァイのパーソナル自我を侵害するつもりもありません。しかし困りました。これでは私が旅に同行できません。》


 確かにハルさんが居ないと復元作業ができない。するとツヴァイから提案が出た。


 ツヴァイ「それならここにある思考戦車にインストールすりゃいいじゃねぇか。あいつらの性能なら問題ないんじゃないか?」


 ハルさん《それには問題があります。性能の問題で対レギオン戦闘に不向きで、私たちが向かう目的の施設到達の成功率を著しく下げてしまいます。》


 小回りの利くレギオン相手に太刀打ちするには戦車は大きいと言うことらしい。


 ツヴァイ「なぁんだ、そんな事か。それなら俺がついていきゃ良いだけの話じゃないか。問題ねぇよ。」


 ツヴァイがさも当たり前のように同行の意思を伝えてきた。


 イドロ「一緒に行ってくれるの、ツヴァイ?」


 ツヴァイ「まさか俺をここに置いて行く気だったのか?薄情だぜ、イドロ。」


呆れたようにツヴァイが腕を広げてジェスチャーする。


 ハルさん《よろしいのですか?過酷な旅になりますよ、ツヴァイ。》


 ツヴァイ「構わねぇよ、ここに置き去りになって朽ちていくより。お前さんたちに同行する方が楽しそうだしよ。あと父さんに何が起きたのかの分かるかもしれねぇ。俺は一緒に行くぜ!」


 もうツヴァイは同行する気でいる。


 ハルさん《それでしたら、ツヴァイの案に乗りましょう。》


 イドロ「やった!それじゃあ、さっそく戦車探してくる!」


 僕はツヴァイが旅に同行してくれる事の嬉しかった。嬉しいあまりに僕は部屋の扉に駆け足で向かっていった。 


 ツヴァイ「イドロぉ!俺を置いてくなよぉ!」


 ジタバタとツヴァイが暴れる。もう格納ユニットはツヴァイの駄々でガタガタだった。


 ハルさん《失礼しました。今格納ユニットを解除します。》


 ツヴァイを囲っていた格納ユニットがパシュパシュと外れて繋がれているケーブル類がパラパラと外れる。


 ツヴァイ「ふぅ~、これで自由に動けるぜ。奥の搬入口から車両格納庫へ繋がっている通路があるからそっちから行こうぜ。」


 研究室の奥の方をツヴァイが親指を向けて指す。3mほどの体長を持つツヴァイでも通れそうなシャッターがあった。ツヴァイはシャッターに歩み寄ってシャッターを眺めた。


 ツヴァイ「こいつ……。どうやって動かすんだ、これ?ま、いいか。」


 ツヴァイがおもむろに屈んで雑にシャッターを開けようとする。外枠に引っかかってうまく開けられないツヴァイはパワーで無理やり開けた。クシャクシャになったシャッターは二度と閉まらないだろうな…。


 ツヴァイ「開いたか。ハッハッハッ!」


 開いたというよりこじ開けたと言った方が正しい。ツヴァイは笑いながらこじ開けた穴に入っていく。僕は呆気にとられたけど急いでツヴァイの後を追う。暗い通路をツヴァイの胸部の照明が照らした。通路の角には砂がたまっている。


 ハルさん《止まってください。この先にレギオンが2体居ます。》


 ハルさんの報告に僕とツヴァイは歩みを止めた。僕とツヴァイに緊張が走る。


 ハルさん《80m先にレギオンが2体こちらに向かって移動中。気付いてはいないようですが、接敵せってきは免れないでしょう。戦闘の準備をお願いします。》


 ツヴァイ「おぅよ!」


 ツヴァイは両腕の装甲を変形させて大きな砲口が顔を出す。僕もハンドガンを腰のホルスターから取り出す。


 ツヴァイ「イドロ、レギオンってはどんな奴なんだ?仮想空間で戦闘シミュレーションは試験でやったが実戦は初めてなんだ。」


 イドロ「僕が戦ったのは犬みたいな生物みたいな感じだったよ。僕も昨日初めて戦ったけど、撃破できたからツヴァイも大丈夫だと思うよ。」


 ツヴァイ「そっか、イドロが出来たなら俺でも大丈夫だな。ガハッハッハ!」


 ツヴァイの笑い声をさえぎるようにハルさんはレギオンの報告を入れた。


 ハルさん《レギオン2体65mの距離に接近。約30秒後に会敵かいてきします。ツヴァイ、照明を落としてください。》


 ツヴァイの胸部の明りが消えて辺りは暗闇に包まれて緊張が走る。僕の視界のマップ上に表示されているレギオンの反応がこっちに速く動き始めた。僕らに気付いたんだ。


 ハルさん《レギオン急速に接近、態勢を整えてください。》


 通路の奥から野性味のある息遣いと駆ける音が聞こえてくる。左に曲がっている通路の先から2組の紅く光る眼が現れた。


 ツヴァイ「来たぞッ!!」


 ツヴァイは腕の砲口をレギオンに向けて砲撃する。両腕から放たれた2本の黄色い閃光が通路明るく照らして後方のレギオンに当たる。半身に閃光を受けてそのままレギオンが崩れ落ちる。    

 だけど、前方のレギオンは身を低くして攻撃を躱していた。ツヴァイの攻撃から逃れたレギオンはさらに加速して僕らに迫る。

 僕はハンドガンを構えて確実に命中させられる距離まで引き付ける。


 イドロ「僕がやる!」


 レギオンとの距離が30mを切る、僕は照準サイトをレギオンの眉間に合わせて2発発砲する。レギオンのキャンッと鳴く悲鳴とともに通路に滑りながら倒れた。

 とりあえず無事に撃破できた。


 ハルさん《レギオンの撃破確認、二人ともお見事です。》


 ツヴァイが腕の装甲を戻しながら照明を点ける。まるで何でもなかったかのようにツヴァイは振る舞っていた。


 ツヴァイ「割とあっさりした戦闘だったな。」


 ハルさん《…1体には攻撃を外しましたけどね。》

 

ハルさんの嫌味がツヴァイを怒らせた。ハァ…この二人はどうしてこんなに仲が悪いんだろう…。


 ツヴァイ「なんだと!」


 イドロ「まぁまぁ、落ち着いて。ハルさんも喧嘩になるようなこと言っちゃだめだよ。」


 ツヴァイをなだめながらハルさんに注意する僕は通路の先に不穏な印象を受けていた。奥の方に何かが居る…


 イドロ「……ハルさん質問なんだけど、この奥にまだレギオンは居る?凄くいやな感じがする…。」


 ハルさん《…いえ、撃破した2体のレギオン以外に通信波の反応はありません。》


 イドロ「……そう。それならいいんだけど…。」


 ハルさんの報告でも拭えない不安が僕に重くのしかかる。確証もないけど、何者だれかかに視られている、観察されている感覚が通路の奥から圧迫感として僕に伝わる。


 ツヴァイ「イドロ、安心しろ。俺が一緒なんだぜ、何が居ても蹴散らしてやんよ。」


 ツヴァイの頼もしい言葉に勇気づけられた。


 イドロ「ありがとう、ツヴァイ。それよりも、とにかく進まないとね。」


 精いっぱいの空元気からげんきで僕はツヴァイに答えた。そんな僕を気遣ってツヴァイは元気づけようとしてくれた。


 ツヴァイ「おい、イドロまだ怖いなら俺に乗れよ。ちょっと待ってろよ。」


 そう言うとツヴァイは体を変形し始めた。ツヴァイの頭部が胸部に格納して脚部に覆いかぶさるように胸部が前後に分割して搭乗席が現れた。腕部もコンパクトになって脚部の装甲からホバー機構がせり出す。一人乗りの大型バイクに似たような形状に変形が完了した。


 ツヴァイ「ほら、乗んな!」


 ツヴァイの変形に僕の心は奪われていた。カッコいい…。


 イドロ「わぁ!すごいよツヴァイ!」


 ツヴァイ「もともと人間を乗せられるように父さんが俺を設計してたんだ。ロックだろぉ~。」


 ロック?いろんな単語と用語は頭の中に入っていたけどツヴァイの”ロック”の言い方は初めて聞いた。


 イドロ「ロックって何のこと?石のこと?」


 ツヴァイ「なにぃ~!?ロックを知らないだと?!それならイドロに特別に教えてやるぜ!ロックをよぉ!!」


 ツヴァイから突然、激しい音楽が流れ始めた。滅茶苦茶に叩かれるドラムに高音を響かせるギター、腹に響くベースと到底言葉として理解できない叫びが僕を驚かせた。不安なんて吹き飛んで初めて聞く音楽に心を震わせた。でもハルさんはこの音楽が気に入らなかったらしい。


 ハルさん《なんですかその騒音は、そんなに音を出すと遠くに潜伏しているレギオンが気付きますよ!》


 ツヴァイ「なぁに言ってやがる。この崇高ハードコア音楽ロックの良さがわからねぇのか?なぁんだ、ハルも結局凡庸ぼんようなAIってことかぁ~?」


 ツヴァイの煽る言葉にハルさんは言い返す。


 ハルさん《こんな騒音に価値を認めるツヴァイは設計の段階から欠陥なのでは?》


 ハルさんも負けじと応戦する。


 ツヴァイ「んん!?なにおうぅ!!」


 ハルさん《あなたこそっ!!!》


 僕はというと二人の口喧嘩よりも音楽ロックに夢中だった。何を歌っているか分からなかったけど活気があって元気が湧いてくる。僕は自然とリズムに合わせて首が縦に動いてしまう。

 僕が音楽に合わせて体を動かしているのをツヴァイは見て勝ち気にハルさんに自慢する。


 ツヴァイ「ほぉらぁ、イドロも気に入ってるぞハルぅ~。」


 ハルさんは《はぁ…》とため息をついて呆れていた。


 ツヴァイ「ほら!イドロ。俺に乗ってロックしようぜ!」


 イドロ「うん!」


 僕はツヴァイによじ登って搭乗席に座る。座席の前には2本のハンドルがあって足元にはペダルが用意されている。でも僕の身体では無理をしないと届かなかった。


 ツヴァイ「ハンドルとペダルの位置がイドロにゃ合わねぇか。ちょっと合わせるから動くなよ。」


 座ってる僕の身体に合わせてキュルキュルと音を立ててツヴァイがハンドルとペダルの位置を手前に調節してくれた。


 イドロ「ありがとうツヴァイ。」


 ツヴァイ「よし、じゃあしっかり掴まっていろよ!」


 僕がハンドルに手をかけるとツヴァイが地面から埃を巻き上げながら浮いて後部のバーニアを吹かして猛スピードで発進した。音楽ロックと轟音響かせるバーニアが狭い通路をグングン進む。僕は必死にしがみ付いて「いいいぃぃぃぃ!!!!」と声にならない音を出して歯をくいしばることしかできなかった。車両倉庫に歩いて30分ほど掛かる道のりをものの2分程で到着した。


 ツヴァイ「FUUUU!!!中々ロックな走りだったろ!」


 ツヴァイはご機嫌になってた。僕は何とかふらつきながらツヴァイから降りた。とてもスリリングで音楽とともに駆けるのは楽しかったけど、もう狭い通路であのスピードの経験はしたくないと誓った。それでも僕はツヴァイの言うロックを感じていた。


 イドロ「……なんだか、ロックってわかった気がする!」


 言葉にするにはまだ理解が追い付いてないけど、その精神スピリットは感じることができた気がする。ツヴァイは人型に変形しながら嬉しそうに笑った。


 ツヴァイ「おおっ!イドロにもロックがわかったか!ハッハッハッ!」


 呆れたハルさんはボソッとツヴァイに声をかける。早く話の話題を替えたかったようだ。


 ハルさん《それよりツヴァイ、早くシャッターの方を…。》


 ツヴァイ「おいおい、水を差すなよなハル。ちょっと待ってろ、今から開けるからよ。」


 ツヴァイが渋々ハルさんの指示でシャッターをこじ開けた瞬間、バァーン!とツヴァイと同じくらいの大きさの物体がシャッターの奥から突っ込んできた。かろうじてツヴァイは襲ってきた物体の突進に反応して抑え込んだ。けど抑えるのでツヴァイは精いっぱいだった。その光景に僕とハルさんは同時に叫んだ。


 イドロ「ツヴァイ!」ハルさん《ツヴァイ!》


 僕はすぐさまハンドガンをホルスターから引き抜いて向けたけど、相手に効くかどうかは怪しかった。全身が黒光りする屈強な熊のようなレギオンだった。ツヴァイは上手くレギオンの両腕を抑えてたけど、このままではツヴァイがやられてしまう。


 ハルさん《ツヴァイ!そのまま大型レギオンを抑えててください!イドロ、大型レギオンにハンドガンでは効かないでしょう。スタンブレードで相手の眉間を貫いてください。多少危険ですがツヴァイが抑えているうちに仕留めましょう。このままでは我々が全滅しかねません!》

 

50㎝程刃渡りのスタンブレードで仕留めろとハルさんから指示されるけど恐怖心で僕の体が固まってしまう。


 ツヴァイ「おい!イドロ!今からコイツを引き倒すからその時に撃破してくれ!大丈夫だ!俺がちゃんと抑えてやるよ!」


 ツヴァイを信じて僕は腹を決めるしかなかった。いや、僕は二人に頼られたんだ、やるしかない。ツヴァイは言葉通りこちらに向かって大型レギオンを抱えながら倒れこむ。


 ツヴァイ「今だ!」


 イドロ「うおぉぉぉぉ!!!」


 僕は声を張り上げて恐怖心を払いながら大型レギオンの眉間に向かって駆けていた。大型レギオンの頭部は大きくて眉間を狙うのは難しくはなかったけど迫力があった。ツヴァイの腕の中でその紅く光る眼球は僕を捉え食い殺そうと唸りを上げる。


 ツヴァイ「イドロ!れ!」


 僕は大型レギオンの眉間にスタンブレードを突き立てた。表皮は見た目と違ってすんなり食い込んだけど、その下の骨格で刃が止まる。苦痛による唸りを上げる大型レギオンはすごい力でもだえるけどツヴァイがうまく押さえつけてくれている。


 ツヴァイ「押し込めっ!」


 僕はスタンブレードのトリガーを引いてバチッバチッッと電撃を浴びせながら押し込む。レギオンに刺さった部分が溶けるように崩れてブレードが奥まで抵抗なく刺さった。大型レギオンの眼の紅い光が消えて力が抜けて動かなくなった。


 ハルさん《反応消失確認しました。お見事です。ツヴァイも良く抑えてくれました、評価を改める必要がありますね。》


 ツヴァイはレギオンを抑えていた腕を離してレギオンを押しのけると、バシュッと音を立ててバーニアを吹かして起き上がった。


 ツヴァイ「ハルは一言多いんだよ、まったく。」


 ハルさんに悪態あくたいをついていたけど満更まんざらでもないようだ。


 ツヴァイ「にしても…。ハルが索敵さくてきし損ねたってのはちょっと信じらんねぇな。」


 ハルさん《はい、この大型レギオンの反応はツヴァイがレギオンを抑えるまでほとんど感知できませんでした…。特殊個体のレギオンであるのは間違いないのですが、特殊個体にしては戦闘力が他の通常の大型レギオンと変わりませんでした。もしかしたら特殊個体の因子が長い期間を経て通常のレギオンに受け継がれているのかもしれません。もしくは長期間の活動で獲得した機能かもしれませんね。いずれにしろレギオンの撃破、お見事でした。》


 ツヴァイ「とりあえず、車両格納庫確認しようぜ。無事な戦車がありゃいいけどよ。」

 

 僕らはクシャクシャに破壊されたシャッターをくぐって格納庫内を探索した。入って手前側のトラック2台は大型レギオンの寝床だったのか盛大に破壊されていた。でも奥に並べられていた3台の思考戦車は戦闘の跡もない状態で鎮座していた。


 ハルさん《イドロ、あの戦車に登って上部ハッチにアクセスしてください。》


 ハルさんが僕の視界の表示で思考戦車の一台を指定した。僕はツヴァイの手を借りて思考戦車の上部に上がってハッチに手をかける。ハルさんが遠隔でロックを外し自動でハッチが開いた。僕は入り込むとハルさんが戦車を起動させる。


 ハルさん《イドロ、これから私をこの思考戦車にインストールします。インストールをイドロを通して実行しますのでそのまま思考戦車に搭乗しておいてください。》


 イドロ「わかったよ。ねぇねぇ、ツヴァイ。ハルさんのインストールを待ってる間にあの音楽ロックを聞いてもいい?」


 ツヴァイ「おおよ!ほかの曲も1万曲以上俺に収録されてるから一緒に聴こうぜ!」


ツヴァイは上機嫌になったけどハルさんは呆れた。


 ハルさん《…あの騒音がそんなに種類があるとは…インストールに影響がなければいいですが……。》


 ツヴァイ「わかってねぇなぁ~。ロックは魂に響くもんだぜ!」


 音楽ロックが流れてハルさんをインストールする束の間の時間で僕らは話を弾ませながら疲れを癒した。楽しい時間だったけど内心ではさっきの戦闘の事で違和感が僕に憑きまとっていた。



 僕たちが大型レギオンと戦う前に感じたあの視線の圧迫感は別の存在だったと思う。漠然とだけどそんな気がする。

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