第09話 旅立ち



 それからエイタさんが話したことは、私が描いていたエイタさん像を見事に砕いてくれた。


「僕にサクラさんの悩みを解決することはできない」


「……」


「僕にできることは、サクラさんが死んでしまわないよう、食事を与えることだけだった」


「他にもイロイロしてくれたじゃん」


「それは、サクラさんが生きるための手助けをしただけで、そこに個人的な感情はなかった」


「えっ? 私のこと、やっぱ嫌い?」


「嫌いとか、好きとか。そんなこと思ってない」


 私に優しくしてくれるエイタさん。


 いままで出会った人と違って、すごい人だって思ってたのに……。


 私なんかを好きになってくれる人は、やっぱ居るわけない。


 ここでの生活が楽しかったから、つい忘れてた。


「僕と君は他人だ。どうやったってわかりあえない」


「私を騙してたの?」


「そんなつもりはない。そうやって感情を持ち込むから、関係がややこしくなるんだよ」


「……」


「僕はここで、死にたくないから食べ物を育ててただけで、他には何もしてない」


「それは……、私も同じ」


「サクラさんがやってきて、見殺しにするのは嫌だったから、ご飯をあげた」


「私、ひとりで浮かれてバカみたい……」


「でも。本当に久しぶりに人と会って、話しができて嬉しかった」


「ふーん」


 私はご機嫌斜め。


「だから、人に何かしてもらって、それが嬉しいって気持ちはわかるし、人にも嬉しいって思ってもらいたい」


「私はエイタさんに救われて、感謝してる」


「なら良かった。でも、僕の行動にキミ個人に関する感情はないんだ」


「何となくだけど、言いたいことわかった気がする。私のこと人として見てないんだ?」


「他人に自分の考えを伝えるのは、本当に難しいな」


「そうだね……」


「そろそろ時間だ」


「なんの?」


 エイタさんは庭に出て行った。


「次は君の番だ。サクラさん」


「なんのこと? イミフなんだけど」


「次にここに来る人の話しを聞いてあげて」


 エイタさんの姿が薄れて、フワッと消えてしまった。


(なんなの?

 私、ひとりぼっちになった?

 これから、どうすればいい?)



 途方に暮れてボンヤリしてたけど、そろそろ夕飯の準備をしないと日が暮れてしまう。


 ハンゴウを火にかけて、畑でキャベツを収穫する。



「いただきます」


 ひとりで食べるご飯は寂しい……。


「なんだろ?」


 テーブルの上に紙切れが置いてあった。


――パサリ。


 広げて見ると、


「そっかぁ、なるほどー。

 エイタさんが教えてくれなかったのは、これのせいか」


(なんだよもー!)


 そこには、ここでの生活に関するルールが書かれていた。


 後から来た人に、このルールを話してはいけないと書いてある。


「取り敢えず。すぐに死んじゃうことはなさそうかなー。

 こうなったら、のんびりスローライフを楽しむしかない!」




     ◆




「あっ!」


 何となく、誰かがここに来たことがわかった。


 すっかり筋肉質になった私は、クワを放り投げて家に走り込んだ。


「水筒と……、オニギリも持って行こう!」


 私は、あの大きな木に向かって走り出す。




     [完]


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山奥で行き倒れた私は呆れるしかなかった~これが噂のスローライフ?~ 大然・K(だいぜん・けー) @daizen-K

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