第08話 エイタさんの話し



 昨夜は、私が夢の内容を一方的に喋っただけだった。


 昔のことを思い出して興奮し、なかなか寝付けなかったけど、それでも朝はやってくる。


 寝不足の頭を振って、朝ごはんの準備に向かう。


「おはよう」


 エイタさんが先に起きて、もう準備をはじめてる。


「おはよう。昨夜はごめんね。訳のわからない話しを聞かせちゃった」


「気にしなくていいよ」


「ありがとう」


 エイタさんはとことん優しい。



 朝ごはんの片付けが終わって、


「今日は何する?」


「あのさ。今度は僕の話しを聞いてほしいんだ」


「うん。いいけど」


「だから、今日の仕事は休みってことで……」


 エイタさんは、聞いても自分のことを話してくれない。


 それでも、普段の態度から信用できる人だと思ってる。


 だから、どんなことを話してくれるのか、とっても気になる。


「何度も言ってるけど、僕がここに来てから、どれくらい経ったのか本当にわからないんだ」


「うん」


「僕も夢で前のことを思い出したりするんだけど、それがいつのことなのか、さっぱりわからない」


 エイタさんは両腕を組んで唸ってる。


「どんなことがあったの?」


「それは……。別の話しだから、本題に入るね」


 話しを逸らされた?


 興味津々なんだけど!


「しばらく一緒に暮らしてたけど、サクラさんはだいぶ変わったね」


「そお?」


「うん。笑うようになった」


「楽しかったら笑顔になるじゃん。何言ってるのぉ」


「ここに来たばかりのころは、僕の顔を見てくれなかったし、なかなか喋ってくれなかったよ?」


「そうだっけ? でも、それはエイタさんのおかげだよ!」


「僕は何もしてないよ」


「ご飯用意してくれたり、話し聞いてくれたり、こんな私に優しくしてくれる」


「話しを聞くくらいしか、できることがないから」


 エイタさんはゴクリとつばを飲み込んで、


「僕は他人の悩みにアドバイスできるような人間じゃない」


「そんなことない! イロイロ教えてくれるじゃん」


「それは悩み事以外の、道具の使い方とか、ここで生きる為に必要なことだから」


(言われてみれば……、そうかも?)


「エイタさんの考えを聞いてみたいなー」


「僕が自分の考えを話したとして、それでサクラさんは何か変わる?」


「今後の参考になるかな?」


「なら、やっぱり言えない」


「どうして?」


「僕とサクラさんは他人だ。他人の僕に理解できるわけないから」


「そりゃあ、そうでしょ」


「サクラさんの悩みは、自分で解決することだし、僕が何か言うことじゃないよ」


「それって、冷たくない?」


「僕はもともと優しい人間じゃないさ」


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