第07話 記憶



 おそらく半年くらい経った。


 不思議なことに、来たばかりの頃と気温や湿度が変わっていない。


 気温は、いつも20度くらいで過ごしやすいけど、おかしい。


 いまさらだけど変!


 まぁ。ここから出られたとしても、どうせロクなことないだろうし……。


 変だとしても、優しくしてくれるエイタさんとここで暮らしている方がいい。



 畑仕事を中断して休憩タイム。


 採れたてのキュウリを食べながら、


「最近。前のことを夢で見るんだ」


「昔のこと?」


「ここに来る前、どんな生活してたとか……」


「そっか。その話しの続きは、晩ごはんの後にしよう」


「わかった。次は水やりでいい?」


「うん。お願い」



 お風呂の後、テーブルに置いたランプの仄かな明かりを見つめながら、


「この頃ね、頭痛が無くなったんだ」


「前は酷かったの?」


「うん。年中頭痛で、酷い時は動けなくなるくらいだった」


 あれは思い出したくない。


「ここに来て暫く経った頃から減ってきて、いまは全然ない!」


「良かったね」


「でね。頭痛が減ったのに合わせて、昔のこと夢で見ることが増えたんだ」


 エイタさんは真っ直ぐに私を見ながら、「それで?」と聞いてきた。


「正直。昔のことは思い出したくない。辛いことばっか……」



 それから、ボソボソと私の独白が始まった。


 私のことをイジメていた人たちは、いつの間にか居なくなってた。


 女子高生はオシャレして当然って風潮だったのに、見かけなくなった。


 ある日、私をイジメてた子がボロボロの格好で歩いてるのを見かけた。


 オシャレしてないから、あの子だってなかなか気づかなかった。


 どうして、あんな格好で出歩いてるんだろ? オシャレは?


 そんな不思議なことが起こる毎日だった。


 お腹が減ったから、食べ物を探しに出かけた。


 道端に缶詰が落ちてたから、拾おうとしたら、突然、目の前に誰かが現れた。


 その人に蹴られて転んで、さらに馬乗りで殴られた。


 私は、ここで死んじゃうんだって思った。


 死ぬのは仕方ないけど、痛いのはヤだ。


 そんなことを思いながら、ギュッと目を閉じた。


 そして、目を開けると、あの木のところだった。


 夢で見たことだから、内容は飛び飛びだし、まとまりもない。


 それまで黙って聞いていたエイタさんが、


「それは、大変だったね」


「あの頃と比べると、ここの生活は天国!」


 比べるまでもない。


「畑を耕すと野菜が育って、働いた分の報酬があるのは嬉しい!」


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