第06話 ここでの一日



 この家で生活するようになって、ひと月くらい経ったと思う。


 ここには時計もカレンダーもないし、スマホはとっくにバッテリー切れ。


 最初は気になったけど……。


 畑仕事したりするだけで一日が終わるから、時間とか日付とか、どうでもよくなってきた。


 ご飯の準備も時間がかかる。


 レンチン3分とか懐かしいけど、電気がないからどうしようもない。


 料理なんてしたことなかった私でも、ご飯を炊いたりできるようになった。



 夕飯は、夕暮れ前には食べ終わるようにする。


 後片付けする時、日が暮れて暗くなると面倒だからだ。


 夜になると何をするか?


 寝る!


 日の出に起きて、暗くなったら寝る。


 大昔のような生活をするしかない。



 でも、今日はちょっと違う。


 お風呂を出てから、エイタさんと話しをしている。


 油を使ったランプを灯して、キッチンのテーブルで向かい合う。


「ここ来てけっこう経つけど、ここのことがまったくわかんない」


「僕だって同じ。サッパリだよ」


 エイタさんは、ヤレヤレといった感じで両手を上げている。


――ジジッ。


 ランプの紐が音を出す。


「私ね。ここに来る前のこと、少し思い出したんだ」


「そうなんだ」


「うん。記憶が飛んでるみたいな、変な感じなんだけどさ」


 エイタさんを見ると、真剣な表情だった。


「私って……。ブサイクでしょ?」


「そうなの?」


「だって、ホラ」


 私は前髪を上げて、顔が全部見えるようにした。


「普通だよね?」


「エイタさんは心が広いんだね……」


 私はこんな見た目だから、事あるごとに難癖をつけられイジメられてた。


 こんな容姿に産んだ親を恨んだりもした。


 そんな、どうしようもない、つまらない人間だ。


「サクラさんがブサイクだとして、それがどうかしたの?」


「みんなから嫌われてた」


「僕は嫌ってないし、ここには他に誰も居ないよ?」


「そうだけど……。いつかエイタさんが私を嫌うのが怖い」


「ないと思う」


(そんなことない!)


「ブサイクな私より、綺麗な子と居た方がいいでしょ?」


「ブサイクとか、綺麗とか、よくわからないよ」


「本気で言ってる? 慰めはいらない!」


 その後、少しムキになってエイタさんを責めた。



「今日はもう寝よう」


 エイタさんの言葉でお開きになった。


 今から思えば、エイタさんの言葉を信じられなかった自分が、無茶苦茶恥ずかしい。


 フトンの中でゴロゴロともだえた。


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