第03話 自己紹介



「僕は瑛太えいたっていうんだけど、キミは?」


「ゴメン。名乗ってなかった! 私は咲良さくらです」


 状況がさっぱりわからなくて、名前も知らないことに、いま気づいた。


「サクラさんか。よろしく」


 エイタさんは笑いながら、手を出してきた。


「よろしく、エイタさん」


 私も右手を出して握手した。


 男の子と握手とか緊張する~。


「ここのことを聞かせてもらえませんか?」


「わからないんだ」


(それが本当なら……、ピンチ?)


 ポッケに手を突っ込んでスマホを取り出す。


(圏外?)


「ここって電波入らないの?」


「うん。来てないよ」


 とんでもない田舎、ということはわかった。


(あ! バッテリー)


「すみません。コレの充電できます?」


「ごめん。できない」


「充電器がないとか?」


「電気がないんだ」


 またもや、意味不明の単語が耳に入る。


「電気もガスも水道も、ここには何もない」


 今の時代、そんな所があるの?


 にわかには信じられない。


 スマホの他、ネットもテレビも使えないって、意味がわからない!


「それにしても、ずいぶん服が汚れてるね」


 言われて、自分の姿を見下ろすと……。


 シャツは所々破れてるし、スカートは泥だらけだった。


「山を走って来たの?」


「わかんないけど、それはない」


「あはは。お風呂入る?」


「うん。入りたいかも」


 汗と泥で、ベトベトしている身体が気持ち悪い。


「待ってて、用意してくる」


 言ってキッチンを出て行った。


(電気もネットもなくて、どうやって生活してるんだろ?)


 椅子から立ち上がって縁側に出てみる。


 周りを見ていると、エイタさんが家の影から出てきて、


「使い方を教えるから来て」


「はーい」


 置いてあったサンダルを履いて、後を追う。



 そこには、確かにお風呂らしいものがあった。


(これは……ナニ?)


「女の子だと気になるかもだけど、サクラさんが使う時、僕は家から出ないから! 安心して」


 屋根も壁もない。


 見事な露天風呂がそこにあった。


(えーーっ)


「ホントに、覗いたりしないから! 約束する」


「信じますよ? ホントーに見ないでくださいね!」


 思わず、ジト目で睨んでしまった。


「うん、うん。見ないから!」


 エイタさんは両手で目を塞いで、見ないアピールをしている。


「わかりました。で、使い方って?」


「えっと。まきでお湯を沸かすんだけど――――」


 水は、近くの小川から手押しのポンプを使ってタンクに貯める。


 タンク下のコックをひねると、水が風呂桶に溜まる。


 風呂桶の隣にあるのが湯沸かし機?


 そこに薪を入れて火をつけると、お湯が沸くって教えてくれた。


 理屈はわかんないけど。


 お湯が湧くのにすごく時間がかかる、とっても面倒なお風呂なんだ……。


(川で水浴びするよりマシかも?)


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