第02話 キュウリがヤバーイ



 案内された家は、田舎の農家さん的な古い建物だった。


 辺りを見回すが、他に建物は見えない。


「オンボロだけど、どうぞ」


――ガラガラッ。


 引き戸の玄関を開け、青年は靴を脱いでさっさと入って行った。


 私もそれに続いて、


「おじゃましまーす」


 ぜんぶ木でできてる、今どきこんな家はないと思う。


 家の中は意外と涼しくて驚いた。


 後を追うと、ダイニングキッチンに着いたんだけど、なんて広さ!


 8人くらいで使えそうな、大きなテーブルがドカンと置いてあった。


 このダイニングキッチンだけで、ワンルームマンションの一室より広いんじゃない?


「お腹空いてる?」


「うん……」


「そこに座って待ってて。用意する」


 椅子を引いて腰掛ける。


 確かにオンボロだけど、綺麗で狭いワンルームより、ぜんぜんイイ!


 風通しがよくて気持ちいい。


 青年がお盆に乗せたオニギリを運んできた。


――ぐぅぅぅ。


 オニギリを見て食欲が刺激されたのか、盛大にお腹が鳴った。


「ヤだ! はずぃ」


 思わず口から漏れ出て、カァァァァと顔が熱くなった。


「こんなものしかないけど、どうぞ」


「ありがと」


 まんまるオニギリが2つと、キュウリだった。


 オニギリを手に取った私は、恥ずかしさはどこへやら……。


 夢中に頬張って、あっという間に食べ尽くしてしまった。


「おいしかった」


「これもどうぞ」


 キュウリの輪切りが乗っている小皿を、こちらに差し出している。


 一切れ、パクリと口にする。


「オイスィー、何これ?」


「キュウリだよ。塩揉み」


 すごい! キュウリがこんな美味しいなんて知らなかった。


(キュウリ、ヤベー)


「採れたてだから新鮮だよ」


「採れたて?」


「うん。あっちに畑があるんだ」


 青年が指さした方向を見ると、確かに緑いっぱいの畑が広がっている。


「へー。家族で畑やってる感じ?」


「家族は居ない。僕ひとりでやってる」


(こんな何もないところで、家族も居ないの?)


「えっと、他に誰か居ないの?」


「居ない。さっきまで、ここには僕ひとりだったよ」


「なにそれ? ひとりで生活してるってこと?」


「そうだよ。全部ひとりでやってる」


「ありえなくない?」


「時間はたっぷりあるから、なんとかなってる」


(マジかー。ってことは……)


「私と二人だけってこと?」


「そうだね。そうなる」


 美味しい水に美味しいご飯で、すっかりご機嫌だった私だけど……。


 どん底に落とされた気分だ。


「大丈夫。君の食い扶持ぶちくらい平気」


(そーじゃなくて。他にイロイロあるじゃん!)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る