第4話

 みんな! 数年後の自分ってどうなってると思う?

 明日も生きていけるって安心しながら生きれてると思う?

 だとしたら羨ましい限りだな!!!!

 いやいや、わかってるよ?

 これまで適当に生きて来たツケが回って来ただけだろ!! ってね?

 それはわかってるんだけど、私はいまこう思っているわけ。

 安心と居場所がほしい!!!!

 まあゆうて、これがある程度書けたら三日月川大橋(仮)のてっぺんに行くつもりなんですけどね?

 いまね、自暴自棄なんです。ヤケクソで書いてるんですよ。

 もし安心と居場所があれば別の未来があっただろうなクソが――――!!!!

 まあ、自業自得ですから? 未来設計が甘すぎただけですから?

 なんで学生時代を適当に過ごしていたかっていうのは理由があるんですよ。

 拙者、プロの作家を目指していたでござる。

 だから毎日ひたすら書いていた。勉強そっちのけで。

 にしては文章力低いな!!!! と思うでしょ?

 自分でもそう思うよ!!!!!!

 ひたすらプロの作家を目指すだけの学生生活をしていたからさ、数学は5段階評価中の2とかだったよ。先生ごめんなんだけど数学大嫌いだったよ!!

 まあそういうわけで、学生時代ですでに自分のあらゆる可能性を潰してしまったわけ。

 ご承知の通り、拙者はいまだ鳴かず飛ばずでござる。

 才能がないってもっと早く気付いていれば別の未来があっただろうな!!!!

 自分で自分の人生をぶち壊したデストロイヤーってわけさ!!!!

 見た目も悪ければ性格も悪い。おまけに頭も悪い。大して仕事ができるわけでもないし、特に可愛げがあるわけでもない。コミュニケーション能力も低い。そして病気持ち。

 この先どこが雇ってくれるんだこんな無能忍者!!!!

 選り好みしなければいくらでも見つかるよ! って?

 そらそうだろうな!!!! 知っとるわ!!!!

 とまあ、聡明なみなさんならすでにお気付きでしょうが、拙者、ネガティブを極めているでござる。

 だってメンタルが病んでるんだからな!!!!

 例えばうつ病の人に「もっとポジティブに考えなよ!」って言ったところでそんなすぐポジティブになれるわけがないだろ!?

 ポジティブに考えなきゃって思えば思うほどしんどいんだよおおおおお!!!!

 まあ「あ、そっか! この人生の幕を閉じれば私はもう苦しまずに済むんだ!」と思った点はちょっとポジティブシンキングなんですけどね?

 それから拙者、占いが好きでござる。

 でね、推しの占い師がいるの。

 その占い師の今月の占いを見て「そうか、これからちょっと良いことがあるみたいだな、期待してみようかな……」って、ちょっとだけ前向きになれたんだ。

 いまでは「好転しなかったらいつでも三日月川大橋(仮)のてっぺんに行くからなクソがあああああ!!!!」って、ポジティブに考えてるよ!


 ってなわけで! 佐久間さんとの4回目のおデートですよ。

 ちょっと現実と時系列がズレてるかもしれないけど、雰囲気で察してくれよな!!!!

 それはそれとしてさ。拙者、忍者だからよく知らないんだけどさ。

 一般的なレディって意中の殿方とデートする際には、何があってもいいようにって、ちょっと良い下着を身に着けて行ったりするものなの?

 ワンチャンあるで、みたいな?

 メンズもその好機を常に狙っているってこと?

 そんなこと考えたこともねえ!!!!

 私の身体はアイアンメイデンだからな!!!!

 処女ではねえけどな!!!!

 世の中のお嬢様方!!!! 自分の体は大事にな!!!!

 でもそうすることで伝わる愛もあるってことは知ってるからな!!!!

 そうすることでしか愛を伝えられない不器用な人がいることも知ってるからな!!!!

 それがなくても愛し合う人々がいることも知ってるからな!!!!

 愛し合うふたりにはいろいな形があるからな!!!!

 臨機応変にな!!!!

 そして互いに認め合えよ!!!!

 そうしなければ愛は伝わらないなんてことはねえからな!!!!

 おっとっと、つい熱くなってしまった。

 これ遺書なんで。溜め込んだものはすべて吐き出しますよ。

 三日月川大橋(仮)のてっぺんに行く前に机の上にこの作品ページを開いたスマホを置いておくという寸法サ!!

 みんな見てるか!!!! 私はこんなことを考えていたんだよ!!!!

 おっとっと、前置きが長くてごめんやで。

 おばさん忍者だから話がなげえんだ!!!!


 さて、佐久間さんがお待ちでござる。今日はスーツだ。

 ジャケットの前を開けているのが様になっているなあ。


「お待たせしました」


佐久間さん

「ん? 頭に何かついてるぞ」


「ケサランパサランですか?」


佐久間さん

「ケサランパサラン……。普通に糸くずだよ」


「あんなに何度も梳かしたのに糸くずが付いているとは。強情なり」


佐久間さん

「梳かしたあとに着替えたんじゃないのか?」


「それだ」


佐久間さん

「それなのか……。まあいい、乗れ」


 イケ散らかしてる人の周辺ってなんでこんな良い香りがするんだろうね。

 なんの匂いなんだかさっぱりわからない。

 十代後半から二十代前半くらいの私服の男性だと『おお、柔軟剤の香り……』と思うことがあるけど。

 たまに客室の片付けをしに入ったときに『なんかラブホみてえな匂いすんな』って思うことがあるの拙者だけかな。


「今日は松之山公園でお散歩でしたか」


佐久間さん

「ああ。天気も良いし、風も強くなくてよかった」


 松之山公園はとなりのH市の名所。

 季節ごとにいろいろな植物が見られるので、いつ訪れても楽しい場所だ。


「というわけで、カメラを持って来ました」


 拙者の趣味のひとつがカメラでござる。

 撮影技術云々は置いといて、植物を撮るのが好きでござる。


「予備のフィルムも持って準備万端でござる」


佐久間さん

「それフィルムカメラなのか。渋いな」


「友人の影響で始めました。

 特にこだわりがないので目に付いたものを適当に撮ってるだけですけど」


 ちなみにカメラはEОS KISS7!!!!

 EOS KISSは我々世代はテレビCMが記憶にあるのでは?

 なかったらごめんな!!


佐久間さん

「いままで撮った写真はあるのか?」


「データにしてもらったものがスマホに入ってますよ」


佐久間さん

「今度見せてくれよ」


「大したものじゃないですけど」


佐久間さん

「写真は撮った者の見ている景色だからな。

 お前がどんな景色を見ているのか気になるよ」


「広告みたいな台詞ですね」


佐久間さん

「俺も言ってから思ったわ」


 みんなは車の助手席に乗ってるとき、喋るときは前を向いてる? 運転手を見てる?

 拙者は前を向いてる!

 自分で運転しているときの感覚なのか、真っ直ぐ前を見てしまうんだよね。

 ってなわけでH市の松之山公園!

 休日ということもあって、カップルや家族連れ、老夫婦なんかの姿が見える。

 松之山公園は中心に大きな湖があって、水鳥もいろいろいるんだよ。

 天気は快晴! 風も強くないし、写真を撮るには絶好の日和だな。

 駐車場から公園に降りる階段で、佐久間さんが一段降りてからこちらを振り向く。

 そのまま手を差し出されるので、私は思い立ってポケットの中を探った。

 ごそごそ、ぽい。


佐久間さん

「……なんだこれ」


「カイロです!」


 寒い季節、末端冷え性の強い味方! カイロ!!

 拙者は1シーズンで30個入りを2箱以上買うよ!


「あっためておきました!」


佐久間さん

「……なんで俺がカイロを受け取るために手を差し出したと思うんだよ」


「じゃあ返してください」


佐久間さん

「いや言われなくても返すわ。

 階段で手を差し出したら普通はエスコートだろ」


「そ、そんな年寄りだと思ってらっしゃるんですか……?」


佐久間さん

「エスコートは介護じゃねえよ。いいから手貸せよ」


 右手を差し出されてるということは、左手を重ねればいいのかな?

 エスコートとかされたことないから勝手がわからないでござる。


佐久間さん

「手冷たすぎじゃないか?」


「冷え性なのでこれが常温でござる」


佐久間さん

「カイロ持ってたのも納得だな」


「カイロを開発した人、天才ですよね……」


佐久間さん

「カイロの話はいいんだよ。

 人にエスコートされてる最中にカイロの話ってなんなんだよ」


「佐久間さんの手はカイロ並みに温かいですね」


佐久間さん

「カイロと並べるな。感慨がなくなるだろ」


「冬でも手が温かい人の肉体ってどうなってるんですか?」


佐久間さん

「血行の問題だろ。

 なんでデートで冷え性の話しなくちゃならねえんだよ」


「冬といえば冷え性でしょう!」


佐久間さん

「初めて聞いたな」


「冷え性じゃない人にはわかりませんわ」


佐久間さん

「お前、指細いな。そもそも手が小さいが」


 そう! 拙者、実は割と瘦せ型なほうでござる。

 だから指も細い! 関節も目立たないしね。

 前職でストレスを溜め込んだ結果、めちゃくちゃ痩せた!

 というか、やつれた!

 いや、身長は一般的というか平均的なほうだよ?

 前職を辞めてからは、普通体型に割と近付いてるよ!

 でもね、すらっと全身が細いわけじゃなくて、脚はしっかりしてるんだ!

 休職しているあいだ、1日4時間とか歩いてたからね!

 親は『なかなか帰って来ないな』と思ってたらしいよ!

 ふくらはぎとか、割とムキッとしてるよ!


「手は身長に対して小さいほうですね」


佐久間さん

「薬指何号?」


「5号でも入りますけど、7号のほうが安心ですね」


佐久間さん

「5号でも入るのか……」


「ぴったりフィット! って感じなので、むくんだときとかキツそうです」


佐久間さん

「……なんでそんなに自分の指のサイズを熟知しているんだ?」


「リングケージ……ん? サイズケージ?

 なんか指のサイズを測れる輪っかのやつ持ってるんですよ」


佐久間さん

「ああ……なるほど。

 この中指のやつはいつも着けているが、大事な物なのか?」


「そうですね。自分で買った物ですけど」


佐久間さん

「ふうん……」


 さて、まずは湖の観察をしましょう!

 今日もガチョウがいっぱい居るな!

 ……なんか、年々増えてる気がするんだよな……。

 人間が湖に近寄ると餌がもらえると思って寄って来るの可愛いよね。

 とりあえず、近くに居る子たちを撮りましょうかね。

 そういえば子どもの頃、父のカメラを借りてレンズキャップを池に落としたことがあったなあ。

 20年以上前のことだけどな!!


佐久間さん

「けっこうあっさり撮るんだな」


「こだわりが特にありませんので。

 このカメラもオートフォーカスなので簡単ですよ」


佐久間さん

「へえ……。じゃあ俺が動揺するようなことを言ってもブレないのか?」


「ん、どうでしょう。手振れ補正はありませんからね。試してみますか?」


佐久間さん

「なんだその余裕の表情は。腹立つな」


 失敗した……実際に試されたら動揺するに決まってるだろ!!!!

 こちとら恋愛経験が乏しいんじゃ!!!!

 動揺することってなに言われんだ!!!!


「前の職場は夜勤だったので、仕事が終わったあと、よくここに来てウォーキングしてたんですよね」


佐久間さん

「夜勤ってことは、早朝か?」


「はい。同じ職場の友人とか先輩とかと一緒に来てました。

 右回りで行きますか? 左回りで行きますか?」


佐久間さん

「どちらでもいいよ」


「じゃあ左回りで行きましょう。私はそのほうが好きです」


 と、佐久間さんがまた手を差し出す。

 今度は素直に左手を乗せましょう。

 男性と手を繋いで歩くなんて数億年ぶりでござる。


「今日は人が多いので猫はいなそうですね」


佐久間さん

「猫?」


「この公園、猫がいっぱい居るんですよ。

 もとは野良猫とか捨て猫だったみたいですが、この公園の運営が管理しているらしいです。ほとんどの猫が桜耳ですよ」


佐久間さん

「へえ……。人慣れしている猫じゃないと出て来なさそうだな」


「そうですね」


佐久間さん

「木がたくさん生えているが、春になったら桜になる木もあるのかな」


「どうでしょう。意識して来たことがないので、見たことないですね」


佐久間さん

「じゃあ、春になったらまた来ような」


「……」


 思わず黙り込んでしまった。

 春になるまで、私の命はもっているだろうか。


佐久間さん

「この先、お前が三日月川大橋のてっぺんに行くのはなんとしても防がせてもらうからな」


「……もし、私がもう一度、三日月川大橋のてっぺんに行ったら、どう思いますか?」


佐久間さん

「どう思うだろうな……。

 命綱になれなかったことを悔やむかもしれないな」


「……悲しいですか?」


佐久間さん

「そりゃそうだろ。

 愛した女が死んで、悲しまない男はいないだろ」


「……」


佐久間さん

「俺が命綱になることがそんなに不服か?」


 不服なわけがない。

 誰かに愛されたいと思っていたことは確かだ。

 だけど……。


「……いつかまたひとりになるなら、

 深入りしないほうがダメージが少なくて済むでしょ」


佐久間さん

「……いつか俺がお前のもとを去ると思っているのか?」


「……いつもそうでしたから」


 ひとりになんてなりたくなかった。

 でも、いつもひとりだった。

 私は嫌われ者で、愛される人間じゃない。

 愛される価値のない人間。

 だから、死ぬまでずっとひとりなんだ。

 いや、死んでもずっとひとりかもしれない。


「頼れる人を作りたくないんです」


佐久間さん

「なぜ?」


「自分の足で立っていなくちゃならないからです」


 本当は、頼れる人がほしい。

 親も友達も頼りにできない。

 安心して頼れる人がそばにいてほしい。

 でも、そんな人はどこを探してもひとりもいない。

 だから自分の足で立っていなくちゃならない。

 自分の力だけで生きていかなくちゃならない。

 でももう、足腰にガタがきてますわ。


佐久間さん

「……だからお前は他人を信用できなくなったんだな。

 俺がお前のもとを去るつもりがないことは、これから信用させていくしかないな」


 ちなみに泣きながら書いてるからなコレえ――――!!!!

 はっ、失敬。真面目な空気に耐えられなくなったでござる。


「ちと心の内を見せすぎたでござる」


佐久間さん

「え、全然見えてないけど」


「忍者は隠密ゆえ、心の内をそう易々と見せるものではござらん」


佐久間さん

「見せてくれないとお前が何を求めているのかわからないだろ?」


「わからなくても自分で考えてやるんだよ!!」


佐久間さん

「昭和の上司みたいなこと言うなよ」


「拙者が求めているものはひとりでも生きていける安定した仕事と財力でござる」


佐久間さん

「俺に求めるものを教えてくれっつってんだよ」


「……」


佐久間さん

「え、うそ……ないってことはないだろ……?」


「年明けまでには考えておきますわ!」


佐久間さん

「もう年は明けてんだよ。

 まさか来年まで俺を振り回すつもりなのか?」


「拙者を娶るからには一生振り回される覚悟をしておいていただかないとですな」


佐久間さん

「う、そうか……。わかったよ」


「で、いつまで俺を振り回すつもりなんだ! ってキレるところまでが1セット」


佐久間さん

「なんのセットなんだよ。コントじゃねえんだから。

 というか、一生振り回される覚悟をさせるってことは、俺に娶られることは確定ってことでいいんだな?」


「おやおや、お話が随分と飛躍したでござるな」


佐久間さん

「してねえだろ。誰でもそう思うだろ。

 お前いま俺のことどう思ってんだよ」


「ボケてもいないのによく突っ込んでくるなー……」


佐久間さん

「ジャストナウの話じゃねえしボケてるつもりねえのかよ。

 お前を娶ろうとしている男としてどう思ってんのかって話だよ」


「んー……よくわかりません!」


佐久間さん

「え」


「これほどまでに好意を真正面からぶつけられたのは初めてです。

 きっと佐久間さんは信用できる人だと思います。

 でも、いままでの経験が邪魔をして信用しきれていません。

 信用してもいいのか信用しないほうがいいのか、それを見極めきれていないファジーな立ち位置ですね!」


佐久間さん

「なるほどな……。まあ、どうとも思っていないよりは進歩したのかな」


「歩み寄りは互いに一歩ずつでいいんじゃないですか?」


佐久間さん

「そうだな。お前は一歩の幅が狭いみたいだが」


「マイペースを極めた忍者で面目ない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る