神の贋作は目を向ける -2

「……え?」

 やけに親しげで、エヴァ自身聞き覚えのある声だった。

(聞き覚えがあるなんて、そんな問題じゃない……!)

 その声は、あれだけ探しても見つからなかった人のもの。

 勢いよく声のした方へ顔を向けると、そこにいたのはかなり髪が短いシスターの姿だった。

「こ、コーラル!」

「なに、そんな慌てて」

 まるで他人事のように振る舞うコーラルは、なにも知らない様子で笑いながらエヴァに近づいてきた。

「いやぁ久しぶり、最近帰れてないけど教会は変わった事ない?」

「や、あ、そうではなく!」

 つい、声を張ってしまう。

「今までなにを、みんな探していたのに!」

「いや、探していたもなにも書き置きしたはずだけど」

「……書き置き?」

 突然の話の展開に、エヴァもすっ頓狂な反応をする。

「……本当になにも知らないの?」

 驚いた表情を浮かべるコーラルに、小さく首を縦に動かした。

「ったく……誰か間違って捨てたかな」

「話の途中に失礼、シスターコーラル」

 動揺するエヴァに変わるように、リベリオが間に入ってくる。そんなリベリオを見たコーラルは、物珍しそうにほう、と言葉を零した。

「お、あんたか噂の祭司は。顔を見る前にこっちきちゃったからな……ごきげんよう、私はコーラル」

「ごきげんよう、祭司のリベリオと申します。こちらへはミサの手伝いに侍従役のシスターエヴァと参りました」

 丁寧に頭を下げたリベリオを見て、すうとコーラルは目を細めた。

「へぇ、祭司というより王族みたいに礼儀がいいな」

 あまりに第六感がよく、エヴァもリベリオも一瞬だが黙ってしまった。この国に王様という概念はないが、リベリオの立場を考えればあながち間違った話ではない。

「冗談だよ、で、祭司様は私になにか?」

「……えぇ、申し訳ないのですが、先日あなた方が夜にやっていた事を突き止めてしまいまして、その直後にシスターコーラルの行方がわからなくなったので、探していたところなのです」

「……へぇ、バレたの」

 その言葉は、集会に対してのものだった。

「悪い事をしてるとはわかってたけどね、どうしてもお腹空かせた子どもを見たらほっとけなかったんだよ……罰は受ける」

「いえ、その気持ちはシスターとして正しいと思います。少なくとも私達は、あなたを責めません」

「……どーも」

 面と向かって褒められるのは、どうやら恥ずかしいらしい。そんなぶっきらぼうな返事をリベリオにしたコーラルは、ごまかすように背伸びをする。

「この教会は昔から特に集会や人集めといった事に特化したシスターがいないから、集会役のメンバーが時々泊まりがけの手伝いをする事があるんだ。それも新しいシスターが入った関係でしばらくはないとは聞いていたが……この前からそのシスターが流行り風邪で寝込んでいるらしくてね」

 若干疲れた表情を浮かべるコーラルは、おそらく今日まで一人でそれをこなしていたのだろう。

「普段ならあらかじめ決まっているから空ける日は他の集会メンバーや誰かしらに伝えるけど、今回は急だったからね……つい近くにあった紙で書き置きをして出てきたんだ。それこそ夜の集会をやっていたメンバーの目にはつきそうな場所にね」

(心の声から聞こえるのにも、嘘はなさそう)

 コーラルの言っている内容はエヴァが聞く限り、すべて本当だった。

(ならば考えられるのは、誰かが隠した……なんのために?)

 材料が、話の結論を出す要素がまだ足りない。そう思えてしまい、エヴァはそっと目を伏せた。

(もう少し、なにか材料がないと)

「エヴァ、行くよ」

「へっ?」

 突然手を引かれて、一気に意識を戻した。

「へ、じゃないよ、ミサの手伝いきてくれたんでしょ、こっち」

「え、あ、ちょっと、リベリオ様!?」

「私は予定通り分所内で挨拶周りをしますので、ゆっくりしてきてください」

「いやゆっくりと言われましても、コーラル!」

「ははっ、エヴァってそんな声も出せたんだな」

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