第6話
幼馴染の彼は、最後にあった3年前に出会った時よりもずっとずっと美しくそして逞しくなっていた。
「綺麗になったね。ソフィア」
「………おっきくなったわね、アルフレッド。のっぽになりすぎて、わたくしがあなたを見上げるのが大変になったわ」
「じゃあ、これならどう?」
アルフレッドは迷いなくマリンソフィアの前に美しい所作で膝をついた。その姿はまるで、1枚の絵画のようで、騎士そのものだ。だが、マリンソフィアは気に入らない。
「………………」
「ふっ、不服そうな顔」
マリンソフィアはプイッと横を向く。
「………ここ3年、連絡すらくれなかったくせに」
「ごめん」
「………こっちはいっぱい心配した」
「そっか、嬉しいな」
「………ちょっとは反省したらどうなの?」
「ごめんね」
「軽い謝罪ね」
「………どうやったら、君を満足させられる?」
「さあ?土下座でもしてここでずーっとわたくしに許しを乞うたらどう?」
マリンソフィアはそう言うとクラリッサが持ってきた朝食を頬張り始めた。ふわっと広がる柔らかいパンの感触と甘い桃のジャムの味に目を細めたマリンソフィアは、次にクリーミーそうなコーンスープに口をつけた。優しい味が口いっぱいに広がり、あっという間に朝食のお皿が空になってしまう。
そして意識が朝食以外に向いた次の瞬間、真横で土下座をしているアルフレッドの姿が目に入った。できる女なクラリッサもいつの間にか消えている。
「!?」
「………………」
「………顔を上げたらどうなの?」
マリンソフィアの声を無視して、アルフレッドはずっと土下座し続ける。騎士さまのようだと思った次の瞬間にはこれだけ。マリンソフィアは困り果てて、アルフレッドのそばに膝をついた。
「顔を上げろと言っているの」
「………ゆるしてくれる?」
「いいよ。許してあげる。だから、ーーー顔を上げて」
アルフレッドは、マリンソフィアの表情に嬉しそうに笑ってぎゅっとマリンソフィアに抱きついた。幼子のようにすりすりとマリンソフィアの方に額を当てて甘える彼は、マリンソフィアの知っている昔の彼そのものだ。
「大好きだよ、アルフレッド」
「ん、僕も」
優しい表情のマリンソフィアと泣きそうなアルフレッドは、友愛を交わし合った。
マリンソフィアはすっと立ち上がり、そしてアルフレッドに手を差し出した。腰から前にきてしまった髪を耳にかけると、アルフレッドが目を丸くする。
「………かみ、きったの?」
呆然とした問いかけに、マリンソフィアはにんまり笑う。
「そう、切っちゃったの。邪魔だったから」
「そっか………。僕、ソフィアのさらさらした長い髪、結構好きだったんだけどな………」
「そう?わたくしは長すぎるあの髪は汚らしいと思ってたんだけど」
アルフレッドに髪をさわさわとされたマリンソフィアは、居心地悪そうに視線を彷徨わせる。顔が心なしか赤くなっている気がする。
「そう、なんだ。いつ切ったの?」
「昨日の夜。思い立ったが吉時って思って、ナイフでスパッと」
「は?」
「?」
呆然としている彼に、マリンソフィアは怪訝そうな顔をする。なにを驚く必要があるのだろうか。
「………はあー、ザンバラだなーっては思ってたけど、まさか自分で自分の髪を束ねてナイフで削ぎ落としたの?」
「そうだけど?」
彼はなおのこと大きな溜め息をついてマリンソフィアの手を借りずに立ち上がり、マリンソフィアが座っていた席の真前の席にどかっと腰を下ろした。
「………ハサミ、ある?」
「? あるわよ。裁縫用でいい?」
「この際ハサミならなんでもいい」
そう言ったアルフレッドに、マリンソフィアはハサミを手渡した。
「髪、整えるから絶対に動かないでね」
マリンソフィアは目を見開いて戸惑った。
(髪を整える?誰の?彼の?え、でも、彼立ち上がってわたくしの方に来ているわよ!?)
ーーーさくっ、
マリンソフィアが動けなくなって固まっているうちに、アルフレッドは彼女の癖がつかない真っ直ぐでサラサラな髪を手櫛で整えてささっと切り始めた。
「はい、完成」
数分にも満たぬ行為の末、アルフレッドは満足そうに頷いた。
「ほら、鏡の前に行けよ。綺麗になったぞ」
マリンソフィアは不安そうに彼を見遣ってから立ち上がり、大きな全身が映る鏡の前に立った。
するとそこには、胸より下の腰の長さでふんわりと切り揃えられた真っ白な髪に、サファイアのような瞳、そして青薔薇のような洋服を纏った少女が立っていた。胸元には、彼からもらったネックレスが………、
(!? ね、ねねね、ネックレスが丸見えだわ!!アルフレッドに気づかれちゃう!!)
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