第28話 言えない言葉
「そんなものが好きなのか。変わった奴だな」
「チマチマしてるだけで何が楽しいんだよ」
「よくこんな甘ったるいもの食えるな」
自分の事が知られたときはいつも同じ反応だった。
別に悪いことをしている訳でもないし、彼らに迷惑を掛けているのでもない。自分の嗜好や趣味も珍しいものではなく、どこにでもあるありふれたものだ。
だが、その当たり前や当然がここでは通用しない。周りと明らかに違うからだ。
ドワーフという種族は豪快な人物が多い。他の種族からは言動が乱暴で大雑把に映ることもあるが、基本的には裏表がない者たちばかりである。
だからこそ遠慮のない言葉が容赦なく浴びせられた。彼らに悪意はない。自分の好きな物を本当に理解できないだけで、ただ思ったことを素直に口にしているだけだ。
小さな集落だからこそ噂が広がるのも早く、気づけば変わり者として扱われていった。
親から叱られたことはなかったが、やはり理解されなかった。自分を見る目もどこか遠慮がちで、周囲から色々と言われて泣いている母を見たこともある。思い悩んでいる父の姿も目に焼き付いている。腕利きの鍛冶師だった父からすれば、抱えている思いは想像以上に大きかったのかもしれない。
一時期は本当に手芸道具を捨てようと考えたこともある。それで話が収まるなら一番簡単な解決法だ。
しかし結局止めることなどできなかった。
自分でもどうしてこんなに好きなのか理由はわからない。ただ好きな事を止めた自分より、周囲に悪く言われる方が遥かにマシだと思えた。
「どこかおかしいんじゃないか」
争いごとが嫌いな自分には、周囲に反抗するという選択肢が取れなかった。どれだけ言われても言い返せず、自らの心を上手く伝える術も知らない。わかって欲しいとも思わなくなっていった。
だから我慢するだけだ。痛みを感じなくなるまで。自分にはそれしかできなかった。
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