第26話 忠誠
「実!実!」
俺は、苦しそうに母方の叔母と瓜二つな顔をしかめ、うなり続ける実弟を揺さぶるが、弟は、正気に戻りそうにない。
「お前……何を……!」
俺は悪党を見る。自然と睨みつけるような目つきになっていると思う。
「う〜〜ん?だからこれはボクの呪術、経世済民だよ」
「だからそれが何かと聞いている」
コイツは俺を苛立てる種類の人間だ。
飄々としていて、それでいて中身がない。無鱒名魁のような部類の。
いや、無鱒名はまだマシか。
「そんなことより、忠くぅーん!戦お!戦お!」
「まず、この術のことを俺に教えろ。いや……それよりコイツの術を解け」
「やーだー」
俺は黙りこくってしまった。……いや、呆れて物がいえなくなったという言葉が適当なのだろうか。いまいち適当な言葉が思いつかない。
ただ、一つ言えるのは━━
俺は確かに憤っているということだ。
「人言を 繁み言痛みおのが世に 今だ渡らぬ、朝日川渡る」
自然と、本当に何も考えずに俺の口からは、祓い語が発されていたのだから、この憤りは確かなものなのだろう。
嬉しい。本当に喜ばしいことだ。
俺はこんな時に不謹慎ながらにも、そんな感情を抱いてしまった。
理由は、一つ。
俺は弟のことが大嫌いな冷血男だと思われている。
他の祓い屋に、父母に、そして━━実、自身にも。
本当はそんなことないのだけれど。
むしろ俺はコイツが好きだ。
本当に。心からそう思う。
確かに、最初━━大体顔立ちが決まってくる五歳頃、逝ってしまった最愛の人と同じ顔になってきた弟を見た時は、大分心臓が高鳴り、頰が熱くなったことを今も鮮明に思い出せる。
確かにそれが理由の一つであることは否めない。
だが、この気持ちはそんな安易で簡潔なものではない。
実といると心がそこからなくなったような感覚に駆られる。
実といるとついつい口角が上がる。
実といると安心する。
だけど、俺は実を虐げ続けなければならない。
理由は一つ。
俺は、憎き男━━誠陵厳のお気に入りの長男でいなければいけないからだ。
理由は単純。もし、俺が奴に敵意をむき出しにしたら、奴はいくら俺が優秀だとしても俺とは二度と関わらないようにするだろう。
しかし、祓い屋の名門、誠陵家の跡取り合戦は必ず始まる。
そうなったら、あの父親のことだ。
かなり高い確率で━━いや、絶対的に実を跡取りとするだろう。
全く実力が伴わないとしても。
そのようなことになったら実が可哀想だ。
他人というのは他人相手だと平気で暴言を吐ける。
もし、実が当主になってしまったとしたら、奴のような心ないことをいう人間が何人も現れるだろう。
そんなことになったら、実が本当に壊れてしまう。
俺は、口を聞くだけで
頭の弱いお前なら、俺がお前のいいなりになり、お前の気に入らない次男を虐げているだけで、さぞ忠誠を誓われているような気にでもなるのだろう。
だが、勘違いするな。
俺がずっと忠誠を誓ってきたのは━━
「実!!」
「兄……上……?」
だから、自分の心の内に秘めた感情を忘れてなかったことを思い出せると、そのたびに嬉しくてたまらなくなるのだ。
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微薔薇ですが、あまりぶっ込まない予定なので、続きも見て行ってくださると嬉しいです!
よかったら、⭐︎もくれると嬉しいです!
泣いて喜びますよ!?ホント
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