第15話 傷心森人と森でデート♪と、思ってたら不穏な気配

 ミミズクを飼いはじめてから、少しずつ心を開いてきている森人エルフのエルス。


 だけど、彼女の負った心の傷は、わたしが思っているよりも深いみたい。


 エルスには、小鬼の洞穴での悲惨な経験からトラウマ的な後遺症なものが残っている。


 1つは、極度の閉所恐怖症。

 窓がない部屋はダメね。

 眼が不自由な分、他の感覚で補いはじめているみたいなんだけど、空気の流れや匂い、音などで閉所だと感じると、震えだしたり、過呼吸になったりしてしまうわ。

 

 もう1つは、超極度の男性恐怖症。

 こっちはもっと酷い。

 自分の意識の外から急に男性に触れられると、小鬼達に犯されていた時の記憶がフラッシュバックしてパニックになって発狂寸前まで行ってしまうことも。

 

ある日の伝え聞いた出来事。

「エルスさん。おはよう」

 ポン。と何気なく肩を叩いたウチの兵士さん。因みに魔族。悪気は勿論ない。

「ヒッ!!」

 ガタガタと震え出すエルス。

「また、わたくしを……

 イヤ、イヤ!いやぁぁぁぁぁぁ!!

 犯さないで!!

 孕ませないで!!!

 もう、産みたくない!!!! 

 イヤ、イヤ!いやぁぁぁぁぁぁ!!

 助けて、助けてぇぇぇ!

 許して、ゆるして、赦してええええええ!!

 犯さないで!孕ませないで!殴らないで!!

 ルクスリア姫さまぁぁぁぁぁ!」

 等と、わたしの留守中に大事に…

 落ち着かせるのに、相当かかったわ…


 それでも、そんな障害と戦いながらも日々、リハビリ?に精を出しているエルスなの。

 

 朝


 こっそり、毎朝、鍛練をしているわたしは訓練所に足を運ぶ。

 そこで

 

 ヒュン!

 トス!

 ヒュン!

 トス!


 リズムよく何かの音が聞こえる。

 訓練所に行くと、エルスが弓の練習をしていた。

 眼が殆んど見えないはずなのに矢は全て的の中心を射抜いていた。

「あら?おはようございます。ルクスリア姫さま」

「凄いわね。殆んど見えていないのよね?」

「はい。ですが、動かない的ならこれくらいはやってのけなくては森人エルフの名が泣きますわ」

 さすが森人エルフ。弓の扱いは12種族1と言われるだけはあるわね。

「それに、この子がわたくしの眼になってくれます」

 エルスは肩に止まっているミミズクを撫でる。

感覚共有センスリンクという魔法ですわ。自分の契約した使いファミリアと一部の感覚を共有することができますのよ?」


 へぇ~、そんな魔法もあるのね。


「ええ。そうですわ!ルクスリア姫さま。お願いがあるのですが……」


 を?エルスからお願い?なになに?

 ちょっと嬉しい、わたし。

「森などあればつれていってほしいのです。感覚共有センスリンクの練習も伴い、狩りなどしてみたく思いますわ。足の状態も承知の上でございます」

 ふーん、狩りねぇ……

 獲物を追える足ではないけど、ずっとお城に籠ってるよりはいいよね。彼女、森人エルフだし、森に行けば少しはリフレッシュになるよね?

「よし、じゃあ、狩りになるかは分からないけど、森を散策しに行ってみよう!」

「まあ!ありがとうございます!うふふ、楽しみですわ」

 こうして、わたしはエルスを伴って近くの森に足を運ぶことにする。因みに、今回ルナはパパから頼まれたお仕事で不在中。

 森には大型の魔物などがいるという報告は聞いてないから、そんなに危険はないでしょう!


 


 森へは馬で来てみたわ。

 ウチの馬はよくしつけられていて、主を送ったあと、自分でお城にもどるんだって。帰るときは専用の「馬笛」を吹くと、そこにお迎えに来る。

 お利口ね!

 

 予約していても来やしないタクシーとは大違いだわ!

 お陰様で何度、帰れなくてネカフェで泊まったりしたことか!

 会社に勝手に泊まって嫌み言われたか!!

 タダでホテル泊まりたかったからネ申待ちもしたし!!!

 無理矢理、マッチングアプリで会って、お金もらって、ホテル泊まる代わりに、性欲処理したり!

 

 ぜぇぜえ。


 現代の忌まわしい記憶よ、去れ!!!


 それはそうと、ウチのお馬さんには妖精の血やら、因子が混ざっているから、タクシーみたいなことが出来るみたいよ?


「ああ、森を抜ける風が心地よいですわ」

 森には豊かな自然が溢れている。

 まー、中身は現代人のわたしからすれば、こんな広大な森はなかなかみたことないわね。

 エルスは歩行補助用の杖をつきながらゆっくり歩く。

 吹き抜ける風。

 木々のざわめき。

 降り注ぐ木漏れ日。

 森人エルフのエルスの心を癒やすにはかなり効果的かもね。

「ええ。そこに隠れているのね?」

 エルスは肩のミミズクに声をかけ、弓を構える。

 

 キリキリ


 弓を絞り、射かける。


 ヒュン!トス!


 エルスの矢は草むらに隠れていた野うさぎを仕留めていた。

「へぇ、大したものね」

「ええ。この子が見つけてくれました」

 肩のミミズクを腕に乗せるエルス。

 

 ちょっと!ちょっと!保護具とかしてないじゃん!


「ええ。我々、森人エルフは猛禽類を使役する時にはグローブは使いませんのよ?」

「ええええええ!!痛くないの?爪とか食い込むよね?」

「うふふ、そこは慣れですわ」

 仕留めたウサギを啄むミミズク。

「ちょ。ちょっと!啄んでますけど?」

 小首をかしげるエルス。

「あら、この子のお陰で仕留められた獲物ですわ。お礼に少しお裾分けしませんと」

 な、成る程。森人エルフの風習なのね。

 ある程度ミミズクに啄ませたウサギを処理してマジックポケットにしまうエルス。

 手慣れてるわね(汗)


 手慣れたもので、エルスは使い魔のミミズクと視覚を共有し、野うさぎを見つけては的確に射抜き、仕留めている。

 ま、わたしはついでに食べられるキノコとかを見繕って採ってるけどね。

 豊かな森の恵みに感謝ね♪

「どう?足の具合は?」

「はい。これくらいゆるりとした動きなら疲れも殆んどありませんわ」

 おやつがわりに木の実を食べながら談笑するわたしたち。


 !?


 囲まれた気配がする。

「誰!」

 わたしはエルスを庇うように立つ。

 すると、周囲から、犬耳に犬尻尾の人たちが武器を持って姿を表した。明らかに警戒している。

 犬耳の獣人ビーストね。

「魔族に、森人エルフか。この森に何様だ?」

 リーダーっぽい人が一歩前に出てくる。

「何様って、狩りと散策を兼ねて来ただけよ!あなた達こそ何者よ!ウチの領地内でなにやってるの?」

 わたしの姿を見て、リーダーっぽい人が続ける。

「領地内?ああ、あそこの魔族の姫かお前は。確か、だったか?」

 

 うっ!とっ~ても引っ掛かる言い方だわ!

 直訳すると『』ルクスリアって呼ばれてるみたいじゃない!

「ここは我ら獣人ビーストの領域、魔族の姫と言えど勝手な狩りなどは困りますな」

「仕方ないでしょ?知らなかったんだから!」

 ちょっぴり腹の立ったわたしは口答えしてしまう。

「何を今さら!」

「100年意識不明で寝てて記憶がないんだから仕方ないでしょうが!」

 一触即発。

「信じられるか!今回のあの連中だって!」

「あの連中って何よ!」

「豚どもの事だ、知らないとは言わせない!」

 豚?いや、ホントに知りませんけど…?

「あのね、わたしは起きてからはじめてこの森に来たの、事情を知らなかったことは謝ってるじゃない!」

 だんだん、ヒートアップしてくるわたし。

「この界隈で姦淫のルクスリアを信用する者はおらんよ。お前がどれだけの事をしてきたか…」

「だから、記憶もないし、100年も経ってるからそんなの時効でしょ!」

「ジコウ?何だそれは?」


 嗚呼、そうでした。バリバリのファンタジー世界ですものね、寿命があって、ないような種族もいますもんね。そりゃあ、時効の概念もないわね…


「ぐぬぬ…じゃあ、どうやったら信用してもらえるのよ!」

「そうだな…では、森に現れた豚どもを討伐してくれ。そうしたらお前の言うことを信じてやろう」


 腹立たしさMAXのわたしは売り言葉に買い言葉。

「わかったわよ!その、豚?豚人オーク?わたしがぶっちめてきてやるわ!見てなさいよ!」

 獣人ビースト達はニヤリと笑い頷いていたみたいだけど、それには気づかないわたしでした。

「その代わり、わたしが戻るまでこの子を保護して丁重に扱ってよね!」

「ああ、約束しよう」


 そして、わたしは豚人オークどもが巣くっている辺りを案内される。



 どうせ、小鬼ゴブリンと同じようなもんでしょ!

 軽くやっつけてきてやるわ!



 などと息巻き、完全にナメプだったわたしでしたが、その認識が覆されてとんでもないピンチに(汗)



 そのお話はまた、次ね♪

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