第14話 森人の娘を救え!こうなったら、アニマルセラピーだッ!

「いや!いやぁぁ!産まれ、産まれるぅぅぅ!!」

 今日も、森人エルフの女性の部屋から悲鳴が聞こえる。

 小鬼の所から助け出してから、毎日の様に…


 近くにいるときは落ち着くまでギュッと抱き締めてあげるんだけど…

 彼女の心のキズは相当深いわね。


 今、わたしは、同じく小鬼の所から助け出した人間の女の子を部屋に呼んだ。キッチンで働いてもらってる。

「姫さま。お茶をお持ちしました」

「ごめんなさい、忙しいでしょ?」

「いいえ。皆さんにもよくしてもらってますし。姫さまのお声がけとあれば」

「そう」

 わたしは、彼女の淹れてくれたお茶を一口飲んで、例の森人エルフの女性について話を聞く。

「あの人ですか?あの人は私達が捕まるずっと前からゴブモンドに囚われていたようです」

 来日も来日も犯され、孕まされ、産まさせられた。

 死ぬに死ねない、適当に生かせれ続ける生活が長く続いたそう。逃れられない様に片足の腱も切られている。

「私が囚われた時には目には絶望の色しかなく、心も壊れてしまっていた様でした。今は、眼も殆んど見えないそうです」

「眼が?」

「はい。何せ不衛生でしたから、何らかの感染症が悪化してしまったのかもしれません。あの人を湯につかわせた後、それは酷い様子だったと聞きました」

 成る程ね。

「私も何度も犯されましたが、あの人の受けた苦しみに比べたら小さいものです。幸い、私は小鬼ゴブリンを孕む事はありませんでしたし」

 辛かったであろう事を丁寧に話してくれた。

「彼女、食事は?」

「日によって、というところですね。だいぶ食も細くて…」

 そうなのね。

「ありがとう。辛いこと話してくれて」

「いえ。姫さまには全てを救われましたから、これくらいはお安いご用です」

 そういい、彼女は「仕込みがあるので」と去っていった。


 話の後、わたしは森人エルフの女性に会いに行く。まだ、名前も聞き出せていないのよね。

「こんにちは、良い天気よ?たまには外に出ましょ?」

 虚ろな眼差しでわたしを見た彼女はコクリと頷き、フラフラしながらもその場で立ち上がる。

 足の腱が切られている彼女は歩くのもままならない。わたしは彼女を支えながら庭に出る。


 良い天気♪


「自己紹介をちゃんとしてなかったね」

 わたしは日溜まりのベンチに彼女を腰掛けさせて、隣に座る。

「みんな姫さまって呼ぶけど、わたしはルクスリア。よろしくね」

 手をギュッと握る。

……

………

 あ

…………

「暖かい、手ですね」


 !?


 ポソリ、とだけど彼女がしゃべった。

わたくしは、エルスです。ルクスリア姫さま…」

 エルスって名前なのね?

 素敵な名前ね!

「よく、見えませんが、ルクスリア姫さまの暖かさは伝わり、ます」

 細々と話す、エルス。

 すっと、手を太陽にかざす、エルス。

「ああ、太陽です。この暖かさは、太陽です。何と暖かい…」

 一陣の風が吹く。

「ああ、草木の匂いです。命の匂い……」

 エルスの頬を涙が伝う。

「ルクスリア姫さま…もう、小鬼は、いませんか?産まれませんか?」

 わたしはエルスをギュッと抱き締める。

「ええ。いないわ。産まれないわ。いてもわたしがやっつけてあげるから!あなたは何も心配しなくていいのよ」

「ああ、嬉しい……やっと、解放されました」

 この日を境に、少しずつ、エルスの状況はよくなっていく。

 ただ、失った視力と切られた腱は戻らない。


 どうしたものかしら……


 悩む日々が続く。

 ただ、わたしは毎日、エルスを庭に連れ出す。歩行訓練も兼ねてね。

 晴れの日。

「ああ、暖かい。今日は晴れていますね」

 雨の日。

「草木の湿った匂いがしますね、雨でしょうか?」

 杖を使ってゆっくりと歩けるくらいまでは出来る様になるエルス。

 

 そんな、ある日。

 月が綺麗な夜。

 気候も暖かく、ケープを一枚羽織らせ、エルスを夜の庭に連れ出す、わたし。

「ああ、今は夜ですね?静かです。月の光が降り注ぐ音が聞こえるかの様です」

 何をするわけでもない、夜の庭をゆっくりと、エルスのペースで散策。

「どう?夜のお庭は?」

「はい。静かです。好きな静けさです」

 東屋で休憩をしていると、何がエルスに向けて飛来してきた。

「なに!?」

 驚くわたし。

 エルスの肩に、白い、えーと、フクロウだかミミズク(区別つかないのよね、わたし)が止まって、キョロキョロとしている。

「まあ、ミミズクですか?うふふ」

 エルスは、指でミミズクをつつく。くすぐったいのか、ミミズクはその都度まばたきをしたり、モゾモゾしたりしている。

「ルクスリア姫さま。ミミズクやフクロウは夜でもよく見えるそうなのですよ?優秀な使い魔になります」

「そうみたいね」

 楽しそうなエルス。

 森人エルフだから、森の生き物とは仲がいいのかしら?


 !


 !!


 !!!


 これだ!!!!



「如何したのです?ルクスリア姫さま」

「ねえ、エルス。そのミミズク、飼いましょう!あなたがお世話してね♪」

「ええ!?そんな、わたくし、目が」

「いいから、いいから♪」

 ミミズクもエルスに頭を擦り付けたりして懐いている様だ。

「ね?この子もそうしたいみたいよ?」

 どこか柔らかい表情になったエルスがミミズクを撫でる。

 このミミズクもエルスが気に入ったのか、エルスの肩に乗ったまま動こうとしない。

「決まりね!」

「は、はい。よろしくね、ミミズクさん」

 戸惑いながらもどこか嬉しそうなエルス。


 

 ミミズクを飼いはじめてからエルスの環境は少しずつ、少しずつよくなっていく。

 エルスによく懐いているミミズクはヒトを怖がらないので、お城のヒト達がエルスに声をかけてはミミズクを撫でている。

 戸惑いながらも、ミミズクをきっかけにお城のヒト達と交流していき、徐々に笑顔が増える、エルス。

「エルス!おはよう!お前も元気みたいね!」

 わたしはエルスを訪ねる。

 肩のミミズクの顔を撫でると羽をパタパタさせるのが可愛い♪

「ルクスリア姫さま。おはようございます」

「最近、表情が明るい時間が増えたわね!こいつのお陰かもね♪」

 わたしはミミズクの背中をチョコチョコと撫でる。

「確かに、この子のお陰でどこか心が楽になったかもしれません。ルクスリア姫さま。何かなさいましたか?」

「なにも?動物にはヒトの心を癒してくれる効果があるって聞いたことがあったから、試してみた」

 ニッコリ、微笑み答えるわたし。

「成る程。ルクスリア姫さまにしてやられたわけですわね?」


 そゆこと

 とりあえず、アニマルセラピー作戦はうまくいっているみたい!

 よかった、よかった。

 

 確かに、エルスは笑っている時間が増えたけど、実のところまだまだ心のキズは深く、問題を抱えているのは言うまでもない……

 わたしは、過去の経験から何処かエルスを放っておけないの。

 あの娘の二の舞にはさせない。

 それが、わたしの独りよがりの想いだとしても、ね。


 そんな、エルスには直ぐに大きな転機が訪れるのでした。捨てる何とかあれば、拾う何とかもアリってやつかな?


 それは、また別のお話。

 

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