第9話 どうせ、わたしは蠍座のオンナ

 小鬼大英雄グランドチャンピオンゴブモンドと対峙するわたし。


 改めて見ると、ゴブリンチャンピオンというのがどれくらいの個体かが伝わってくる。

 少なくとも、普通の小鬼ゴブリンの2~3倍のサイズ。

 身長は2メートルは超してるわね。

 良く見れば身体は筋肉の鎧で覆われている。

 持っている棍棒ですら、わたしの身長と同じくらいね。


 身体が大きければ、アレも大きい。

 あんなの、痛くて苦しいだけだわ!


 全く!大きさだけが自慢の男って、大概、セックスが下手なのよね!

 やたら咥えさせたがるし!

 そんなんで支配欲満たしたいのかね!


 きっと、このゴブモンドとかいうのも女の子の事なんかなんも考えない。というか、でかくても小鬼ゴブリンだから、そんなこと考えてないか。

 ルナ先生の講義では小鬼ゴブリンとか豚人オーク鳥女ハーピーみたいな亜人は、異性?を繁殖と性欲処理の道具としかみてないみたいね。


 それはそうと、この体格差どうしますかね。

 カッとなって大見得切って「わたしが殺します」とか言っちゃったけど…


 そうこう考えていると、ゴブモンドが無造作に棍棒を叩きつきてくる。


 うん。


 まともに当たれば即死ね。


 体格差、パワーの差は歴然ね。

 なら、相手のパワーを利用する、あの拳法よね!


 わたしは点を突くかの様なコンパクトな構えからゆったりとした構えに代える。


 公園とかでお年寄りがやってるアレね。


 そう。


 太極拳。


 隣の中国人のおばさんに、太極拳、八極拳、劈掛拳、八卦掌なんかと中国料理を子供の頃から仕込まれてるからね!

 天才カンフー少女とか呼ばれて、大学もスポーツ推薦で行けそうだったんだから!

 あんなことがなければ…


 まあ、それはともかく、廻り廻って今があるから。


 大振りの攻撃をいなすわたし。

 まぁ、小鬼ゴブリン程度じゃあ、太極拳はとらえられないわね。

 まずは、棍棒を振らせない様にしないと!


 大振りの横薙ぎの攻撃をいなし、懐に潜り込む。そのまま、肘を逆方向に打ち付け、手首を捻りあげ、そのまま腕ごと捻り、相手の背中から肩を打ち込む。


 ドーン!


 ゴブモンドの身体が壁まで吹き飛ぶ。



 気ん持ち良い~♪



 その吹き飛び方、まるで格ゲー。

 現代ではありえないわね!


 手応えあり!

 腕を捻り上げ、肩を打ち込んだ時に骨の折れる音がしたもんね。

 いくら筋肉の鎧を纏ったデカブツでも関節は鍛えられないのは人間と同じね。

 人間相手じゃ出来ない力加減で捻り上げて、打ち込んでますから、それなりに効果でてもらわないとね、

 肉体強化フィジカルエンハンスってスゴイ!

 まぁ、部分部分で使わないとへばっちゃうから使いっぱなしはできないけどね。

 さて、ゴブモンドさん。片腕を失って、どう出る?




「よっしゃ!これでしばらくは隠れていられるやろ」

 デクストラは子供を匿っている部屋を万全な状態にしたみたい。

「ほな、あの姫はんと、ごうりゅ…」

 ハッとするデクストラ。何かあったのかしら?






「アカーーーーーーン!!肝心なこと忘れとった!」

 急に叫び、駆け出すデクストラ。

「あの、ゴブモンドは」




「ゴブモンドは、魔法を使うんやった!はよ行かな!姫はん達に伝えな!」



 ぐげ、ぎゃ


 ゴブモンドの取り巻きの小鬼ゴブリンをルナが文字通り、あっという間にやっつけていた。

 中にはホブとか言う少し個体の大きい小鬼ゴブリンも混ざっていたみたいだけど、ルナの手にかかれば、変わらないのね。


「姫は~ん!ルナは~ん!」

 そこにデクストラがやって来る。

「た、大変やって!て、けったいなことになってはりますなぁ」

 デクストラが見た光景は小鬼ゴブリン達が苦しみのたうち回っている姿だった。

「姫さまに惨たらしく、苦しめて殺せと仰せつかりましたので、その様に」

「ぐ、具体的には、なにを…」

「そうですね。毒を少々」

「毒でっか?」

「はい。今、小鬼ゴブリン達は視覚、聴覚、味覚、嗅覚を失っています。あるのは触覚のみ。そこに全身を掻きむしりたくなるような不快な幻覚を与えています」

「ほな、どうなるんでっか?」

「そうですね。自分で自分を掻きむしり続けます。痛覚を数倍にする毒も使いました。己で己をかきむしり、その痛みと苦しみで死に至ります。小鬼ゴブリン程度の抵抗力でしたら、死ぬ以外に、この幻覚を解くことは出来ないでしょう」

「死ぬまで、全身をかきむしる、でっか、おそろしいでんなぁ、ルナはんは敵に回さんとこ」

「そう言うことは、聞こえない様に言うのがよろしいかと。ところで、何か用があったのでは?」

 デクストラは感心したと思ったらハッとして自分の伝えたかったことを伝える。

「あまりにエゲツない光景みたから、忘れとった!姫は~ん!ゴブモンドは、魔法を使いよる!気ぃつけてやぁ!」


 大切なこと伝えてくれてありがとう。



 そう、言いたいけど、すでに、ゴブモンドは片腕を失った怒りから、何か魔法を繰り出そうとしてるのよね…

 

「姫はん!ありゃあ火炎球ファイアーボールや!こんなところでかまされたら、みんなお陀仏さんやで!」


 いや、それは想像つくからわかるけど…

 それより、関西弁といい、「お陀仏さん」といい、現代の言葉が何でファンタジー世界にあるわけ…


 それはそうと、目の前の火炎球ファイアーボールを何とか防がないとね。

 確か、魔法を防ぐ、魔法障壁マジックプロテクションって魔法があったわね、それしかない!


「ルナ!わたしに合わせて魔法障壁マジックプロテクションを!」

「承知しました」


 ぐふふふふ


 わ、嗤った!


「魔族ノ娘ヨ、我ノ肉便器ニナルナラ、これヲ止メルガ?」


 は?


 てか、小鬼ゴブリンが肉便器とかいうはしたない言葉を知ってるの?


 ムカつく!!


「ふざけないで!アンタなんか願い下げよ!」



「デハ、死ネ!!」


 ゴブモンドは火炎球ファイアーボールを放つ。


「ルナ!」

「はい!」


「「魔法障壁マジックプロテクション!!」」



 ゴブモンドの火炎球とわたし達の魔法障壁マジックプロテクションがぶつかり合う。


 轟音が響き渡り、熱波が部屋を覆う。魔法障壁マジックプロテクションで守られていない空間はどんどん焦げ付いていく。

 勿論、小鬼ゴブリン達は巻き込まれて黒焦げに。

 女の子達は無事に保護してるから大丈夫ね。


「グフフ、バカメ。大人シク、我ガ肉便器二ナッテオレバ、可愛ガッテヤッタモノヲ」


 勝ち誇ったかの様に嗤うゴブモンド。


「そ、それは残念だわ」


 爆煙に紛れて一気に切迫するわたし。


 そして


「はぁあああ!」


 ゴブモンドに打撃を加える。


 両腕から、胴体、脚と。


「小娘ガ、先程ハオドロカサレタガ、ワガ肉体ニハソノヨウナ打撃、虫二ササレタ様ナモノヨ」


 余裕ぶる、ゴブモンド。


「ナラバ今一度、魔法ヲクレテヤロウゾ」


 魔力を集中しだすゴブモンド。


「ま、確かに。虫に刺された感じよね?」


 わたしはパチンと指をならす。


 次の瞬間、打ち込んだ打撃の後が光を放つ。


「グワアアアア!ナ、ナンナノダコレハ!?」



「虫は虫でも猛毒の蠍ね。蠍の毒は神経毒、効くでしょ?」



 このセリフ、かっこ良くて言ってみたかったんだ♪


 悶絶しのたうち回っているゴブモンド。


「うわぁ、まさに毒蠍やわぁ。蠍姫ルクスリアはんやな」


 うっさい!


 どうせわたしは蠍座のオンナよ!


 でも、星座カーストでは負け組ではないからね!


 ま、今の技も思い付きでスカーレットニードルを真似てみてんだけどね。


「さて、ゴブモンド。改心してヒトを襲わないってんなら情状酌量の余地をあげるけど?」



 毒に犯されて、全身の痛みに耐えながらも立ち上がるゴブモンド。


「フザケルナ!」


「そ、なら止めの一撃、アンタレスね」


 ゆっくりとわたしは近づき、ゴブモンドの心臓部目掛けて掌打を打ち込む。


 何も、起こらんではないか?という顔のゴブモンド。


 だけど


 数秒後に、ゴフッと血を吐く。

 そして、そのつぎの瞬間、全身から血が吹き出す。


 悶絶の悲鳴をあげるまもなく、全身の血の殆どを失い、ゴブモンドは絶命した。


「スカーレットニードルを真似てみて、降伏か慈悲かを選択させてみたかったけど、ダメね」


 わたしは小鬼大英雄グランドチャンピオンゴブモンドを冷たい目で見つめる。



「その、全身から吹き出た血は、今まであなたが壊してきたモノ、ヒト、特に女の子達の恨みが溢れだしたモノ、といったところね」




 こうして、わたしとゴブモンドの戦いが終わる。

 この時、わたし、実はとんでもない事をしていたんだけど、そんなことは露知らず。

 後で、ひっくり返るぐらい驚くことになるんだけど、その事はその時までお預け、ね♪


 

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