第8話 わたし、ぶちギレます!怒りの鉄拳を喰らえ!

「ウチは草人グラスランナーのデクストラ。よろしゅうな」


自己紹介してくるデクストラ。

 赤茶けた髪の毛に緑の瞳、そばかす。少し尖った耳が特徴だ。


 それにしても、なんで関西弁なんだろう…


「私はルナです。こちらはルクスリア公女です」

「ルクスリアはんとルナはんでんな、よろしゅう」

「子供と言うのは?」

「ああ、あの横穴にかくまってんよ。今は気持ち良さそうに寝てるさかい、静かにしてや」


「成る程、デクストラさん、話を聞かせてよ」

「デクストラでええで。姫はん。せやな…」

 こうしてデクストラは何があったのかを話し出す。


 彼女は冒険者でパーティーで馬車の護衛を請け負ったそうね。

 わたしのお家の領地の近くを通過するから、警戒されたみたい。失礼しちゃうわ!

「まー、姫はんのお家の領地を通るっちゅうんは建前や。それこそ、本当の問題は最近のこの辺りの魔物事情や」

 魔物事情?

「そや。実のところ、この界隈で最近、魔物の勢力図が変わっとるという話や」

 魔物にも勢力図があるのね。ナワバリかな?

「その中でも特にヤバイやつがおるんよ」

「聞き捨てなりませんね、当家の領内にその様な魔物がいるなど。どの様な魔物なのです?」

「キラーベアや」

 キラーベア?熊の魔物かな?

「キラーベアですか?別に大した魔物でもないかと思うのですが」

「ルナはんは事情通っぽいからなぁ、小耳に挟んだこともあるやろ。キラーベアはキラーベアでも2つネームド持ちのキラーベアや。そんじょそこらの熊さんとは違うで」

 2つネームドと聞いていつも涼やかなルナの表情にわずかな焦りが見える。

「キラーベアの2つネームド…ま、

「おそらく、そのや。クリムゾンヘルムや」

 2つネームド?クリムゾンヘルム?なんのこと?

「2つネームドというのは、あまりの強さにヒト達が魔物などに畏敬の念を込めて着けた字です。キラーベアという、何処にでもいるような熊の魔物の中でも特筆して狂暴かつ、暴力的、圧倒的な強さを持つようになったのがクリムゾンヘルムです」


 へえ~、凄いんだ。まだ、魔物に出くわしたことがないから実感がないわたし。


 デクストラの話だと、そのクリムゾンヘルムのナワバリを避けて通らざるを得ないから、馬車、つまり行商人は冒険者を雇ったそうね。

「せやけど、ウチらも認識が甘かったんよ。熊公のナワバリを避けて通ったら、この小鬼ゴブリンの群れに襲われたんや」

「成る程。クリムゾンヘルムのナワバリを避けていたのは小鬼ゴブリンも一緒。むしろ、危険地帯を避けて来た者を狙っていたと言うことですね」

「ただの小鬼ゴブリンなら良かったんやけど、此方は此方で問題やってん」

 つまりは、ただの小鬼ゴブリンの群れではなかったということね。

「せや。おったんや。チャンピオンが」

「チャンピオン?何か強そうね」

「成る程、チャンピオンがいたのなら冒険者が壊滅したのは納得がいきますが、はたしてそれだけですか?」

「鋭いな、ルナはん。そのチャンピオン。2つネームドやったんや」

 え?小鬼ゴブリンにも2つネームドってのがいるの?

小鬼大英雄グランドチャンピオンゴブモンドや」


 うーん、名前だけ聞くと笑えちゃうけど。


「ゴブモンドも圧倒的に強い!ウチらのレベルでは太刀打ちできんかった。せやから、商隊は壊滅。ウチ以外の女は奥に連れてかれたわ」

 成る程、もしかしたら、ゴブモンドとか言うのが率いていたから普通の小鬼の群れよりも強かったのね。家の軍隊が負けたのも頷けるけど、それでもあいつら弱いのよねぇ。それとこれは別の話だわ。

「わかったわ。ありがとう。デクストラ」

「ウチも薬と銃があれば戦えんねんけど、盗られてしもたんよ」

 ん?銃と薬?それって。

「ねえ、デクストラ。これあなたの?」

 わたしはマジックポケットからさっきのポーチと銃を取り出す。

「おお!これやこれ!ありがとうな、姫はん。これでウチも戦えるわ!」

「いえ、デクストラはここでその子供達を守っててあげて。奥へはわたしとルナで行くから」

 それを聞いたデクストラは少し迷う。

「わかったわ。今のウチが行っても足手まといやさかいな。ここで待っとるわ。でも、子供達の安全確保できたら駆けつけるで」

「ええ、ありがとう」

 こうして、わたしとルナは賑やかな草人グラスランナーデクストラと1度別れる。


 道中も定期的に小鬼ゴブリンの襲撃があった。

 まあ、ただの小鬼ゴブリンは大したことないわね。

 途中で攻撃魔法も習ったし、ルナ様々ね。

「ねえねえ。もともと、わたしが得意としていたのはどんな魔法なの?」

「そうですね。相手を弱らせる魔法や毒の様な魔法も得意とされていました」

「へぇ、どんな感じで使うの?」

「そうですね、あれは…」

 などと元々のルクスリアさんが得意としていた魔法も教わる。

「毒の魔法なんてあるのね」

「ええ。大きく分類すると状態異常付加の魔法です。それを調整し、攻撃力を持たせたカタチです。私をはじめ、当家の者は得意とするものも多いのですよ」

 成る程ね、面白そうだから色々と試してみようっと♪

「それにしても、ずいぶんやっつけたと思うけど…」

「そうですね。すでに50近く。やはりかなり大きな群れです。領地内にこれ程危険な群れがいたとなると、恐ろしく思いますね」

 お水をどうぞ、とルナは水を渡してくれる。

「この群れはかなり繁殖もしている様なので、やはり放ってはおけないでしょう」

 ルナの説明を聞きながら進んでいくと、悲鳴にも似た声が響きだした。



ーイヤ、イヤァァァァッ!ー

ーやめて!許してえッ!もう、犯さないで!ー

ーひいい、う、うま、産まれ、アアアアアッ!ー



「この声は?」

「おそらくは、囚われている女性達のものです」

「急ごう!」

 急ごうとするわたしの腕をルナが掴む。

「危険です。姫さまを危険な目に合わせられません」

「そんなの、関係ない!女の子達を助けないと!」

 わたしはルナの腕を振り払い、駆け出す。



 珍しく灯りの炊かれた部屋。

 そこでは吐き気を催す、おぞましい光景が広がっていた。


 人間の、獣人ビーストの、草人グラスランナーの女性達が、代わる代わる小鬼ゴブリン達に犯されている。

 女性の身体は傷と小鬼ゴブリンの汚い体液にまみれている。

 森人エルフの女性は、今、正に小鬼ゴブリンを出産したところだ。此方の女性の身体も傷と汚れにまみれている。更に美しい森人エルフから醜い小鬼ゴブリンが産まれる様は、おぞましい。の一言。

 見ているわたしですら気が狂いそうになるおぞましさ。自分のお腹から、化け物が産まれてくる様なんて、想像もつかない…

 それを、ここに囚われてた女性達は何回も経験したのだろうか。

 わたしの身体は自然と怒りに震えていた。



 赦・せ・な・い!

 赦・せ・な・いッ!!

 赦・せ・な・いッッ!!


 アアアアアッ!!!!


 怒りの咆哮をあげ踏み込むわたし。ルナを待ってはいられなかった。


 入口に一番近くの小鬼ゴブリン

 飛び蹴り。

 頭を蹴りつけ、壁に吹き飛ばす。

 

 めきょ


 小鬼ゴブリンの頭が潰れ、脳漿が飛び出てきた音がした。

 今、人間の女の子に挿れようとしていた小鬼。

 炎の魔法で焼き殺した。


 草人グラスランナーの女の子を犯していた3匹の小鬼。

 頂肘。

 

 バキバキっ!


 胸骨が粉砕し、心臓が潰れた感覚が伝わってきた。

 逃げようとする小鬼ゴブリンを重なる様に蹴り跳ばす。

 魔力波を放ち、2匹の土手っ腹に風穴をあける。


 森人エルフの女性が産まさせられた小鬼ゴブリンの赤ん坊は喉元を踏みつけた。

 

 ゴキャ


 脛椎の折れる音がする。


 兎耳の女の子を犯していた小鬼ゴブリンを女の子からひっぺがし、二起脚。二段の蹴り上げね。

 一段目の蹴りで小鬼ゴブリンを浮かし、二段目の蹴りで思い切り天井に向けて蹴りあげる。


 ぐしゃ


 天井に勢い良く叩きつけられた小鬼ゴブリンの頭が潰れる。


 どさっ


 頭のない、小鬼ゴブリンが落ちてくる。



 騒ぎの音を聞き付けたのか、奥から一際大きい小鬼ゴブリンが現れる。



 !?



 人間の女性を駅弁スタイルで犯しながら現れたそれは、わたしをなめ回すように見て、下品に舌なめずりをする。

 そして、犯していた女性を放り投げ、取り巻きに持たせていた巨大な棍棒を持つ。


 わたしの美しさに欲情している様ね。

 卑猥にも股ぐらが盛り上がっている。


 反吐が出る。


「姫さま!」


 ルナがわたしに追い付く。

 わたしの怒気を感じとったのか、息を飲むルナ。

 わたし、この時どんな顔をしていたんだろう…


「ルナ」

「はい。姫さま」

「あれは、わたしが殺すから、回りの小鬼ゴブリン、1匹残らず、徹底的に惨たらしく、苦しめて殺しなさい。苦しんだ女の子達の分も、ね」

「畏まりました」



 わたしと小鬼大英雄グランドチャンピオンゴブモンド。

 ルナと取り巻きの小鬼達の戦いが始まる。



 ゴブモンド


 面白い名前だけど


 ゆるさない!


 ユルサナイ!!


 許さないっ!!!

 

 赦さないッッ!!!!


 私たちと小鬼ゴブリン達の決戦が始まる。

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