第7話 わたし、小鬼の本性知る。ゲームと違いすぎる!

 わたしは、惨状を目の当たりにする。

 

 吐き気がする。

 怒りがこみ上げる。


 わたしは、セックスに関して倫理も何も崩壊した女だから、偉いことは言えない。

 お金を貰うために、グレーゾーン以内は何でもした。

 それでも、わたしが最も忌み嫌う犯罪がレイプだ。

 現代とかファンタジーの世界とか関係ない。




 繰り返しレイプされ、身体は傷つき、心も壊され、小鬼ゴブリンの体液に、まみれた女の子。

 人間。

 細身の体つきに長い耳の森人エルフ

 引き締まったアスリートみたいな体つきに猫や犬、兎といった動物の耳や尻尾といった特徴を持つ獣人ビースト

 人間の子供くらいの背丈しかないけれども立派な成人。発育もしっかりしている草人グラスランナー。現代のファンタジー作品ではホビットとかハーフリングとか言われたりするわね。


 みんながみんな、酷い目に合っている。

 中には、お腹の大きい娘もいる。

 小鬼ゴブリンを孕まされてるのかしら?


 その中に魔族が混ざっていないのに少し安堵してしまった自分にも怒りがこみ上げる。


「ルナ」

「はい。姫さま」

「あれは、わたしが殺すから、回りの小鬼ゴブリン、1匹残らず、徹底的に惨たらしく、苦しめて殺しなさい。苦しんだ女の子達の分も、ね」

「畏まりました」



 巣穴の奥でぶちギレる、少し前。洞窟に足を踏み入れた時刻に話は戻る。

 ルナと一緒に洞窟内を進む。

 ルナは斥候スカウトの技術が高い様で、罠などに用心して慎重に進む。


「どうやら、長くこの洞窟を穴蔵に使っている様です」

 小鬼ゴブリンの痕跡からルナは読み解く。

 痕跡を見つける度に、それがどう言うものかをわたしに説明してくれる。

「この横穴です。正面の大きな通路に目が向きますね?ここの岩も相まって非常に気づきにくい。洞察力の低い初心者冒険者はこういうのを見逃しがちです」

「見逃したらどうなるの?」

「簡単なことです。挟み撃ちにあいます。挟み撃ちにあった時点で手遅れです。挟み撃ちされた側はパニックになります。ましては相手は小鬼ゴブリンです。小鬼ゴブリンなんか楽勝等と思っているから足元を救われるのです」

 なるほど。油断大敵、ということね。わたしも気を付けよう。

「そして、敗れた男どもは面白半分に惨たらしく殺され、女は…」

「レイプされるの、ね」

「はい。欲望の捌け口にされつつ、個体数を増やす為の苗床にされます」


 何度聞いても吐き気がする。

 わたし、本当にレイプだけは許せない!

 

「さて、この見落としがちな横穴、これが危険です。此方から進みます」

「うん。わかったわ」


 ルナは魔法で灯りを作り、先を進む。

「姫さま。止まって下さい」

 言われるまま止まるわたし。

「どうしたの?」

「鳴子の罠です。解除します」


 鳴子。確か糸とかに引っ掛かると連動しているモノから、音がなって侵入者を知らせるってやつよね。


「鳴子を仕掛ける知能があるものがいるようですね」

 そうか、小鬼ゴブリンは子供くらいの知能しかないから、上等な罠を作ったりすることは殆んどないんだ。

「このような罠を仕掛ける事が出来る。確実に上位種がおります。お気をつけ下さいませ」


 上位種。とルナは言うけどどういうやつなのかしら?現代の知識だと魔法を使うシャーマンとか、チャンピオンとかかな?


 しばらく進むと道が左右に分かれている。

「左の道は先ほどの岩の先からに通じていそうですね。問題は此方です」

小鬼ゴブリンがいるってことね」

「左様です。油断なく参りましょう」

 

「姫さま。小鬼ゴブリンは本来、女の匂いに敏感です」

「女の匂い?」

「はい。体液の匂いや化粧の匂いなど、様々です」

「フェロモン的な何かね?」

 フェロモンという言葉に一瞬小首を傾げるルナ。

 なるほど、この世界に「フェロモン」という言葉はないのね。

「姫さまがご理解されるならそのふぇろもんというものです。ですので、洞窟に入る前に匂い消しの粉をかけさせて頂きました」

「あ、あの粉はそういうものなのね」

 成る程、ルナの説明は感心するばかり。

「こういった空気の流れが一定の洞窟などでは匂いで気づかれることも少なくはありません」

 

 説明を聞きながら進むと正面に大きめな空間、横に小さな空間があることがわかった。

「姫さまなら、どちらから探索しますか?」


 うーん…少し考えるわたし。


「小さな部屋かな?」

「左様ですか。では、そう致しましょう」

 理由を訪ねるわたし。

「特に理由はありません。ですが、大部屋には何らかしらの形で小鬼ゴブリンがいる可能が高いわけです。なれば、横の小部屋を先に探索し、万が一の奇襲の芽を摘んでおくのも、大事なことです」

 成る程。慎重に、ということね。


 入ってみた、小さな部屋は物置の様な感じね。

 箱や物が雑に置かれている。

 小鬼ゴブリンの気配は、ない。

「これらはおそらく強奪してきた物でしょう。小鬼ゴブリンは片付ける、ということは出来ませんから」

 成る程。ルナ先生の解説は勉強になるわね。

 とりあえず、箱や物を見る。

 食糧、香辛料、衣料品と言った交易品のようなものね。食糧は殆んど食べられてしまっているみたい。ちょっぴり腐臭がするわ。

「これ。なにかな?」

 その中からわたしは、小さなベルトにやはり小さなポーチがたくさんついた物を見つける。

 ん?

 その近くに子供の玩具くらいのサイズの銃みたいな物もあった。

 この世界、銃があるのね。

「ふむ。これは錬金術師のポーチでしょうね。サイズからして草人グラスランナーの物でしょう。小鬼ゴブリンでは使えないものでしすから、ここに捨てられていたのでしょうね」

 ふーん。

 わたしは、それらを拾い上げて。とりあえず、マジックポケットに収納する。

「この部屋は何もなさそうですね。次の部屋にいきましょう」

 ルナに先導され、隣の部屋に向かう。


 ドアなどのない部屋。

 く、臭い…

 外まで臭うんですけど…

小鬼ゴブリンの汚部屋でしょうか?酷いものですね」

 そういい、ルナはわたしに向け手を向ける。

「姫さまの、全身を魔力でコーティングしました。少しの間なら汚れをはじきます」

「へぇ、便利な魔法もあるのね」

 わたしたちは慎重に部屋に入ろうとする。

「お待ちを」

 ルナが止める。

 中を覗き込むと、小鬼ゴブリンが用を足している所だった。

 

 !?

 わたしは、言葉を失った。

 何と、小鬼ゴブリンはヒトサイズの死体にむけ、用を足していたのだ。

 わたしが怒りに駆られ駆け出そうとするところをルナが止める。

「どうして、止めるの!」

「いえ、この位置なら…」

 そういい、ルナは手を振る。何かを投げる仕草に見える。

 すると、小鬼ゴブリンの首に何かが刺さり、そのまま倒れた。死んだの?

「今のは?」

「暗器です。1匹倒れましたから後続が来ますよ」

「分かったわ」

 ルナの言う通り、中にもうひとつあった部屋から小鬼が数匹飛び出してきた。

 わたしは、そのうちの1匹の頭を思い切り蹴りつける。

 バキッ!グシャ!

 壁まで吹き飛ぶ。硬い岩壁に叩きつけられた衝撃で小鬼の身体が潰れる。

 次に向かってきた小鬼をわたしは掌で下から打ち上げ、間髪入れず打ち下ろす。グシャっと地面に叩きつけられた小鬼の頭を思い切り踏みつける。

 ゴキャッ!

 首の骨が砕けたっぽい音が聞こえた。

 その間にもルナが暗器で5匹の小鬼ゴブリンを仕留めていた。

「以上の様ですね。お見事です、姫さま」

 はじめての実戦。

 小鬼を殺しちゃったけど、何の感慨もない。

「すこし、探索をしましょう」

 わたしはうなずく。臭いけど、我慢よね。

 まず、目が向くのは死体。

 もう、原型を留めていない。人間だったのかな?

「おや?」

 ルナが何かに気がつく。

 部屋の隅に子供が入れるくらいの穴が見つかる。

「気配がしますね。どなたかいるのですか?」



「待ってや。子供や、子供をかくまってんねん。小鬼ゴブリンどもはどないしたんや?」

 穴から女性の声がした。


 何で、関西弁なの…


「この部屋の小鬼ゴブリンなら始末しました。出てきて頂いても問題はありません」


「わかった。今、出てくさかい、ちょっとまっとってや」


 穴から出てきたのは人間の子供とさほど変わらない大きさの女性。


「あなた!草人グラスランナー?」


 わたしははじめて見る草人グラスランナーに、すこし興奮しちゃった。


 「おおよ!ウチは草人グラスランナーのデクストラ。よろしゅうな」



 この草人グラスランナー、デクストラ。

 彼女とはこれから長く付き合う仲間になるのだけど、この時はそんなこと思いもしなかったなぁ…

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