10.目指せ、水の都市
「ガブリエラ、計画としてはこれでいいかい?」
旦那さまから渡された書類。今後の計画書に目を通す。
細かい数字などに口を出すほどの能力はないが、自分の希望に沿う形なっていることを確認する。
「えぇ、問題ありませんわ」
視界の邪魔になった髪をかき上げながら書類を返す。
髪の環境改革以来、ずっと伸ばしていた髪が最近は邪魔だと感じる程度の長さになってきた。しかし、髪の傷み具合や艶は以前とは比べ物にならない。
「君は本当におもしろいねぇ」
旦那さまが髪を一房つかみ、口づける。
「君が改善する前は女性の髪に口づけるなんて結構抵抗もあったんだけど……」
うん、汚かったから嫌がってたのね……。
「次は君が何を見せてくれるのか。楽しみにしているよ」
旦那さまはとても邪悪、ごほん。楽しそうな笑顔で部屋から退出した。
新しい、匂い対策レンガの生産は安定して作れるような生産ラインはすでに完璧。ブラック労働にならない程度に生産をバンバンやってもらっている。
そのうえで自分用の都市計画書を改めて見る。
この世界の都市は円形状に作られていることが多い。もちろん、都市が作られた場所の地形など、様々な条件に適した形に広がっているので円形だけではない。問題は、魔法がある世界ならば魔獣という外敵が存在し、それらから守るための防壁を作らねばらないことだ。一度作ってしまうと都市の拡張はうまくいかず、やったとしても防壁の拡張とセットになるので費用や時間は途方もない数字になる。円形だからこそ余計に。
そして、ガブリエラが考える理想の都市計画において円形の都市はない。
求めているのは碁盤の目のようといわれている京都。
究極的な整備性を求め、四角の形に土地を仕切る。以前にも少し触れた都市の再開発で厄介な、土地のサイズや場所の切り取りは非常に面倒くさい。
よくある、悪役っぽい大臣や宰相が戦争やテロの際に救援を出さずむしろ――区画整理にちょうどいいという発言。土地の権利者問題がまるっとうやむやになって土地を買い上げる費用も減らせる。あの言葉は国庫を気にする為政者としては切実なのである。
そしてもう一つの理想。それが岐阜県の郡上八幡。
前世の自分がもっとも美しい都市だと感じた。街の至る場所に水路が張り巡らされた、個人的には最も水と寄り添っていると思った街だ。軟水が生まれる地形独特の都市でもあるので、実際にこちらの世界で都市づくりをしようとしても全く同じようにできないだろう。しかし、目指すべき理想はこの頭の中にある。
死んでもなお消えなかったあの美しい風景が。
加えて、一口に水路と言っても上水道と下水道の二つを整備しないといけないし、もう少し突っ込んで考えなければいけないことは多くある。
「しかし、私は止まらんよ(どやぁ)」
どや顔を決めている最中、もはや怒ることすら放棄したアールに深いため息を疲れていることには気づかなかった。
今日も一日、平和である。
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