No,1 scene 私が空を飛んだ日。

さーん、にー、いーち。

笑って……哂って、私は身を投げだした。

自分の部屋、3階のベランダから。


ジェットコースターが下るときと同じような浮遊感に、一瞬包まれる。

そして、すぐに衝撃が来た。強く頭を打ち付けた気がする。

体中が、痛いというよりもじんじんとしている。

周りの人が驚いて声を上げているのが聞こえた。

頭がぼんやりしている。視界も霞む。

いつもは体に突き刺さる冬風が、熱い体に心地よい。

固く冷たいアスファルトも、今は気持ち良い。

もうすぐ、全て赤色に染まるだろう。

地面も、空も。

しかし、夕暮れ時など過ぎ去るのは早い。

直に、真っ暗になる。

暗闇だ。きっと私は闇に抱かれて、そのまま地獄へ落ちるだろう。

冬の凍てつく風とともに、この世を去るのだろう。

目をゆっくりと閉じる。

遠くから、救急車のサイレンが聞こえる。


早く、来て。私を助けて。

いいや、来るな。もう終わりにさせてくれ。


相反する感情を瞼の裏に浮かぶ救急車にぶつける。

私は、空を飛びたかった。

たしかに死にたい気持ちもあったが、空を飛びたかったのだ。

自分に、それくらいの勇気があることを確かめたかった。

命を賭けられるくらいの勇気があることを確かめたかった。

役立たずだと言う皆の言葉を、覆したかった。

自分は生きているのだと、実感したかったのだ。

死んじゃったらどんまい、くらいの投げやりの気持ちでいた。


「大丈夫ですかー!?」


救急隊員の声がする。

大丈夫なわけないだろ、ばか。

声にならない言葉を、胸の中でつぶやく。

傍から見たら、きっと私は変人なのだ。

自分の命を投げ出した、悪者なのだ。

狂っている奴なのだ。

でも私からしたら、こんな世界で平然と生きていられるお前らのほうが狂っている。


きっと地獄は、天国だろう。

だって今までが、地獄だったのだから。

この世界より辛いところなんて無いのだ。

神様がいるのなら、なぜこんな世界を作ったのか聞きたい。

そして、死という逃げ道を選択した私は、神様にも、すべての人にも、問いたい。


自殺することは、悪いことなのか。

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