第27話 『クエスト』と『魔物』

「おお、来てくれましたか」


 ミコトが本殿を出て、拝殿を通り外に出ると、派手な鎧や衣装を身にまとった、ファンタジーといった容貌の男女が待っていた。


 男女は、ミコトの姿を見ると、その場に跪く。


「この神聖な気。さぞや名のある神とお見受けいたしました。私の名前はアスト・ヨリ・ミトコンドリア。全神ゼウオディアより『勇者』に指名され、世界を救うために旅をしている者です」


 そして、アストはゆっくりと上品に隣の女性に手を向けた。


「彼女は私と共に世界を旅する仲間。聖女……」


「いや、もういい」


 アストの仲間の紹介を、ミコトは打ち切る。


「そうです、か」


 そのはっきりと解る歓迎されていない雰囲気に、アストの顔が少しだけこわばった。


「それで、あのエロじじい……いや、ゼウオディアの使徒がなんのようだ?」


 ミコトのエロじじいという言葉に、聖女、セインフィネが反応する。


「全神であるゼウオディア様になんという口の利き方を……!」


「黙れ」


「……っ!?」


 ミコトから放たれた威圧は、すでに膝をついているアスト達一行の頭を、さらに地面に近づけた。


 神としての力の一端。


 それを、アスト達に見せつける。


「全神、なんて大仰な名前。この世界では通用しない。私もあのエロじじいとは顔見知りなだけで、別に部下でも子供でもないからな。覚えておくといい。おまえ達の神は、この世界ではそこら辺にいるおっさん神の一人だ。で、質問に答えろ。何をしにきた」


 自身が仕える神をないがしろにするような発言を聞いて、セインフィネだけではなくアストも怒りを感じているようではあるが、その怒りを抑えてミコトの質問にアストは答える。


「我々は、魔王トメイサ打倒のため修行中の身でございます。ここには、『力』を身につけるために参りました」


「今代の魔王はそのような名前か……『トメイサ』、ね。それで、『力』とは? おまえ達はクズエロじじい……ゼウオディアから『スキル』を授かっているのだろう?」


「クズ……?」


 セインフィネの口を、彼女の隣にいた戦士のような女性、キーガルが抑えた。


「『力』がどのようなモノなのか、詳細は教えられておりません。ただ、『クエスト』を完遂し、魔王を倒す『力』を得よ、とゼウオディア様からお言葉を頂戴しております」


「『クエスト』とはなんだ?」


「それは、もちろん。私たちは『勇者』ですので、やることは一つ。この場に巣くう『魔物』の討伐でございます。なので、出来れば我々にご協力いただきたいのですよ。その、えーっと」


 アストは身振り手振りで、ミコトに伝えている。


『名前は何なのか、と』


 しかし、ミコトはアスト達に名乗るつもりはなかった。


「私に協力を求めているのか。それは、なんだ?」


 名前を聞かせるつもりはない、というミコトの意志をくみ取ったアストは、少し肩を落とすと、ミコトの質問に答える。


「『魔物』がどこにいるのか教えてほしいのです。おそらく、半日以上はこの空間を探しているのですが、見つからなくて……、すでに3体は倒したのです。我々の人数の数だけ用意されているのなら、あと1体はいるはずなのですが……」


「知らんなぁ。そもそも『魔物』なんて存在、この世界にはいないぞ?そもそもだ。なぜ、別の世界の『勇者』が我々の世界にいる?」


「この世界にいる理由は、ゼウオディア様が我々を遣わせたからですが……『魔物』がいない?そんなはずはないでしょう。現に、我々は3体の魔物を倒して、御前にいるのですから……」


 アストが答え終わるとほぼ同時に、事態は急変する。


 それは、ミコトの背後で音が聞こえたことから始まった。


「……誰と話しているんだ、ミコト……」


 ラオが、本殿を出て拝殿の扉を開けていた。


 アスト達の前に、現れてしまった。


「おまえ達は……」


 アスト達を見た瞬間、ラオに怒りと恐れの感情が現れる。


 だが、アスト達がラオに抱いたのは、その感情と真逆のモノだった。


「……あ、こんなところにいたんですね。もう、『魔物』がいないなど、冗談がお上手です。いやー事前に用意してくださっていたとは、申し訳ない。これで『クエスト』を達成できますよ」


 アストが、豪華で荘厳な剣を抜く。


「ラオっ!?」


 ミコトが声を発すると同時に、アストはラオに肉薄していた。

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モテる力の使い方 おしゃかしゃまま @osyakasyamama

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