第18話 ラウラの初仕事

 「面会に応じていただき感謝します」


 未だに成人を迎えていない少女は、しかし毅然とした態度で要人との対談に臨んでいた。


 「いやなに、活動しようにも我々には先立つものがないのでな、それを用立ててくれるのなら話には応じようとも」


 どこか舐め腐ったような態度でラウラの対面に座る男は言った。


 「だが、必要以上に危ない橋を渡るつもりはない。故に正体を明かせない者の力を借りるということには疑問が残るのだよ」


 要人の男が部屋の周囲を固める男たちに目線を送ると男たちは一斉に剣を抜いた。

 だがラウラの周りを固める商人風の装いの二人が剣を抜く方が一瞬早かった。


 「何っ!?」

 「ぬぉっ!?」


 剣を抜いた男たちは瞬き程の間に無力化されていた。


 「これで交渉する気になりましたか?」


 男たちが剣を抜いたとき、ラウラは怖がる素振りも見せず平然としていた。

 そしてその男たちが無力化された今、形成逆転とばかりに冷ややかな視線とともに男に問いかけた。

 

 「あ、あぁ……うむ」


 男は命が取られては御免だとばかりにしきりに頷いた。


 「正体を露見させたくはないので、こう言っておきましょうか。私たちはアンデクス伯に恨みを持つ商会の人間だと」


 ラウラはそう言うと微笑んだ。

 

 「そ、そうか……疑うような真似をして悪かった」


 男は自身の不利を悟ると弁解した。


 「分かってもらえればいいんですよ?名前を出せば私たち商会は潰されかねないのですから」


 ここまではアルスの筋書き通りに進んでいた。

 

 「では本題に入りましょうか」


 こうして交渉相手は、ラウラにとって成功の約束された交渉のテーブルにつくのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「――――まさか部隊長を二人も送り込むなんてね」


 エミリアは呆れ混じりに言った。


 「それぐらいしないと、ラウラの言うことは聞いてくれないはずさ。それにラウラを失おうものなら姉が怖―――――ぎゃー痛い痛いッ!!禿げちゃうからぁっ!!」


 エミリアがむんずと掴んだアルスの髪を引っ張るとアルスは喚いた。


 「縁起でもないこと言わないの」


 アルスがラウラの護衛のためにクレムスラント騎士団の中でも特に剣に秀でた部隊長二人を割いてくれたことに内心感謝していた。


 「まぁいいわ。別件でアルスに報告したいことがあってきたのよ」


 アルスの髪の毛を引っ張るのに飽きたのか、或いは満足したのかエミリアは懐に抱えた紙の束をアルスの机に重ねた。


 「最近領内に入ってきた人間の記録の中から不審なものを見つけたのよ」


 記録はどれもが領地の東側に設けられた検問所でのもので、宗教関係者ばかりだった。


 (アンデクス伯領が聖誕祭の本開催地であることを踏まえれば、怪しいと決めつけるのは早計だろう)


 アルスは最初のうちはそう思ったが、


 「なぜ、東側だけなんだ?」

 

 その疑問にぶつかった時、彼の中である考えが過ぎった。


 「他の検問では宗教関係者の流入は確認されていないわ」


 エミリアの言葉でアルスは確信した。


 (これは罠か……)


 そしてエチェガレーがアンデクス伯領に来た本当の目的に思考を巡らせたとき、背筋を悪寒が走ったのだった―――――。

 エチェガレーは、ただならぬ女なのだと。

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