第17話 才媛ラウラ

 「アルス〜、連れて来たわよ!!」


 家臣団の中で唯一、アルスを名前呼びできるエミリアの声が廊下の外から執務室へと響く。


 「そんな簡単にいい人材がうちの家臣にいたか?」


 半信半疑のアルスはエミリアの連れてきた人物が誰か分かると真面目な顔になって見つめ返した。


 「本気で言ってるのか?」

 「それは本人から聞けばいいと思うわ」

 

 彼女が連れてきたのはラウラという名前の少女であり、学生時代にはサルヴァトーレの双璧と呼ばれた姉妹の妹だった。


 「アルス様をお支えできるのなら粉骨砕身、勤めに励む所存です」


 可憐な声音でラウラは言った。

 触れれば壊れてしまうガラス細工を思わせるような少女の意思は、見た目に反して固かった。


 「その言葉の意味がどういう意味かはわかっている上で言っているのか……?」


 家臣になるということは即ち主家と命運を共にするということ。

 戦となれば死ぬ可能性があるし、政治闘争に敗北すれば主君共々側近は粛清の対象になる可能性もある。

 そういうことを含めて覚悟はあるのか、とアルスは尋ねたがラウラは真っ直ぐにアルスを見つめて頷いたのだった。


 「姉上ばかりアルス様の役に立ってるのはズルい。私もアルス様の隣で同じ世界を見てみたい」


 (俺の見ている世界はそんな大したものじゃない。それにラウラには際限なく陰湿になれる政治とは無関係でいて欲しかった)


 アルスはそう思ったが、ラウラの真剣さに頷かざるを得なかった。


 「そうか……よろしく頼む」

 「ありがとうございますッ!!」


 感極まったようなラウラの声にアルスは少しばかり心を傷めたがそれを表情に出すことはしなかった。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「噂には尾鰭が付くのが相場だけれど、ちょっぴりガッカリしてしまったわ」


 エチェガレーは、自身のために用意された一室で、寝台に横たわりながら残念そうに言った。

 部屋に工作されてないかなどは、真っ先に調べて確認済み。


 「あなたもそう思わない?」


 革製の鞄から取りだしたのは小瓶。

 その中には人のものと思しき指が入っていた。

 エチェガレーは、自身の性格が歪む原因ともなったそれが納められた小瓶に向かって楽しそうに語りかけた。


 「きっと彼は、私が不穏な動きをさせないために来た、なんて思っているんでしょうね」


 真の目的は最高顧問団のトップの座を得るための実績づくりでアンデクスの街を滅ぼすために来ていた。

 エチェガレーの欲望を巧みについたカティサークの提案をエチェガレーは快く快諾して今に至るのだった。

 エチェガレーは、まさに渡りに船な提案でありこれは天命で自身の勝利は約束されだとさえ思っている。


 「まぁ、望むものが手に入ればなんでもいいわ」


 口角を吊り上げて独りごちたエチェガレーは、前祝いとばかりに葡萄酒の芳醇な香りと喉を落ちていく感触とに酔いしれるのだった―――――。

 

 

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