第16話 互いの真意

 「――――ですから少しでもサルヴァドーレ伯のお役に立てればとまかり越しました次第ですわ」


 聖誕祭の本開催地をアンデクス伯領とする最高顧問団の決定に不満を持つ貴族たちを支援しようとアルスが動き出したその矢先だった。


 (十中八九、こちらの動きは漏れてるってわけか……で、あるならば情報源が気になるところだが……)


 「それは願ってもないことで。しかしながら、最高顧問団に属する貴女ともあろう方がこんな辺鄙な伯爵領に来てもよろしいのですかな?(そんなこと、最初から期待してないんだよなぁ。こんな田舎に来てないで、さっさと帰ったらどうなんだ?)」


 言外にアルスがそう言えば、


 「意外と暇のある仕事なのですよ?それゆえにサルヴァドーレ伯の心配なさるようなことはありません。それにかつて聖エルジェーベト様がお暮らしになられた土地、以前より興味がありましたので(自分の頭の上のハエでも追ったらどうかしら?不穏な動きがあることは既に掴んでいるのですよ?)」


 エチェガレーもまた、言外にそう言い返した。

 互いに頭の切れる者同士、言葉の裏に隠された真意に気付いていた。


 「そうですか……。この街に興味があると言うのでしたらいくらでもご覧になってください」

 「そうさせてもらいますわ(僅かな証拠も逃すつもりは無くてよ?)」


 アルスを負かしてアンデクスへの逗留の許可を得たのが嬉しいのか、エチェガレーは相変わらず淑女然としつつも笑みを浮かべてそう言ったのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「なんであんな大物来ちゃうかなぁ……」


 エチェガレーが退室した後、アルスはぐったりとした様子で机の上に身を投げた。


 「事前に来た書簡に書いてあったじゃない」

 「いや、こんな田舎にあんなの来るとか普通に考えたら思わないじゃん?」


 大陸宗教であるミトラ教の聖皇に次ぐ立場である最高顧問団の人間がわざわざこの辺境に来るという事実に、アルスは面食らっていた。


 「そうね……で、計画は進めるの?」

 「諦めるつもりは無い……が、計画の内容にある程度の妥協あきらめは必要そうだな」


 アルスはエミリアが用意してくれた貴族のリストに目を通した。

 名前に爵位と領地、思考や性格など事細かに記されたそれは、さすがとしか言いようがなかった。


 「そうね……対象は絞る方がいいわ」


 アルスは元々、アンデクスを聖誕祭の本開催地にすることに反発する貴族を手広く支援するつもりだった。

 ところがアルスには監視者エチェガレーがついてしまったために、そちらに多くの時間を割けば、教会が新たな一手を打ってくることは容易に想像ができた。

 故に、エチェガレーの目に不審に映らないようにすることが肝要だった。


 「それに実行するのもエチェガレーに顔が割れている俺らじゃない方が良さそうだ」


 (執務室にいない、或いは城にいないというだけでエチェガレーは疑いの目で俺たちを見るだろうからな)


 いない人材に頭を悩ませつつ、アルスは今日も今日とて深いため息を吐くのだった。

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