第35話
――「何だ?こんな店あったか?」「ここってあのいけすかないレストランだよな?」「ハン、バーガー?何だそりゃ?」「もうやってるのか?」「ぽいな」「メニューは、1つだけなのか」「1つ100ディオ?やけに安いな」
早朝、クエスト出発前の冒険者達が、新店舗の前でワラワラと看板を見ていると、静かに扉が開く。
「い、いらっしゃいませ……」「ま、ませぇ」
「ゾンビか⁉︎」
「い、いや違うよく見ろ、人間だ!」
げっそりとした顔の俺とミュゥを見て、冒険者達が驚く。誰がゾンビだ。1日中ハンバーガー作ってたから寝不足なんだ。
「お前ら、ハルヒコにミュゥじゃねぇか⁉︎こんなとこで何やってんだ⁉︎」「誰だ?」「ほら、最近入ってきた新人だよ。ホーンラビットばっか狩ってる」「ミュゥって、エンハンスエンチャンターのか⁉︎」
俺達は扉をストッパーで止め、「どうぞどうぞ」とカウンターに戻る。
「っ1個100ディオ!クエスト前の朝食にも!クエスト中の小腹満たしにも!持ち運びも簡単!ハンバーガーどうでしょう‼︎」
「おいしーよー」
すると、よくギルドで顔を合わせるベテラン冒険者が、硬貨をカウンターに乗せてくれた。
「ほらよ、1個くれ!」
「あざす!ミュゥ、」
「うぃ」
裏へとハンバーガーを取りに行くミュゥ。
「お前ら店始めたのか?」
「そうなんすよ。驚いたでしょ?」
「おぉよ。しかもこんな立派な、すげぇな」
そこでミュゥがカウンターから顔と手を出す。
「は〜いおじさん、ハンバガ」
「おうっありがとよ。……こりゃ、肉か?」
「はい。まぁどうぞどうぞ」
「んじゃいただくぜ」
おっさんが紙を捲り、ハンバーガーにかぶりついた。……瞬間、
「――¬ッッッうんめぇえええええッッ⁉︎なんっじゃごりゃぁあッッ⁉︎⁉︎」
驚愕するおっさんのその顔面に、周りで様子を窺っていた冒険者達も驚愕する。
「そ、そんなうめぇのか⁉︎」「お、おい、俺にも1口くれよっ」
「触るなボケがぁッ‼︎」
「ゴッへ⁉︎⁉︎殴ることねぇだろ⁉︎」
「自分で買えやぶっ殺すぞォ⁉︎」
「そ、そんなになのか……?」「どんな味なんだ……?」「人が変わっちまったぞ?」「ヤベェもんでも入ってんじゃねぇのか?」
いや入ってないよ。失礼な。
「俺にも1つくれ!」「僕も!」「俺も!」「俺も俺も!」「私にも!」「俺が先だぞ!」「うるせえ抜かすな!」「ハルヒコォ!もう1個!いやも10個クレェっ‼︎」「あんた今食ったろ後ろ行けや⁉︎」「ウルセェ‼︎」「んだこの野郎⁉︎」「騒ぐんじゃねぇ邪魔だバカが⁉︎」「やっぱヤベェもん入ってんだろ⁉︎」
俺は押し寄せる冒険者の波を捌きながら、裏からミュゥが投げるハンバーガーをキャッチし渡しまくる。
「うめぇ⁉︎」「んだこりゃぁ⁉︎」「これが大銅貨1枚⁉︎ありえねぇ⁉︎ゾンビの肉でも使ってんのか⁉︎」「美味すぎるだろ⁉︎」「あああああぁあ‼︎うんメェぇえ」「ハンバーガーガンバーガーハンバーガーハンバーガーハンバーガー」「うまうまうまうまうまうまうまうまうま」
「落ち着いて!押さないで!ほらそこ1列に!抜かさない‼︎人の取らない‼︎」
初めてのバイト。初めての感覚。美味さに冒険者達が吹っ飛んでゆく。
これが労働の楽しさ。これが知識チートの快楽。
ああ、現代地球食文化最高ッ‼︎
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