第20話

「おにーさん!今日は何食べに行くっ?」


「ゲっホっ⁉︎」


 部屋を蹴り開け飛び込んできたミュゥに飛び乗られ、俺は一瞬で眠りから覚める。


「ねぇねぇねぇねぇ起きて起きて!」


「起きてる起きてる死ぬ死ぬ死ぬ⁉︎」


 尻尾で顔をバシバシと叩かれ、苦しみに悶えながらもミュゥをぶん投げた。Lv差を考えろと何度言ったらっ。


「っはぁ、はぁ、お前マジでその起こし方やめろっ」


「ミュゥに乗られて息荒くして、……おにーさんのエッチ♡」


「ウルセェその年でマセやがってっこんのガキが⁉︎」


「ぷぷぷ〜」

「待てコラ!」


 朝から騒がしい2人に、地下教会の信者達も微笑みを向ける。


 何かあるごとに取り敢えず喧嘩を始める彼らの掛け合いは、今やこの物寂しい地下を明るく照らしていた。


 そしていつもそんな2人を収めるのが、


「はい、そこまでです。お2人共」


「ふみゅ⁉︎」「ぬぁ⁉︎」


 ニコニコと笑うゲーラさんが、目にも止まらぬ速さでミュゥと俺を傍に抱え、席に座らせる。


「朝の祈りの時間です。あまり皆を待たせてはいけませんよ、ハルヒコさん、ミュゥさん?」


「さーせん」「は〜い」


 用意された朝食を前に、俺達も手を合わせ祈りを捧げる。

 もうこのルーティンにも慣れてしまった。

 祈り終わった後は、皆と一緒に朝食を食べ始める。


 俺はバクバクと食べるミュゥの口を拭きながら、前に座り優しげな笑みを浮かべるゲーラさんを見る。


「いつも朝食ありがとうございます。皆と違ってお布施もしていないのに」


「いえいえ、お2人の信仰値はS。お金などいただけません」


「ゲーラさん、ミュゥの信仰値教えた時腰抜かしてましたもんね」


「はは、お恥ずかしい」


 頭を掻くゲーラさんに、周りからも笑いが起こる。


「ですが我々神徒にとって、信仰Sというのはそれ程に価値のあるものなのです。冒険者達は回復力が上がる程度にしか考えていませんが、真に見るべきはその心の内なのです!神に選ばれたというその敬虔さなのです‼︎」


「っあ、はい、その通りだと思います」


 興奮気味に目を見開き前のめりになるゲーラさんに、俺達は若干引く。ここの人達たまにこうなるから怖いのだ。まぁ基本的には良い人だから……。


 ゲーラさんは一つ咳払いをした後、ニコリと笑う。


「すみません取り乱しました。今日も夕食はいりませんか?」


「あ、はい。大丈夫です」


「分かりました」


「完成したら皆さんにも食べていただきたいので、待っていてくださいね」


「ふふっ、それは楽しみです。ミュゥさん、今日もハルヒコさんをよろしくお願いしますね」


「り〜」


「ちょっと、逆でしょゲーラさん」


 笑いで包まれる大広間に、俺達も自然と笑ってしまうのだ。

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