第12話 バッド


 ――次の日も、その次の日も、俺は挑んだ。


 挑み続けた。


 諦めず、貪欲に、食らいつき、そして気絶を繰り返した。



 ……異世界にきて4日、自分なりに生きてはみたが、どうやら俺は気づいてしまったらしい。


「……」


 見上げた曇天から、ポツリポツリと雨が落ちてくる。



 …………俺、普通に弱いんじゃね?



 と。


 初級モンスター相手に気絶を繰り返し、メスガキ少女に助けてもらい、受付嬢さんに苦笑される毎日。


 何してんだ俺?異世界まで来て、何してんだ?


 いつまで経っても覚醒しないし、唯一覚えたスキルはデバフ強すぎて使えたもんじゃないし、チートハーレムはいずこへ?


「……はぁ」


 トボトボと宿への道を歩いている途中、下を向いていた俺の視界に、誰かのつま先が映る。


「あ、すみませブゲェ⁉︎」


 と思った瞬間、いきなりぶん殴られた。


 頭の中に星が散り、ぶっ倒れる。


「っさっさと剥いじまえ!」「所持金は、クソっ、こいつ全然持ってねぇ‼︎」「着てる服は上等そうだな」「武器防具は置いてこう。冒険者ギルドのだ。足がつく」


 ……あぁ、なるほど、追い剥ぎか。

 俺は霞む脳裏で理解する。


 そりゃ、こんな弱そうな奴が、警戒もなく歩いてりゃ襲うわな。


 そういえばここはスラムだった。忘れてた。……ハハっ。


「おら、風邪引くなよ」


「ふげっ」


 ビシャ、と泥の中にパンイチで投げられ、ローブと武器防具を返される。


 風邪の心配すんだったら服全部返せボケ。


「……」


 泥の中に大の字で寝っ転がり、頬を打つ雨粒に手を掲げる。


 ようやく分かった。ここは現実なんだ。夢じゃない。


 殴られたら痛いし、切られたら血が出るし、物を買うには金が必要だし、金を稼ぐには努力が必要だし、都合よくチートなんて手に入らないし、俺の思い通りになんて世界は回っていない。



 ……どうしようもない程、現実なんだ。



「……ははっ、……何やってんだろ、俺。……ッ」



 俺は歯を食いしばり、濡れた掌で目を隠した。


 ……これからどうしようか。


 金も、服も取られた。宿は今日から有料だし、もう帰れないじゃん。


 あぁ、終わった。


 そんな絶望する俺に、


 ……突然影が差し、雨が止んだ。


「大丈夫ですか?」


「……あ、はい」


 神官の様な黒衣に身を包む青年に見下ろされ、俺は起き上がりローブを羽織る。


「追い剥ぎにあったのですね」


「……」


「……よろしければ教会に来ますか?」


「え?」


 青年は微笑み、自分が濡れるのも厭わず傘をこちらに寄せてくれる。


「お腹も空いているでしょう?どうぞこちらです」


「あ、はい」


 俺は言われるがまま、彼について行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る