第11話 ダークヒール


 ――翌日。俺はギルドに行き、草採取のクエストと一緒にホーンラビットの討伐クエストを受けた。


 門まで歩き、もはや顔馴染みとなったおっさん2人に挨拶する。


「おはようございます。あの、これ」


 俺は畳んだ黒いローブを差し出す。

 しかしおっさんは笑いながら首を振った。


「ハハハ、わざわざ洗ってくれたのか。でもやるって言ったろ。どうせ着てるもん意外服持ってねぇだろ」


「あ、はい」


「持ってきな。夜は冷えるしな」


「お、おっさぁん」


「おらさっさと行け」


「今日は漏らすなよ坊主〜」


「漏らしませんよ!」


 そう言い外に出た後は、朝食代わりに薬草と、図鑑に載っている食える木の実をモシャモシャしながら草刈りのクエストをこなす。


 そうして林に入り、昨日と同じ場所まで歩いてゆくと、


「あ!おにーさんよーやく来た〜」


「?ぅお」


 昨日の少女が枝から飛び降りてきた。


 俺は彼女、ミュゥに向かってペコリと頭を下げる。


「昨日はどうも」


「あ、どもども」


 ペコリと返すミュゥが、顔を上げニヤニヤと笑う。


「それでおにーさん、今日は何しに来たの?また、お、も、ら、し、しに来たの?」


「違わい!」


 俺はバッグを置いてから、短剣を引き抜きガサガサと茂みを探す。


「リベンジだ。負けたままでいられるか」


「お〜、カッコいい〜w」


 草をかき分け、茂みをあさり、木陰を見て、……ニヤニヤとついてくるミュゥにジト目を向ける。


「……あの、何でついてくんの?」


「え?だっておにーさん見てるの面白いし、暇つぶし〜」


「親御さん心配するぞ。ここは子供が来る場所じゃない」


「その子供に助けられたのは、どこの誰だったかな〜」


「よーしついて来い。冒険者の何たるかを教えてやる」


「は〜いw」


 指に唾をつけ風の向きを調べ、ようとしてもよく分からず、

 地面に耳をつけ足音を聞、こうとするも何も聞こえず、

 木に登り遠くを見、ようとして下りれなくなり助けてもらい、


 水場に到着し、遂に1匹を見つけた。


「ぷ、ぷぷぷっ、おにーさん本当に冒険者?ぷぷw」


「しっ、静かに。気づかれる」


「は〜いw」


 俺はあまりの不甲斐なさに若干頬を染めつつも、いかにもな声で空気を引き締める。


 水を飲んでいるウサギはこちらに気づいていない。


 今なら、行けるッ。


「――ッハァ‼︎」


 俺は一気に茂みから飛び出し、短剣を振り上げ


「ピ!」

「ゴはァっ⁉︎」


 胸を突かれゴロゴロと転がり出発地点に戻された。


 むせる俺をミュゥが腹を抱えて笑っている。


「ぷハハっ、ほらおにーさん、がんばれっがんばれっ!」


 こんのメスガキっ。


「っやってやるぜ。見せてやるよ、冒険者の底力って奴をよぉ‼︎」


「ピッ!」

「っぁぶね⁉︎」


 身体を大きく逸らしツノを躱し、短剣を振るが空振る。


 飛び跳ね躱して空振り。飛び跳ね躱して空振り。


 あっちにピョンピョンこっちにピョンピョン。もはやどっちがウサギか分からない。


「ほらおにーさん、動きをよく見て」


「ゼェ、ゼェ、っ分かってるよ!ゼェ、」


 とその時、躱そうと動かした俺の足が疲労にもつれた。


「ピッ!」

「グぅっ」


 鋭利なツノが左腕の側面を大きく抉る。

 感じたことのない痛み。焦り。涙。


 ……しかしそれと同時に、俺は俺の中に起きた変化を感じ取った。


「っ、」


「おにーさん大丈夫ー?代わろうか?」


 咄嗟に木の裏に隠れ、ウサギのツノを防ぐ。


 駆け寄ってくるミュゥを無視して、俺はダクダクと血の滴る手でプレートを操作。


 見つけた。



 獲得可能スキル:ダークヒール・3

 保有スキルポイント:5



 弾かれたようにプレートをスライド。身体の奥が一瞬熱を持った。


「っハハ!」


「わっ」


 木の裏から転がるように飛び出し、片膝をついたまま、血濡れの左腕を右手で掴む。


 そして囁く。美しく、されど力強く、カッコよく!



 ――「『ダァクヒィル』」



 瞬間黒い粒子が左腕を包み、痛みが消え、傷は塞がり、完治。


 ……これが、俺の力。


 初めて行使した魔法の力に、思わず頬が上がる。


「わー、おにーさん回復職だったんだ。……あれ?でもその色、」


「俺の勝ちだぜ!……ぁあ?」


 ……ん?何だ?動きが、俺の動きが、遅くなってる⁉︎何だこれ⁉︎


 一挙手一投足がスローモーションになり、思い通りに身体が動かせなくなる。


 そうしている間にもウサギは迫っている。


「ピィィッ」

「っ待て待て待て‼︎」


 まさかこれがデバフ⁉︎聞いてない聞いてない⁉︎こんなん戦闘中に使ったら即死じゃん⁉︎終わりじゃん⁉︎


 っこんな風にさぁ⁉


「ピィッ‼︎」

「――ッゲフゥッ⁉︎」

「おにーさーんっ!」


 甲高い金属音を耳に、俺の視界は綺麗な青空を映し最後、


「……デ、デジャ……ブ」


 暗転した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る