35.異世界と異次元と魔導士のシンフォニーは終わった

 それはいつか見た風景。

「綺麗だ…あの時よりも綺麗だ」絶句するレイブ。

 目の前には純白のドレスに身を包んだ彼の妻となる娘達。


 そして、深紅のドレスに身を包んだ私の妻となる娘達。


「だから本番まで見ないでよ~!」真っ赤になって照れつつ怒るクレビー。


 そして結婚式が始まった。


 復興されたデファンス王国の王城の大広間で、デファンス王とペディ魔国王が最上段に座し、レイブと私が一段下で待機する。

 周囲には他国の使者、イセカイ温泉に退避していた官僚貴族、イセカイ温泉の住民たちを仕切っていた世話役、警備を受け持った騎士達、更にはアッタマーイ王にキレモン伯、デファンス王妃、彼の即位に同意したデファンス王国領主達、そしてササゲーさん以下魔王国の執行部の皆様。


 そして大広間の扉が開かれ、入場する花嫁達。

 ファンファーレが響き、異世界持ち込み既存曲、メ〇デルスゾーンの結婚行進曲が鳴り響く。

 この日のために半音が出せるトランペットを作らされたり楽譜を起こしたり演奏を指導したり忙しかった。


 人族と魔族の美女達が列を成し、私達の元へ歩いてくる。

 長いドレスの裾を持つのは、人族側はアシヒッパ王が養っていた子供達。魔族側はペディちゃんと一緒に育った孤児院の子供達。


 数百年もの間、今まで争っていた両者が共に結婚を祝う日が来たのだ。


「本式典は異なる神を奉じる者達のため、各国の王の前で執行する事とします」

 あの美魔女で痴女な元大神官マチョラバ様が司会を務めているー!


 私達は妻達と指輪を交換し、結婚証明書に記名し、口づけを交わした。

 デファンス王がレイブ達の後ろに立ち宣言する。

「ここに、魔国と戦い、その末に魔国との平和を成し遂げ、異次元からの魔の手を断ち切った英雄レイブと、

 賢者クレビー、聖女ホーリー、戦士シルディア・ラ・デファンスの結婚が成立した事を宣言する!」

 続いてペディちゃんが立ち上がり、

「ここに、魔族と人族の和平を仲介し、異次元からの魔の手を断ち切り、両者のは、はんえーに尽力した偉大なる魔導士タイムと、

 魔族の戦士フラーレン・プリメ、ジェラリー・セカンダ、ライブリー、エンヴォー・カトリ、イコミャー、

 え~、アイ、ツガイ、トワ、カティ、ペンチ、ヘッキ、ゼーベ、ハッチ、ノイエ、ソーの結婚が成立したことを宣言する!」

 下段でカンペを掲げていたササゲーさんが安堵の溜息を洩らした。周りが笑いをこらえていたのはナイショだ。


 私達全員が会衆に向かうと、万来の拍手喝采が巻き起こった。中には感極まって叫んでいる人達までいる。

「「「ヌゴゴオオ~!」」」デファンス領方面からの声がデカい。デファンス王を筆頭に。無視しよう。

 イセカイ温泉からの招待客とか官僚貴族達からも「「「幸せならオッケーですー!」」」」とか未練がましい絶叫も圧倒的多数あるが無視しよう。愛されてたんだなあ、フラーレンたち。


 この国の祝典のファンファーレ曲の中、私達は王城の外に出て2台の馬車に分乗した。

 馬車は復興成った王都で市民の喝采を受け、イセカイ温泉へと向かった。

 国王達をはじめとする参列客は、試験的に建設された鉄道を、魔動機関車に牽引された客車に乗って緩い斜面を登って追ってくる。


 イセカイ温泉での披露宴も、料理指導を色々やって大変だった。特に異世界難物のチョコレートやクリーム、これは苦労したけど中々の物に仕上がった。

 酒はワイン、しかも試作を経て生産が開始されたスパークリングワインと酒造好適品種で醸された赤ワインが振る舞われ、これも瞬く間に消えて行った。

 念願の日本酒も醸されたが、これはまだ米食が広まっていないせいか、慣れた人以外は物珍し気だった。だが、米や魚の流通が広まれば、イケるだろう。


 誰もが笑顔であった。私と妻達も、レイブと妻達も、王達も、貴族達も、魔族の皆さんも、子供達も。

 人が様々な垣根を越えて、笑顔を共にしたのだ。


 レイブ達勇者夫婦は、この地に留まり人族と魔族の平和のために尽力する事を宣言した。

 反面、私達夫婦はこの後王都を離れ旅に出る事を宣言し、多くの人達から惜しまれつつ、挨拶を交わした。


 そして、宴会という名のシンフォニーは、終わった。


******


 久々にこの手で築き上げた出城で寛ぎ、愛し合った翌朝。

「空間搬出チェースッ!」異空間から巨大な水陸両用・悪路走破も可能な車両を取り出した。

 巨大なタイヤ6輪の車両が2両連結している。中は住居。16人が暮らすキャンパーだ。

「ナニコレー!」「マドーカーみたい…」唖然とするクレビー達、

「「「さすまど!」」」歓喜する妻達。


「私達はここでの使命を終えた。あとは大事な奥さん達と諸国を旅して平和な人生を楽しむさ。

 レイブ、君もここで幸せを掴んだんだ。心の赴くままに暮らすと良い」

「はい!俺は彼女達のために頑張って、幸せを広げます!」

 周りで照れるクレビー、ホーリー、シルディー。

 特にクレビー。ちょっとお腹が大きくなっている。大事を取って欲しい。


 レイブもちょっと照れつつ、私の方をしっかり見据えた。

「君は、本当にいい顔付きになったな。じゃ、幸せにな!」

 私の妻達も、レイブの妻達に別れを告げたり、抱き合ったりした。

 そして私達はイセカイ温泉を、王国を後にした。


 エンジンが轟き爆走する後ろで、レイブ達が跪礼しているのが見えた。

 レイブ、本当に幸せになってくれ。


******


 私達はのんびりとこの異世界の各地を旅して過ごした。

 だが、あの挙式の時の様に、幸福な笑顔は常に保たれるものではない。

 時に悩み、苦悩し、そして解決し、その連続だった。


 旅路が性に合わなかった妻達のために屋敷を建て、そこを拠点に旅したりもした。

 何人かは色々悩んだ末、自分が産んだ子を求めて離縁し、故郷の魔国に送り届けた。

 旅路の途中で瀕死の場面を救った子供達の中で身寄りがなかった子を養子にして育てたりもした。


 その一方で。時よりデファンス国王都に立ち寄って知った、かつての仲間達のその後と言えば。


******


 レイブは3人の妻と子供を多く授かった。

 その便りを受けて何度か出産祝いを送り届けたりもした。

 我が子を抱いたクレビー、ホーリー、シルディーは、女神の様な慈愛に満たされていた。


 後にデファンス王はシルディーに王位を継いで、レイブは王配として国内開発に外交にと活躍した。

 なにせ世界を救った英雄だ。一部はレイブを王にと政争を企んだが周辺国とのスクラムの前に駆除された。

 レイブは王配として一歩引いた立場を維持しつつ、現代知識無双で高度な福祉国家として発展させた。

 国民教育も開花し、優秀な官僚や軍参謀を育成し、周辺国から留学生を招くまでになっていた。


 旅路の途中で立ち寄った時にはイセカイ温泉で深酒した。

「魔導士殿の薫陶がなければこの国は成り立たなかったんですよ」と涙ながらに言って貰えた時は、こっちも嬉し涙を流した。

 すっかりイケメン親父になりやがった彼の子供達も、立派に育った。

 彼が元の世界で学んだ武術もしっかり受け継ぎ、文武両道を備えた若者に育っている。

 時々魔国と共同で魔物の大量出現を討ち果たしているそうだ。


 魔物討伐の時の相棒が、あのマチョラバ様が産んだオーガの若者達だったのはぶったまげた。

 中には彼女似の美少女オーガもいて、人族からも魔族からもモテモテだそうでこれまたぶったまげた。

 レイブの息子とこの美少女オーガも満更でもないとか。

 種族を越えた未来を築いた美魔女マチョラバ様、あんたは偉大だ。誰にもできない偉業を成したんだ。

 え?まだご壮健?更に驚いた。お土産持って会いに行ったりしたんだが襲われかけてダッシュで逃げた。


******


 クレビーは王立学校の学長として教鞭を振るいつつ平民への教育を整備したお蔭で、平民の識字率や計算能力が高まり、貴族が税率をチョロまかせなくなっていて時々暗殺されかかているとか。

 無論あのじゃじゃ馬娘に叶う暗殺者等いないので、いい粛正の口実になってるとか。逞しいなあ。

「オッサンがイセカイ温泉で子供達を教え始めたお蔭で、全国や他国からも学校作れって引っ張り凧よ!オッサンも手伝えー!」だが断る。


******


 ホーリーは聖女の魔力に頼らない、民間衛生と医師の育成をクレビーと協力して進めている。これまた既存の医療特権保持者たる神殿の反発を買って暗殺者を撃退しているとか。

 彼女のお蔭で夭折率が激減し、人口と平均寿命が爆上げ中だそうだ。

「オッサンが上下水道の技術を確立したんじゃないのよ」と感謝された

 なお、クレビーとの協力はキッダルトの残した先進技術の解析にも及んだ。しかし…

「過ぎたるは及ばざるが如し」と、交通や情報伝達、医療の分野に止めてこの世界に緩やかに普及させていた。


 もっと利益を生み出すダイヤの様な知識の宝は、「空の上にでもあって手が届かない方がいいのよ」と二人は遠い目をして言った。かなりヤバい力を見出してしまったんだろうなあ。

「それでいいんだよ~」と頭の中で水〇一郎の歌声が聞こえた気がする。


******


 シルディーは持ち前の美貌と両親から受け継いだ聡明さを武器に、数年でアシヒッパ王の借金を返済した。無論魔国との和平や異世界討伐を口実に返済額を半分に負けさせての事だ。

「免除された分は魔導士殿に返済すべきかと」「要らないって。それより次の戦争が待ってるだろう」


 世界平和なんて画餅であり詭弁だ。

 悪意ある国、敵意ある国、強欲な国があれば断固として戦うべきだ。

 カナリマシとデファンスと魔国、怪獣に襲撃された周辺3国は融和的だ。

 しかしカナリマシを脅威と感じ、各国に内通者を送り出し続けているヒヨリミー王国は同調する国を増やし、魔国との交易は神に反すると誹謗し続けている。

 シルディーはそいつ等と日々外交と通商で戦い続け、ヒヨリミー王国を経済的に制裁し国力を削いでいる。

 願わくば、外交戦で決着が付き、多くの命が奪われる戦いが起きる事等無き事を。


******


 魔国にも何度もお邪魔している。

 何と!やっぱり!ササゲーさんは独身貴族のキレモン伯爵と結婚する事になった!

「事前に知れてよかったよー!」

「はっはっは、義理難いなあ!」

「貴方が居なかったらこの世界はまだ泥沼の戦いしてたからなあ!」

「そういやあの時頂いた米の酒、ニホンシュ?あれはその後如何ですか?」

「まあまあの出来になったよ」

 世界を旅しつつ、屋敷に定住する妻達のためワイナリーや酒蔵を作っていたりする。

「まあご一献」「これはどうも…おお!果実の様な香り!天国の水の如き喉越し!」どうやら満足いただけた様だ。

「是非私にも!」お?ササゲーさんも食いついて来た!どぞどぞ。二人は幸せそうに笑顔を交わす。

 結婚式の酒は存分に提供するよー。


 そして。

 各国の王を招いての婚礼は、復興された魔王城を歓喜の声で満たした。

 とはいえ脳筋野郎の文化のある魔国なので、婚礼祝賀武闘会という謎の行事が開催された。

 人族からは新郎のキレモン伯と主賓のレイブを筆頭に、人族の腕自慢が魔族や魔物と激しくも熱い戦いを繰り広げた。

 これもまた両者の友好を高める機会となったのだがササゲーさんは「汗臭いわねえ」とお気に召さない模様。

 最早アラ還近いマチョラバ様はハァハァ言いながら食い入る様に応援してた。元大神官ェ…。


******


 そして我らがスケバン魔王、ペディちゃんは…

「おまんら、許さんぜよ!」と白いセーラー服を翻し魔力バズーカを魔物の群れにブチ込んでいた。もう元ネタが何だかわかんねえ。スミマセン、全部私が悪いんです。

 彼女もレイブ達とともに時折発生する魔物の大群と戦っていた。

 もう立派な大人の年齢になり、大人の体付きになっていた。ササゲーさんと二人でいると美人姉妹の様だ。

 だが、魔族と人族の寿命は違う。

 レイブの息子の一人と一緒にバリバリ魔物狩りに勤しみ、その内に。

「やっぱり人族のオトコは女を大事にするのぉ、お前の父や魔導士のオッサンみたいじゃ!強くてやさしー男は大好きじゃー!」

 と、10以上年下の若者にベッタリだ。お相手のレイブの息子も、すっかりラブラブな模様だ。

 レイブの息子達、魔族や魔物との懸け橋になってるなあ。


「オッサンはブサメンなので嫌なんじゃー」余計なお世話だ。

「でもお菓子くれー!」はいはい持ってきましたよ。


 今尚人族の国では、人々の中では魔族への嫌悪感を捨てきれない層もある。

 しかし交流が長く続けば、友と看做す人も愛し合う人も増え、その垣根も長い歴史の中で緩やかに消えていくであろう。

 そう思いたい。


******


「貴女の愛したキッダルトの夢が叶いました。今貴女は彼と会えていますか?」

 私達はジゴシトッ国の廃墟、王宮の前で、400年前に召喚された勇者キッダルトを愛しながらも結ばれなかったカバレーヌ姫の墓の前で、二人が愛飲していた酒を墓標に注いでいた。

「会えていたら、彼に感謝を伝えて下さい」


『ありがとう』『君達のお蔭だ』

 ふと、そう聞こえた。


「そろそろ屋敷に帰りましょ。ワインとサケの出荷を控えてイコミャーがパニクってるでしょうしね」

 フラーレンがほほ笑んだ。

「こういう時、ジェラリーがいてくれたら…いえ、役に立ってないわね。多分、寝てるわ」エンヴォーが笑った。

「あの子、子供生まれたかしら」「まだ聞いてないけど、そろそろ生んでそうよね」ジェラリーは子供が欲しくて私達の元を去った。


「帰りに寄りたいところがある」「あ。怪獣島ね?」「そう。あの子達に会っておきたい」ライブリーがほほ笑んだ。

「怪獣島?」「そうよ。優しくて強くて、凄く大きい怪獣が仲良く暮らしてるのよ?」「行くー!怪獣と会いたい!」「え~怖い~」

 道中保護して養子にした子供達が喜んだり、怖がったり。


「よし、戦友たちに挨拶して我が家へ帰ろう!」

 夕陽を浴びて、一家を乗せたキャンパーを南へ走らせる。その先には、かつて対峙しながら仲間になり、共に人々を護るために戦った怪獣達が待つ。さらに、その先に私達の家を護る妻達が居る。


 戦うためではなく、楽しむための道行きが私達の前に開けている。

 この平和を守るため、私の愛する人々が生きている限り、私はこの異世界に留まるだろう。

 去る間際には、5次元世界に寄って行って、世話になった『同僚』にも挨拶しなければ。


******


 こうして、魔王と勇者の長い戦いに苛まれた世界の戦いは終わった。

 争っていた人族と魔族は、手を取り合って新しい未来へ歩みだし始めた。

 平和な世界を生み出してくれた勇敢な戦士達の戦いを、私達は忘れない。


 ありがとう、異世界の勇者レイブ!彼が愛したクレビー、ホーリー、シルディー!

 そして共に戦った人族と魔族の王達、イセカイマンと共に戦った魔族の戦士達!

 ありがとう!


- おわり -


******


 最後はバトル終曲で大〇透さんなカンジで。ゴーグルオチ。


 最後までご愛読頂きまして、本当に有難うございました。

 本作はちょっと極端な趣味に走りまくったため、前作程のご支持は頂けなかったのですが、改めて

「書く事とは何か」「呼んで頂く事とは何か」「書きたい物とは何か」等々、鯨神の主題歌みたいな感じの事を自問自答するよい機会となりました。

 その結果仏恥義理しまくりまして、最後までお付き合い頂けた方々には…

 ホントスミマセン。やり過ぎました。


 目下新作の構想をあーでもない、こーでもないと二転三転させ練っていますが、「これだ!」という物を見いだせていない状況のため新連載開始をお約束できない状態です。


 自分が書きたい物、自分でしか書けない物。読者の皆様が読みたい物、読んで頂いて、「あ~オモロ」って思って頂ける物が何か、それを考えて、次回作を考え度思います。


 もし「これだ!」という次回作を御披露できた暁には、何卒改めてお付き合い頂き度、お願い申し上げます。

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【完結済】イセカイマン 勇者パーティに入ってないのに追放されたので魔族娘とハーレムを築き王国をざまぁします! インカ金星健康センター @inkakinsei

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