34.今よりも幸せで美しい世界を作って欲しい

 この世界に何百年にも亘って魔王と勇者を送り込んで争わせていた異次元の愚か者達の野望は砕かれた。

 最後に送り込まれた凶悪なる勇者も、イセカイマンと真の勇者レイブ、そして彼等を愛する女達の手によって倒された。

 この異世界は、漸く平和を取り戻したのであった。


******


 旧王都を見下ろすイセカイ温泉、そこには立派な尖塔…もとい日本の天守が上げられた。私の個人的な趣味で。

 寛永江戸城天守みたいな白と黒のコントラストを~って考えたら「白がいい」って言われたので、あーだこーだした挙句、何故か讃岐高松城天守と小倉城天守のハイブリッドという微妙なチョイスになった。南蛮造りと言われ、変化に富んだ外見が受けたんだろうなあ。元の高松城天守も奇抜な外見だが、それが五層六重になってなんか『新魔王城』!とか言われてもしっくり来そうだ。


 迎賓館とされた出城に天守が上がり、周囲を護る郭が設けられ櫓が建ち並び、王城としての面目を整えた。

 飾りっ気の無かった大広間や対面所も金泥の障壁画が置かれ、柱も黒漆や金の金具で飾られ、この世界にまたとない異質で華麗な空間となった。

 私達が住んでいた奥座敷はデファンス王の王都の宿所となった。

 更に出城の出城として私達が移り住んだ屋敷は来賓用の御殿となった。アッタマーイ王や魔王ペディちゃん、他国の王が訪問する際の宿所に宛てられる事となった。


 そのイセカイ城の一角、殺風景な空間に、王達と私達は集まっていた。

 真ん中には、ヒョロガリ陰キャの異次元人3人と、エバリ公。

 そして、元ツッカェーネ国王、アシヒッパ4世。


「私達は何百年も、こんな奴等の所為で命を懸けて戦わされていたのね」

 悔しそうにクレビーが怒りを込めて行った。

「理不尽…理不尽!」

「何言ってんのよ。私達だけじゃコイツ等異次元の連中の謎に迫る事すらできなかったよ?」

「そうだよ。魔導士殿が俺達を気に掛けてくれなかったら、俺達は魔族の人達と無意味な殺し合いをしてたんだ」

 異次元の陰キャたちは「ゲームの駒が…」「俺達が神だ…」「課金がパーだ…」等とブツブツ言っていた。


 デファンス王が宣言した。

「何百年にもわたり我等に戦乱を巻き起こし、多くの命を奪った罪人共には死すら生ぬるい!

 記録に残る最初の戦いから数えて800年の鉱山労働を命じる!」

 異次元の陰キャ共は「800年って…どんだけだ?」「俺達がゲーム初めてから今まで?」「面倒いから脱出するぞ」等とボソボソ言っている。

 ムカついたんで私が言ってやった。

「元の次元から次元操作も出来ないお前達はこの次元の人間と同じだ。

 この世界の人間が人生10回以上繰り返す長~い時間、精々頑張って働くんだな!」

「「「ガビーン!」」」


 その時、奴等は漸く自分達の置かれた立場を理解した様で、色を失い崩れ落ちた。

 そして獄吏に引きずられていった。


「次にエバリ元公爵。爵位廃止、平民とする。一門は既に解散させ平民としている。お前も鉱山で働くのだ」

「おのれ小童奴!お前達の性癖をばらしてやる!貴様はロリコンで先王はオバコンで〇×公爵はケモナーで!」

 猿轡を噛まされたエバリはジタバタしつつも、同じく獄吏に引きずられていった。

「オッサンよりマシよね」「なんでそうなる?」「オッサンってあのマチョラバ様とも…」「言うなー!」

 歪んだ笑顔のクレビー、こいつが次のラスボスなんじゃなかろうか?


「そして魔国との戦いに便乗して厖大な借金を浪費した、アシヒッパ4世だが…」

「あたしね、働くよ。一生懸命働くよ。だからあの子達食べさせてね、みんないい子よ」

 かつてのキモハゲエロデブ強欲オヤジだった元国王は、一回りも二回りも縮んだ小人の様になって、自分の事より廃墟で出会った子供達の事を必死に懸念していた。

「どうしてこうなった…」

「王城も離宮も怪獣に破壊されて、神殿の地下に逃げ込んだ時に頭を打った様です。

 ココを打たれたのが幸いしたようです」

 と私は志〇喬よろしくオデコを指さした。


「前に見た時と比べると、憑き物が落ちた様だなあ」デファンス王がしげしげと言う。

「あたしも穴掘るね!あぶない事ないよ!あの子達食べさせないとお腹減って困るのね」

 アシヒッパ王の沙汰は見合わせとなった。

「あの子達は?!ね、ね、どうなんの?」

「大丈夫。ちゃんと美味しい物食べて、安心して暮らせる様にするからね」

「ホント?!ありがとね!ありがとね!よかったよー!」元王が泣きだした。

 あのケチンボで欲掻きだった王が子供みたいに泣いている。

 あー。人の本質って解らないものだなあ。


******


「終わったのねえ…」

 フラーレンが湯に浸りながらうっとりと呟いた。

「もう、戦わなくていい…幸せ」ライブリーも呟いた。

「あ"ー。やっぱ温泉で一杯っていーわねー」日本酒をチビチビ飲んでご満悦のジェラリー。

 イセカイ温泉に色々作った施設は既に満員だ。全てデファンス王に放り投げた。

 私達は最初に会った時の様に、荒れ野に温泉を掘ってキャンプしていた。

「うう~。もちっと温泉街で稼ぎたかったがね~」

「落ち込むなってイコミャー。旦那様がいりゃあまたいい商売できるって」イコミャーをエンヴォーが励ましている。

「商売するか解らんが、この世界をあちこち旅してまわるのがいいかな~って思ってんだ」

「旅かあ…」「どこ行くのかしら」「あたし魔国から出たの今回が初めてだし」「温泉は必要よね!」「海行きたい!」決死隊の娘達が賑やかに話している。

「え"~?寝て暮らしたいでござる~」ジェラリーェ…

「まあ、私達は自由だ。暮らしに困らせる事は絶対にしない。平和な世の中を、のんびり過ごそうよ!」

「「「はい!!!」」」

 最初は敵として出会い、今では妻となった魔族の女達が、私に眩しい笑顔で応えてくれる。ぼかぁ幸せだなァ。


「幸せだなァ~、じゃないわよゴルァ!!」

「うわクレビー!」勇者御一行がやって来た。はっと目を逸らすレイブ。大人の階段登っても純情だなあ。

「あんたどこほっつき歩いてんのよ!デファンス王達が軍隊出動して探してんのよ!」

「いやいや、停戦協定も結んだしイセカイ温泉の施設も譲渡したでしょ。

 あそこはもう私の関与なしてやってけるからお役御免で…」

「んな訳ないでしょ!オッサンにはやって貰わなきゃいけない一番大事な大仕事がまだ残ってんの忘れたかゴルァ!」

「何がだよ!」

「あー…」「知っているのかフラーレン!」

「結婚式…」「「「そーよ!」」ですわ!」勇者スキスキ三人娘が声を揃えた。


「それだけじゃありませんよ魔導士殿!」真っ赤になって後ろ向きながらレイブが言った。

「まだ魔国もこの国も復興という大仕事が残ってます!

「イセカイ温泉の皆様たちも『魔導士殿はどうした!魔導士殿を出せ!』ってパニック寸前ですわ」

「え"~…そんな事になってたかぁ」

「貴方って自覚が薄いのねえ」「皆に頼られる…めんどいの嫌ぁ~」「力ある者の宿命です」

「いっそ国王か領主になっちまえばいいんじゃない?」「大儲けだぎゃ~!」

 妻達ノリノリである。


「それよりさあ」「私達も…」決死隊の娘達がニヤニヤし始めた。

「異次元のアレ、素敵だったよね!」「そうよ!私達もやろうよ!」

 私は妻達に取り囲まれてしまった!

「「「結婚式しましょうよ~!」」」


******


 結局、ツッカェーネ王都の復興に引っ張り出される事になってしまった。

 荒廃し切った王都の中でも歴史的価値のある大神殿や王城は何とか復元する事となった。

「時間逆転チェースッ!」終わった。


 王国の行事に際し集まる貴族達の屋敷は廃止され、イセカイ温泉の上宿を提供する事とし、金が庶民に回る様にした。迎賓館の機能もそのままだ。

 貴族の別荘跡は官庁街や役人の宿舎群が建ち、イセカイ温泉に退避していた役人達が泣きながら引っ越して行った。

 平民と親しく接し、共に風呂に入って飲みながらイセカイマンと怪獣の戦いを観戦した事で、彼等の意識も大いに変わった事であろう。


 行政区画の周囲に和風の城壁と水堀を設け、その外側に庶民の住宅、商業施設、学校、病院を開設した。

 イセカイ温泉では子供達を集めて読み書き計算、歴史や自然科学を教えていた。その機能を学校へ移転した。

 アッタマーイ王もデファンス王も平民への教育に疑問を持ったが、「愚かな王を出さず、庶民が行政を監視する事で国が強くなれる」と説得した。

 その結果、王都に、そして各地に学校が開設された。


 病院も上下水道も作った。疫病や夭折を防ぎ、死亡率を抑える事で人口を増やし、国民の国への忠誠心を高める。そう説得し、施設を維持するための年間予算も確保した。


 そして何より、王都から避難した人々にとって欠かせなくなった「温泉」。

 源泉を王都の地下に見付け、「空間掘削チェースッ!」と掘削し住宅街の各地に公共温泉を開設した。


 住宅や商店は純和風で、王都は洋風の城や官庁を中心に、その周囲は和風にと、中々にカオスな風景となった。「私に任せるからこうなるのだ」誰も文句は言わなかった。

 むしろイセカイ温泉と離れ離れになる事を嘆いていた人々は、王都の温泉に浸ってご満悦であった。


 かくて復興された中々にカオスな王都は、息を吹き返したのであった。


******


 並行して行われたのは、レイブと前魔王との戦いで無茶苦茶な事になっていた魔王城とその街。

 相変わらず曇天が続き、陰鬱とした空気ではあるが、復興の槌音があちこちから響いていた。


「温泉欲しーのじゃー!」「贅沢言ってはいけません」

 流石に魔王城の付近には温泉は無かった。

「しかし鉱山地帯にはありますよ」

「そこ行くのじゃー!」

「鉱山地帯を開発するのですか?罪人の棲み処ですよ?」ササゲーさんが訝し気に尋ねる。

「鉱山の需要が高まれば、犯罪者だけでは人手不足になる。復興が終わった後の労働者の受け口にもなる。

 単純に鉱物を掘るだけでなく加工も出来れば売価も上がるし、鉱山地帯の住環境を改善すれば魔国の収入も安定するだろう」


「しかし原資が…」

「カナリマシ王国が支援します」とキレモン伯爵。

「魔国との通商、友好が我が国発展には必須です。

 ササゲー宰相、5年の内に開発原資を回収し、貴方の国と民を安堵させましょう」

「ほわ…」面食いのササゲーさん、キレモン伯の熱い眼差しに雌の顔になってる。

 もしかしたらこの世界の人族と魔族の初の夫婦になるかも知れないな。


******


 と言う訳で魔国の鉱山。「チェースッ!チェースッ!」と温泉を掘りまくる。浴室や建屋はもう魔族任せだ。

地面から噴き出すお湯を浴びてみんな歓喜の声を上げる。

 中には湧出温度が80度になるところもあるんだけど熱くないのかな?魔族だから大丈夫か。

 じゃあ40度程度の温泉は冷たくないのかな?ゆっくり浸かると気持ちいいんだって、謎だ。

 まあ、仲良く人族と魔族でビバノンノンして欲しい。


 鉱夫達の住居も建てられ始めた。犯罪者は監視付きの宿舎住まいだ。

 魔王城の仕事が落ち着いた屈強な魔物達が住み始め、居酒屋や温泉も開業している。

「いらっしゃいいらっしゃ~い、今日はワインがおいしいよ~」呼び込む看板娘は、ツッカェーネ王都でアシヒッパ元国王に助けられていた子供達。

「やあ。君達も働いてるのか?」「そうよ、働かざる者食うべからずだってオッチャンが言ってたよ」

「いい事だよ。オッチャンは?」「鉱山で穴掘ってるわ」


 鉱山で「あ~ここ先、あぶないね。崩れるね。こっち掘るのよ」と、坑道の案内人の様に危険をかぎ分ける元国王。今ではすっかり鉱夫達の信頼を得、守り神みたいに頼られている。

 以前まで手あたり次第に掘っていたため頻発した落盤もすっかりなくなり、元国王は子供達と一緒に暮らしているそうだ。

 彼の元の家族は、前魔王出現と同時に他国に逃げて冷や飯喰らいしてるそうな。

「今日もいっぱい堀ったのよ~」「あたしたちもお客さんいっぱいだったよ~」まるで本当の親子の様に公衆温泉で寛ぐ元王達を見ると、これはこれでハッピーエンドだなあと実感できた。

「温泉はみんなが幸せになれるんじゃあ~」何故ここに魔王ペディちゃんが?!

「時々遊びに来る事にした!あったかほんわかなのじゃあ~」

「ペディちゃんはあっち!女湯だよ!」全くこの子は。


 鉱毒防止の浄水施設は大急ぎで造った。

 この先、念のため中流に遊水地なんかの設備も作らないと。

 製鉄所、鍛冶工房。それを稼働させるための石炭鉱山の開発。

 煙害防止の装置も当然作る。

 行く行くは精製された鉱物を鉄道でカナリマシやデファンスへ大量輸送し、増収を図ろう。

 同時に鉄道に乗って観光開発、湯治場なんかも…人生の楽しみが増えるだろう。

 夢は広がるなあ。でも構想だけ作ったら後はこの世界の人達に任せよう。


 私はいつまでもこの世界にいる訳じゃない。

 この子達が大人になった時、今よりも幸せで美しい、そんな世界を作って欲しい。


 だが、それを行うのは私じゃない。

 その日の為に戦った。これからは、この世界の人達が作り上げていくべきなんだ。

 これからは、君達が負けずに戦うのだ。


 その時、私はようやくお役御免となれる。


…つづく…

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