23.お前だけ憎んで許せない
勇者召喚の魔法陣を知ったダークナーが、ついに新たなる勇者をこの世界に召喚した!
果たして新たなる勇者は正義の使徒か、悪の下僕か?!
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「う!ギ!あー!」
マドーベーサーの作戦司令室で、魔力を注入するパネルに手を当てたホーリーが苦しみの叫び声を上げた!
「どうしたの!?」駆け寄るクレビー。
「き、来たわ!新しい、勇者召喚魔法が!」
「何であんたが苦しんでんのよ!」
「敵の!うぎゃっ!邪悪な魔力を!がっ!私の体に流れる様にしたの!ぎゃああ!」
シルディーが咄嗟にホーリーに体当たりした!彼女はパネルから弾き飛ばされ、蹲った。
「何で君はこんな苦しむ様な真似を!」ホーリーを労わり抱きかかえたレイブが叫ぶ。
「どんなに苦しくても!敵の魔力の感覚を知っておきたかったの!」
「何でだよ…」
「私はね。前に新しい勇者を召喚しようとした時、凄く嫌な感じに包まれたのよ。
もし次に誰かが同じ事しようとした時、あの感じを解るのは私だけなの!
私が仕出かそうとしたこの禍々しい何かが出て来る時の力を一刻も早く着き止めたかった!」
「ホーリーごめんね!もう無茶しないでよ!」クレビーがすがりついて詫びる。
「クレビーそんなのもういいよ!それより奴はヤバイ!ペディちゃんや前の魔王より強力な!
邪悪で歪な奴が来ちゃうよ!!」
******
ダークナー基地の地下では、魔法陣から発する紫の光芒が渦を巻いていた!
仲間を生贄にしてダークナーは歓喜していた。
「うわっはははは!私が勇者を召喚してやったぞ!これで新たな人族の力も我が魔族の力となった!
イセカイマン!貴様も年貢の納め時だな!」
光の渦が激しく輝いた!
その時、私は見た。時空に開いた穴の向こうを!
穴は、ダークナーが地面に書いた魔法陣の真上に展開していた。その中には…
そこでは一人の少女達が発狂し、悪意に満ちた男が自分達を取り囲む者達をあざ笑っていた。
女は、男に注射された薬物で狂ってしまったのだ。
その邪悪な男は周囲を取り囲む者…警察官に取り囲まれていた。
男が何かを言うと、警察官は深くお辞儀をして去って行った。放置された少女は絶命しかけ、私はその向こうに手を伸ばした!
危篤状態の少女達に手が届いた!死なないでくれ!少女達の時間を戻した。
その横で驚く邪悪な男、だがそいつは摘み上げられた。謎の、大きな「手」で。そして、こちらに向かって放り投げた!
魔法陣が爆発した!いや、光って消えた!
今尚瘴気を残す魔法陣が書かれていた場所の中央には、屈強でも筋肉質でもない、細面の男。
何かジャージっぽい服に、不健康そうな面構え。
だが何よりかにより、人相。こいつ平気で人を殺せる。というかさっき少女達を平然と殺そうとした。
「な、何だこのヒョロガリは!」狼狽えるダークナー。
この男は異常だ。殺気と狂気と、勇者達よりも強い魔力を感じる。魔力を持たない私には、様々な波長をサーモグラフィーの様な色に変えて見る事が出来るのだ。その色は、ドス黒い。
「あー?」肩が凝った様に首を左右に振り周囲を見渡す「新勇者」。
「随分とシケたトコだな。マッパの女神様とかさぁ、ムチムチの美少女聖女様とかイネェんかよ?」あれ?厨二病かな?
「黙れ!召喚されし勇者ガカイヤー!貴様はこの俺様、新たなる魔王となるダークナー様が召喚したのだ!
大人しく我が命に従…ぬおおわ!」
瞬間、爆音と共にダークナーは「新勇者」のヤクザキックを喰らってたまたま近くにあった斜面から転がり落ちた!基地の中だけどね。
地べたに突っ伏したダークナー。
「馬鹿な!この俺が!魔王ダークナーが…」ダークナーが上を見ると!
「ハアーッ!」魔力をダークナーの目の前に叩きつける新勇者ガガイヤー!
「はあ"あ"あ"あ"ーーーっ!!!」恐怖に絶叫するダークナー。
「ダークナーとやら。俺の名を言ってみろ」
「うがああー!が、ガカイヤー」「何ぃ~?ガカイヤーだとぉ~?!」
新勇者はダークナーを踏みつけた!
「俺の名を言ってみろ~!」コイツ、ニッコニコである。余程根性がねじ曲がってるなあ。
「うぁあ~ガカイヤー、様あ~!」「そうだー!」漸く新勇者は足をどけた。
何とダークナー、兜を脱ぎ棄て、鎧も脱いで逃げ去った!コイツも北〇さんだー?
廃人になって病院入りしなくてよかったね。
邪悪さ満点の新勇者ガカイヤーは、イセカイマンに対峙した。
「茶番は終わりだ。貴様は家畜だ」
脱ぎ捨てられた兜を拾う新勇者。
「家畜にしては悪くない」北〇一輝かな?
魔力を放つと、散らばった鎧を瞬時に装着した!
「貴様、新たなダークナーとなるのか?」私が聞くと
「ダークナー?あんな奴と一緒にするなー!!」潮〇児さんかな?
「俺は平和で退屈な世界に飽き飽きしてたんだ。
ちょいと女達を玩具にしてたけどそれにも飽きたぜ。
この訳の分かんねえ世界ならどんだけ暴れたってブッ殺したって罪に問われねえ。
異世界召喚ってのはそういうもんだろう?」
どうやら異世界に召喚されたって事は理解している。というか奴は謎の「手」も、周囲に光っていた魔法陣も見ていた。だが。
「生憎だが貴様の様な頭のおかしい奴はどの世界でも豚箱行きって相場が決まってんだ。大人しくお縄を頂戴しろ!」
「してたまるかぁ!」
言うや奴がジャンプして発泡スチロール製みたいな天井を突き破った!イセカイマンも後を追った!
キ〇イダー追加録音BGM定番M32が脳内で鳴り響いた!
空中で交差するイセカイマンとガカイヤー!そのまま反転してパンチとキックがぶつかり合う!
鎧と鎧の金属が叩きつけられる音が響く!繰り出すパンチをバク転で躱し回し蹴りで帰す!
このヒョロ男にそんな体力があるとは思えない、ダークナーの鎧に身体強化の魔力があり、そしてこの男自身にも恐ろしい魔力が満ちている!
対峙し奴の魔力を伺うと…奴は徐に異世界から持ち込んで来た銃を構え、ブっ放した!ジャンプで躱すも奴は追って連射する!
「ヘッヘッヘ!俺はこの時を待っていたんだ!モデルガンでもこの世界で魔力を込めりゃあテメェの脳天位弾き飛ばして見せるぜ!」
「何だそのポ〇ルのミラクル大作戦的な発想は!」奴は更に魔力の籠ったBB弾を放つ!何か火薬が炸裂する音がするんですが気のせいか?!
その時!奴を大爆発が包んだ!「ぬおおー!」大爆発に吹き飛ばされるガカイヤー!
上空を飛ぶのは2機のマドーキー!次々に魔力を放つ!ガカイヤーの後方で爆発!その前でJAC的アクションで転げまわるガカイヤー!
「お前は勇者なんかじゃない!お前の世界に帰って歪んだ心を叩き直されろ!」
機上のレイブが怒りに叫ぶのが聞こえ、渾身の機首から放った光線がガカイダーを直撃し、大爆発!!
爆発の粉塵が薄れる中、そこには全くダメージを受けていないガカイヤーがいた。
「どうやら同じ勇者同志、攻撃はノーカンの様だな」
「テメェなんかと一緒にするなあー!」
更に奴は馬ゴーレムを呼び出し、ヒラリと跨って逃げた!
まあ。この後奴がやりそうな事は想像が付く。仲間を増やし、この世を支配する毒勇者軍団でも作るんだろうなあ。
アイツはいつでも狩れる。それより今はアイツをこの世界に放り込んだ謎の存在を突き止めるべきだ。
あの外道畜生をこの世界に放り投げた、あの謎の手。その先が見えた。次はそこへ行く!
イセカイマンは上空のマドーキーに手を振り、空に飛び立つと彼方に消えた。
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イセカイ温泉の出城に私を含め勇者一同が駆け付けた。
「悪しき勇者が召喚されました!魔族のはみ出し者の手によって!」
レイブの報告に、デファンス王もアッタマーイ王もピンと来ない様子だった。
クレビーがレイブを補足して言う。
「人同志の平和、人と魔族の平和や交易が始まれば、戦乱の中で地位向上を狙う連中は不利になります。
新たな魔王が出現した事にヒントを得た魔族のならず者が、今一度地上に戦乱を巻き起こす為に人族の有力貴族と結託して勇者を召喚したのです!」
「勇者とは…その方等が勇者ではないのか?」
王たちの質問にホーリーが答えた。
「その通りですが、私達は既に魔王を討ち果たし、勇者の武器を失っています。
今であれば、ある程度の魔力を持つ者であれば、新たな勇者を召喚する事も可能です」
「まさか王都の大神官達か?」「それは有り得ません。あのおばちゃんは…」
元大神官サマは魔都でオーガの肩の上で住宅地復興の指揮を執っていた。おばちゃん有能だったんだなあ。
「今は人同志でも、魔族とでも戦っている場合ではありません!今までの歴史では起きていなかった変化が起きてしまったんです!」
「それは、何と何の戦いなのだ?人と人、人と魔でもない戦いなのか?」
「その通りです。人と魔の戦いを操っている、私達を遥かに超えた、何者か」
「何者?」
「…。五次元人!」
レイブの熱い眼差しに、二人の王は沈黙した。
******
この世界、そもそも天動説すらおぼつかないレベルだ。
一次元から三次元の説明、そしてマルチバースの説明に至っては、両王も、その近習の学者も理解できなかった。
いや、理解できないというより、そんな概念が存在する事を信じたくなかったのだろう。
一同は一旦解散し、作戦タイムに入った。
「これは借金から逃げるためのツッカェーネ王国の狂言です!」
「恐らく大神官に代わる者が軍備増強のため新勇者を召喚したのでは?」
「新勇者召喚は我が国の神官達も確認していますが、異様な魔力を纏っているそうです」
「只の借金逃れにしては手が込んでいる。もし新勇者があの勇者の言う通り邪悪な者であれば、今の力弱い魔王と組むのも一手かも知れない」逆張りする奴もいた。
雑多な意見を聞きつつ、アッタマーイ王は悩んだ。
******
翌日。様々な意見を聞きつつ、アッタマーイ王は決断した。
「我が国は一度貴国と協定を結んでいる。国王が変わったからと言ってそれを反故にしては、我が借金も反故にされてしまう。我が国は協定を維持する」
デファンス国王たちは次の言葉を待った。
「しかし我等人族は、借金云々等の問題を越えたに大いなる脅威に直面している。
一つは、力弱いとは言え、新たな魔王が出現した事!」
一つは、と言った。それだけでも脅威を感じ、怯む者はこの場ですら多い。
イセカイ温泉に住んでる人達は別だけどね。
「もう一つは、前魔王を倒した勇者レイブ殿及び、このイセカイ温泉の地を築いた魔導士テンポ殿が報告した、邪悪なる新勇者の出現!」
これには新王の近習、使節団だけでなく、さしものイセカイ温泉の人達も驚いた!
後、レイブと私に敬称を付けた。この発言以後、私達の立場は王に認められた物となる。
「幸い、新魔王は人族との戦いに消極的である。それどころか鉱山資源や魔族の特産品と人族の食糧の交易を望んでいると聞く。これは今までの歴史に無かった事である!」
一同が夫々戸惑いながら「魔族と交易?」「呪術が込められた物が運び込まれたら?」等と噂し合っている。
デファンス王が苦々しい顔で聞いた。
人々が魔族との交易を恐れるのはまだいい。アッタマーイ国王に先手を打たれたのが悔しいのだ。
デファンス王は立ち上がった!これは事前に組まれたシナリオへの違反、つまり協定違反になるのではないか?
だがアッタマーイ王は笑顔で登壇を許した。
「鎮まるのだツッカェーネの民よ!」デファンス王が語り掛けると、場の半数が黙る。暫くの後に、残る半数も黙った。アッタマーイ王はそれを狙ったのだろう。
デファンス王が続けて語った。
「我が国を支える約束を給うた恩人、テンポ殿とレイブ殿との言う事は私も同意している。
私は新魔王を信用し、新魔王との交易と、邪悪な新勇者との対決に備える!」
「「「おおー!!!」」」一同はデファンス王とアッタマーイ王に賛同した!
勇者の名を冠しながらも暗黒の邪気を纏った新勇者ガカイダーの出現!
人族の王達の結束は果たしてこの新たなる敵に抗いうるのか?
不安をぬぐい切れない勇者レイブ達、だが、負けるな私!戦えイセカイマン!
…では また明後日…
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