21.今すぐ作るぞ魔王の家を
魔王と勇者の戦いとは何か、その謎を深く深く高く高く遠く遠く求めて探査ーした勇者位一行は、古の勇者が遺した「マルチバース」というキーワードを手にした!
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「これって前に魔導士のオッサンが行ってた、別世界に浮かぶ宇宙って奴?」
「貴様クレビーじゃないな?アホでスケベでスチャラカチャンチャンな本物のクレビーをどこへやった!」
「何だとウッキー!」
「魔導士殿!これは俺の愛するクレビーです!」
「レイブうぅ~ん!」
「ほんわぁ~」
「「何か腹立つ」ちますわ」
「まあ何だ、君達も負けるな」「「レイブ~」くぅ~ん!」
年が離れている所為か、何か学生サークルのラブラブ空間を眺める顧問的なカンジで微笑ましい。
もう彼等の関係はサークルからもう一歩大人の階段も登っちまった様だけどね。
今やマドーベーサーを色々調べ尽くしてかなり聡明となったクレビーの言う通り、異世界という名の3次元世界から、高次である5次元世界の干渉によって別の3次元世界に転移させられた可能性はあるかも知れない。レイブも、キッダルトも。
「クレビーの推察が正しい、って言う可能性は高い。だが何故心の友キッダルトがその発想に辿り着いたのかが解らない」
「いつ心の友になったのよ」
「異世界転生を5次元世界に例えたのか、確信があったのか。あるいは、それをやった誰かと接触したのか?」
「スルーかよ!それは兎に角、自分達か、他の誰かが何者かに操られていた、そう考えないと納得いかない何かがあったのよ。あのカバレーヌ王女も何故彼を助けなかったのか、とかね。
そもそも勇者が魔王を倒しておしまい、そんな訳ないじゃない!
あたし達魔族をどうするつもりだったの?皆殺し?ペディちゃんもオッサンの奥さん達も?
あのアホ国王だってカナリマシの連中だって魔国をどうするつもりだったの?まさか何もしないで目出度しメデタシ、それってあんまりにも不自然じゃない?」
「そうだよな。なんだか戦え、倒せ、勝て、ってだけでさ。その先の未来はなんだか自然に幸せになるって、今思えばホントかよって感じだったよな」
「私は嫌よ!戦いで殺された人や、残された人達がそのまんまなんて!私達に憎しみが残ったまんまなんて!
畜生!あたし達なんでこんな事も忘れて勝った勝ったって浮かれてたのかしら!!」クレビー、結構シリアスなキャラだったんだなあ。
「なんだか解る」ボソっとホーリーが。
「あの次の勇者を呼ぼうとした時の事?」「う!…そうよ」ホーリーが辛そうに語った。「それならもう…」
「あの時私はサイテーだった。でも、何か別の戦う奴呼べばあたし達楽になってハッピーエンド、それだけをぼやーって思ってたのよ。何でだろうか解らない」
クレビーがホーリーの肩を抱いて言った。
「あんたが悪い訳じゃなかったのよ、やっぱりヘンよね。何かの力が働いている」
ん~。
どうにもこのしばらくで私と会ったばかりのトンチキパーティーじゃなくなってる。
まあ色々あったし、考える事増しマシになってんで成長したのかも。だが
「レイブ、もしかしたらキッダルトやカバレーヌの手記に、誰かに操られたみたいな記述があるのかも知れないな。そこを読み解こうか」
「はい!」勇者スキスキ隊も頷いた。
「まあそれと並行して」
******
またまた魔王城。
その前庭で、孤児仲間の少女達と一緒に遊んでいる魔王ペディ。可愛い。
「お土産だよ~」私と勇者は滅んだ国で摘んで来たフルーツで造ったお菓子を配る。
「あ!ヘンなオジサンなのだー!おやつくれー!」「「「おやつくれー!」」」
可愛い。
「こら!知らない人から物を貰っちゃいけないって言ってるでしょ!」ササゲーさんが来た。完全にお母さんだなあ。
「あら勇者と魔導士でしたか」「どうも~」スッカリご近所気分。
解放感溢れていた王座の間も壁が出来てきて、目下屋根を建築中。人型の魔物が壁の上端に木材を担ぎ上げて、屋根を組み上げている最中だ。
「休戦となって落ち着いた故、都の復興を行おうとした所、皆が『魔王城が先だ』と言って譲らぬ故、並行して進めて居るのだ」とササゲーさんが溜息を吐く。色っぽい。
「実は魔王について伺いたい事があるんです」トントントン!
「あまり魔族の秘密についてまで話そうとは」ギーコギーコ!
「話せる限りでいいんだ。魔王が降臨した際にだな」バチーン!バチーン!
「「あーうるさい!」」
私は屋根工事の現場に駆けあがり、力自慢の魔物を前に「物質移動チェースッ!」と屋根材を壁の上で組み合わせる。
忽ち巨大な三角状の構造物が組み上がり、その端々は組木細工の様に削り取られ嵌め込まれる。
更に板材で屋根の下地を葺き、瓦というかスレートを葺いていく。
飾り破風や出窓は無いが屋根が出来たー!
「「「おおー!」」」魔物達が拍手をくれる。どもども。
「便利なものだな」「これで雨が降っても濡れんのじゃー!よかったー!」どもども。
会議再開。
「で、私達は400年前の勇者が遺した記録の中に、勇者が異世界から何者かの意思で連行されてきているのではないか、そんな記述を見つけた」
「何者も何も、人族の神殿が召喚しているのであろう。それと魔王と関係が?」
「魔王も勇者も大体100年毎に、まるでセットで出現している。神殿による召喚も含めて、魔王の出現すら何者かの手によるものではないか、そう睨んでる」
「馬鹿な。魔王様の出現は魔神様による人間制圧の詔だ」
彼等魔族の侵攻する神、魔神が選ばれた者に突如魔力を与える、そういう事か。
何物だ?魔神様。
「今まで勇者に勝った魔王はいたのか?」俯くササゲーさん。いないな、こりゃ。
「そもそも勇者に勝って人族をどうしたかったんですか?」
「奪われた土地を取り返すに決まっている!」ササゲーさんは語気を強めた。
「元々この大陸の北方は我等魔族の地であった!それを南方から人族が浸食し、太陽と豊かな土地を奪い、灰色の空に痩せたこの地へと追いやったのだ!」「え?!」衝撃の事実!
「レイブ、そんな話聞いたか?」
「初めて聞きました!魔族がどこからともなく現れ人々を襲ったとしか…」
「キッダルトの記録と同じか。『そもそも何で戦ってるのか』についての考察や記録がの結論、『双方の言い分に矛盾あり、不明』と」
「もしササゲーさんの言う事が事実であれば、俺達は…」
「真実に挑みたくば挑むがよい!その上で…どうするかを考えるのだ、若者」
「真実がどうあっても戦いは避けたい。でも、もし人間が侵略者だったら…どう償えばいいんだ?!」
「考えよ。我等が納得のいく答えを出す様足掻くのだ」
「解りました!」レイブは決意に満ちた瞳でササゲーを見つめた。
「そちらにだけ宿題を出すのも不公平かもしれぬ。我等も過去を探ろう。とはいえ魔族の男共は脳筋。まともな記録があればよいのだが…」真面目だな、ササゲーさん。
「話せる範囲でいい。そもそも魔王の魔力とは何なのだ?」
「大いなる力だ。四天王を従え力を与える」
「確かに俺達の倒した四天王は強者揃いだった。二度と戦いたくないよ」
「それ以上は話せぬ。もし和平が決裂となれば我等は敵同士、再び戦わぬとも限らぬからな」
「わかった。それとさっき太陽と豊かな土地と言っていたが、君達は太陽や農地があれば幸せに生きて行けるのか?逆に太陽に弱いとか人間の食糧では生きて行けないとか」
「そんな事あるかー!」怒られた。
「太陽が弱い地故、病に伏せる者もいる、日々の糧が乏しく苦しむ者もいるのだ!」
う~ん、そういう方たちにはせめてシルディーの御実家にでもサナトリウム作って…いっそイセカイ温泉に湯治に来て欲しいな。
「何か人族に売って替りに食料や栄養素を駆って貰えればWINWINなんだけどな」
「人族が我等から物を買って糧を売るとでも?」
「いや役に立つ物なら買うでしょ?」「ええ」
「何い~!!」驚かれた。
「例えばミスリルとか金とか銀が取れれば普通に買うし、麦や野菜が余れば売るだろう。今度イセカイ温泉の商人達に聞いてみよう」
「そ…そんな事が…いやミスリルは武器に使うのでおいそれと売れぬが…他の貴石や鉱石ならば…」茫然とするササゲーさん。
「どんな言葉や約束より、金と物の流れの方が固い絆になることもあるさ。
まあ金と物の流れが途切れればそれまでだけどね」
「いや、それが出来れば多くの困っている者達を…いやいや!先ずそれが出来るか否かを確かめよ!出来るのであれば、我等の地で採れる物を幾つか見繕おう」
等と話していると、魔族との共存の可能性も色々ありそうだなあと感じられてきた。
「あ、でもペディちゃんって、四天王を操る力があるの?」
「うっ!」
フラーレンの、それを言っちゃあお仕舞ぇよな突っ込みにササゲーさんが解答に詰まる。
「違う。ペディ様には四天王を操るのと全く別の力が…」
「「「知っているのかライブリー!」」」何人かが期待を込めて叫んだ!
「すみませんある様な気がするだけです」「「「…」」」一同、言葉を飲み込んだ。
ズッこけなかったのは、次を期待しての事だ。
「確かに!ペディちゃんが体現した時は、私達の体が内側から暖かくなったのよ!」
「フラーレン嬢、其方もなのか?」
「はい、ササゲー様!あれは四天王が戦う能力を得たという物とは、全く別の物でした!」
それって戦いとかは兎に角、治世にはかなり有効な能力でないかい?
「だから今四天王とかいないのかー居てもヤだけどさー」
「ひとの婚約者泥棒しつつその四天王やその配下に尻振ってたのはどなたでしたっけ?」
「昔の事よー」ジェラリーェ…
******
その世界の裏側で。
「この腰抜け共が!」とヘナチンダークナーが部下?の魔族男をガチンゴチン殴り倒している。
「うるせえこのペテン野郎が!」反撃されて殴り返されてるダークナーェ…
「テメェが絶対勝てるっつうから乗ったんだろうが!」
「愚か者奴!今回などまだまだ緒戦に過ぎん!我等には最終兵器が隠されているのだ!」
「ハァ?最終兵器?」「まだハッタリかますつもりかよ?」
「今日からお前達の中で俺と共に戦い、魔族と人族を統べんとする者は、俺の分身となれ!同じ鎧を纏うのだ!」
さっきまでのヘナチョコっぷりはどこへやら、魔力を纏った黒い鎧を現すと、一同は目の色を変えた!
「凄い魔力キター!」「これを纏えば…」「これで勝つる!」
ダークナーの仲間の三人が、ダークナーと同じ形、一部の色が異なる鎧を手にした。
すると!
「ぐおおっ!」鎧が黒い光を放ち、靄となり三人を包む!
靄は次第に形を成してゆくと…
「ブロンズダークナー!」
「カッパーダークナー!」
「シルバーダークナー!」
色違いの鎧を纏ったダークナーが四人になった!
「世界を闇に!」「世界を夜の闇に!」「夜は我らが支配する!」なんかノリノリで叫んでるよ!
「聞け!我等は世界を手に入れる!魔族の王は人族の手に堕ちた!
しかし逆に新たな人族の勇者を召喚するのだ!
行け!行って新たな勇者を手に入れるのだ!」
「「「ハイル、ダークナー!」」」
ダークナー4人衆は馬ゴーレムに乗って驀進した。
一見カッコ良すぎる位にカッコいい、新たな軍団が生まれた!
******
その時、叫びが聞こえた。色々異世界を渡り歩き過ぎた私は、ある程度近い距離の悲痛な叫びが聞こえてしまう。
あ、これ。あのマッチョ大好きなピチピチおばさんだ…
「ちょっと中座しますー」魔王城を退出しようとする私。を…
「あの素寒貧共ですね?」とササゲーさんが呼び止めちゃった。
「俺も行きます!」レイブも乗っちゃった。
「あー、魔族との戦いを派手にしちゃうと人族に疑いの目を持たれるんで…」
「大丈夫よ。人族の目に触れる前に踏みつぶしちゃいましょうよ」「怖いよフラーレン!」
「妾もいくのじゃあ!」「だめです!ペディちゃんはお留守番ですよ!」「え゛~?」
「この伝説美少女鉄仮面を被って魔国を護るのです!」
「おー!風が頬に当たっちょらん!」
すんません、色々すんません!と心で詫びつつ…
結局みんなで「空間移動チェースッ!」
******
そこは人型魔族のオーガが潜む洞窟…の筈が。
街じゃん!すげーそれなりの建物が並んでるよ!これあのオバチャンがオーガ達に作らせたのかな?
だがそれを踏みつぶすのは、トゲだらけの古代怪獣、それを操るのはダークナーと、奴に魔力を送る三人衆!4人は馬ゴーレムでトゲ怪獣の前を驀進している!
「勇者召喚の秘儀を知る神官をあぶり出せ!邪魔なオーガ共など潰せ!壊せ!破壊せよ!」
「やめてー!私のムキムキちゃんを殺さないでー!」
ピチピチおばさんピチピチ具合に拍車がかかってる!いやそんな事より倒れたオーガを庇って怪獣に踏みつぶされそうだ!
知らない仲…では済まない彼女を救うため、ちょいと席を外し、コルセットを(中略)光りながら巨大化!
トゲ怪獣にアッパーカットを決めた!ひっくり返るトゲ怪獣!
おばさん神官と彼女の愛するマッチョオーガを庇って立ちはだかるイセカイマン!
「すごい!素敵…じゃないわね?ちょっとお腹周り不自然じゃね?あーコルセットかあ…」
流石マッチョラバー、よう筋肉見とる。ホント助けるんじゃなかった。だが助ける!
突進するトゲトゲ怪獣に頭突きをかまし、怯んだ所に回し蹴りを喰らわせる!
ジャンプし空中転回キックで更に怪獣を撃つ!
「鎧で胸板は見えないし、お腹はコルセットだし。でも腕や太ももはステキ」とマッチョマエストロおばさん神官は真面目な顔してもじもじしながら感想を語る。
その背後に迫るダークナー四人衆…
そこに大爆発!!「ぬおおー!」
空中に二機のマドーキーが飛来した!三人衆もアチコチでマドーキーに攻撃され、地べたを転がりまわっている!
「私にだって出来るのよ!」ゴキゲンなクレビーがレイブと共に、地上のダークナー4人衆をビシビシ攻撃した!
怪獣はダークナー四人衆の操縦を失い、狂った様にイセカイマンに突進した!
そこに強烈なチョップ!転げて倒れるトゲ怪獣!
追い打ちを掛けんと迫るイセカイマン、しかしトゲ怪獣、尻尾を立てると…
トゲをイセカイマン目掛けて発射した!辛くも弾いて往なすイセカイマン。
起き上がり更にトゲを飛ばすトゲ怪獣!
トンボを切ってトゲを交わし、その後方で追う様に起きる爆発!
迫るトゲ怪獣!
その前を横切るマドーキー、更にもう1機が攻撃、爆発に怯むトゲ怪獣!
「邪魔な奴らめ!」地上で転げまわっていたダークナーが苦々し気に叫ぶ。
イセカイマン、空中に飛び立つと…
「必殺!風車!」
子〇真人の声で叫び、空中で激しく回転し虹色に光る巨大な手裏剣と化し、トゲ怪獣に体当たり!
怪獣を縦に真っ二つ!
「クレビー、未だ!」「任せて!」
二機のマドーキーが機種から光線を放つ!
真っ二つのトゲ怪獣は忽ち大爆発!
イセカイマンは飛び立ち、空に消えた。
******
「大神官殿!」今となっては半裸の痴女と化した元大神官に駆け寄るレイブ達。
彼女はオーガ達に治癒魔法を施していた。「うげ…どうなってるんだ?」
「あー…筋肉大好きオバサンの彼女は真実の愛に目覚めちゃったんだな。筋肉という真実に」
起き上がったオーガに抱き着く元大神官オバサン。
「あの黒騎士の狙いは新勇者召喚。だから大神官が狙われたのよね」同意を求めるクレビー。
「奴の狙いは新勇者を召喚して手駒にし、魔族も人族も支配しよう、ってな所だろうな。
遅かれ早かれ、奴は新勇者を呼び出すだろう」
「しかし勇者はあんな奴の手下になって悪事に手を貸すのかな?」
「過去の記録では、ならず者みたいな勇者もいたそうよ。嫌な予感しかしないわ」
泣きながら睦み会うオーガ達と元大神官オバサンから目を逸らしつつ
「まあアレは兎に角、折角平和に向かってる世の中だ。どんな奴が来るかより、どう戦うかだ。
平和を粗末にしちゃいけねぇ~」
******
夕焼けの中ゆっくりと飛ぶ2機のマドーキー。その下にはオーガ達が走って従っている。
肩に元大神官オバサンを乗せて、魔国を目指している。彼等なら復興中の魔国の労働力になり、ダークナーの襲撃にも魔王軍が即応できるだろう。人族である元大神官と楽しく暮らして欲しい。
しかしその姿を恨めし気に見る奴が。
崖の上から夕焼け空に向かい呟く黒騎士ダークナー4人衆。
「おのれイセカイマン!次こそは必ず息の根を止めてやる!」前回もそれ言ってなかったっけ?
平和になりつつある世の中を乱す奴を許すな!戦え私!戦えイセカイマン!
…では また来週…
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