17.悲しみの海は愛で漕げ

 古の勇者キッダルトが遺した魔導戦闘機マドーキー!しかしその力を振るう時、わずか10歳の少女であった新魔王ペディは激しい頭痛に襲われた!

 この予期せぬ高価にどうすべきか悩む勇者達に、なんだかスットコドッコイなヘナチン野郎の襲撃を受けた!秒でヤッつけた!


 その日、ライブリーが鳥の魔物に文を託し、宰相ササゲーさんに面会を申し入れた。


 同時にシルディーさんが父であるデファンス辺境伯へ

・カナリマシ王国内部でツッカエーネ王国民を奴隷として接収しようと企む者がいる

・勇者がマドーキーを使うと幼い新魔王が激痛に襲われる

・新魔王を倒しても更なる魔王や下克上を狙う物が居る、後者は既に現れた

・カナリマシ王国、新魔王両方との停戦が急務。先ずは新魔王へ会見に行く

との文を…ホーリーの瞬間移動で伝えた。

「おそらく父が王国内の貴族に集合をかけ、国としての総意を纏めてくれるでしょう」

「纏まれば、の話だろうね」「…その通りです」その辺の限界をシルディーも感じているのだ。


******


 宰相ササゲーさんからの返事をおっかなビックリ待ちながらイセカイ温泉を切り盛りする日々。

 大分商売も盛んになり、商人に加えて貴族の往来も…一部の上位貴族は温泉宿一棟を丸々借り上げて王都の屋敷にしたいとの申し出まであった。

 勇者やイセカイマンが守るイセカイ温泉の方がいいんだって。

「じゃあ買やーすか?」イコミャーが美味い事貴族と折衝し、上級の宿が売れた。

 コイツ等わかってんのかな?このままここでのんびりしてたらデファンス辺境伯がやって来て借金分割会議に引っ張られるぞ?ああ、そんな情報掴んでたらこんな所でのんびりししてないか。

 やっぱもう駄目だよこの国。


 とは言えいい実入りになった。そして「チェースッ!」と新しい宿とそれに繋がった商店街や卸スペースを建てる。そこを大商人達の宿にする。

 中小の商人達からも「新しい大規模店舗が欲しい」と要望が寄せられると「貸店舗どうで~」とイコミャーが商談を纏め「チェースッ!」と店を建てる。


 王都を見下ろす傾斜地イセカイ温泉郷。ある程度拡張してもいい様に計画的に道路や上下水は設計し、部分毎に建設していったがマズい。住居スペースも水利もキャパを越えそうだ。いい加減王国をデファンス辺境伯でも纏めてくれて、王都を復興して欲しい。国王の借金?知った事か!


 しかしそんな私の気苦労とは無関係に避難民…いやもうこれ温泉街住民だろ?風呂と湯煙を組み合わせた温泉マークを付けた工芸品やパンが売り出され、商人達や貴族の随行員への土産に売れている。みな逞しく暮らしを始めている。


 仮設住宅もすっかり長屋の様に定着し、「王都の貧民街なんかよりよっぽど綺麗で暖かいぜ!」「台所も綺麗で水を汲みに行かないでいいなんて夢みたい」「トイレくさくない~!」「お風呂近くてうれしー」と集合住宅になってしまっている。これ二階建てにしたらもっと住環境よくなるかなあ等考える…いかん仕事が増えるしそれはもう国王や領主の仕事だ。


「領主みたいなもんじゃないの?」言うなフラーレン。

「魔族でもゼロからここまで立派な街を作れる領主などいないかも知れないわ?あのササゲー宰相だって」

「言うなー!噂をすれば何とかって言うだろー!」

「ご主人様、魔王様からの回答が来ました」「ほらー!」「ゴメンナサイ」

 ライブリーが手紙を持ってきた。只の手紙じゃないな?魔力の周波数を感じる。


 温泉地で駐留しつつ警備を買ってくれている勇者達を呼び、礼によってイコミャー&決死隊に留守番を頼み、手紙を開けた…!


******


 空間転移魔法が仕込まれた封筒であった。転移した先は、壁の上から半分が解放感タップリに消え去っている魔王城。

「また来てしまった」と感慨深げに言うレイブ。

「もう来たくなかったわ!」辛い戦いだったのかクレビーも嫌そうに言う。

「なんて言ってる傍からお迎えよ」ホーリーが言う通り、周囲は…

 褐色肌の魔族の戦闘服…半裸の美女達に囲まれていた!目の保養地だ!

「あなたはフラーレン令嬢!」包囲する娘の一人が言った。

「ごきげんよう。今日は随分と優雅さを欠いたお迎えです事」とフラーレンは事も無げに返す。

「ゲ!泥棒猫のジェラリーも!」「何よそれ!」

「何よもあるもんですか!あんたヒトの彼氏を横取りしやがって!」

「一体何人ひっかけてんだコイツ」「コイツもご主人様の妻なんですからね」「そうだったー!」

「なんか前来た時より緊張感欠けるわねー」クレビーが珍しく御尤もな突っ込みを入れた。


「茶番はそこまでだ!」強力な魔力弾が飛んできた!

「空間消滅チェースッ!」と言った頃には魔力は消えた。異世界チート十八番、無詠唱でもいいけど何か唱えるって奴だ。

「想定内か」と現れたササゲー宰相。改めて見ても美女だ。キツそうな眼差しがその道の人には土下座で歓迎されそうだ。


「お招きに与り光栄です、ササゲー宰相。

 私は人族でも魔族でもない異世界の流民、魔導士テンポ」

「俺は勇者レイブ」二人は頭を下げた。妻達も頭を下げた。

 だが勇者スキスキ隊は頭を下げない。特にクレビーは激しい憎悪を抱いている。

「文にも書いた通り、私達の希望はその幼い少女を戦いから遠ざける事。そして互いに手を出し合わない事だ」

 そう言うと地面から席が浮かび上がる様に現れた。私達は席に着いた。


******


「そもそも魔族を魔界へ退けたのは人族だが?」

「それも検証しよう。人族側の歴史と、魔族に伝わる歴史には奇妙な違いがある。先ずは戦いの剣を収め、魔王ペディを苦しめる苦痛を止めよう」

「その隙に魔力を使わない攻撃をしないという保証があるのか?」

「それを言ってしまえばお互い様になってしまう。

 もし人族が争いを仕掛ければ君達も怪獣で反撃するだろう?

 そうしたら人族も勇者が魔道具を振るい、この子を苦しめる事になる。

 私達は、少なくともここにいる者達はそんな事を望んでいない」

「その気持ちは…その方の気持ちは有難い」ササゲーさんは深く頷いた。しかし。


「しかしだ。人族全体となればどこまで信じられようか。

 情けない事だが、我が魔族でもペディ様を魔王と頂かず、隙あらば武功を挙げ魔王の座を簒奪せんとする男共もいるのだ。同じ様に人族とて争っておるだろう?

 人族の降伏と武装解除以外に、魔王様の安泰は考えられないのだ!」

 恐らく、ササゲーさんも無理を言っている自覚はあるのだろう。冷静を装いながら、心の内の苦い顔が見える。


「貴女は。優しいんだね」

 勇者の言葉にササゲーさんは意表を突かれた様だ。

「俺はまだ未熟だ。でも、魔導士殿が、貴方が痛みに苦しんで泣いている魔王を放っておけない、何とか助けたいという気持ちは解るつもりだ。

 俺だって!…戦いの場にいもしない、小さい女の子を苦しめる様な力なんて使いたくないよ!でも…」

 レイブは言葉を止めた。皆解っている。使いたくなくても使わなければいけない、それが戦いだ。


「人族の勇者もまた、優しいものなんだな」

「そうさ、強い奴ほど笑顔は優しいものさ。だって強さは…」

「だが!魔族と人族は戦う宿命にあるのだ!!」ササゲーさんが激高した!

「それをひっくり返す事など!出来る…ものか…」しかし、その言葉は窄んでしまった。


「本当に出来ないものなのだろうか。段階的にでも休戦できないものだろうか?出来ないと思い込んでるだけじゃないのか?」

「人族の王国にも魔族と平和に暮らす事を祈る者もおります!」シルディーが言葉を添えた。

「それも僅か一部であろう!?」

「わたくしの領地、デファンス辺境伯領は共存を希望しています。

 私達の隣国、カナリマシ王国でも賛同する者もいます。

 可能性は限られていますが、全くない訳ではありません!希望はあります!」シルディーが祈る様に話した。

「ササゲー様!少なくとも私達はご主人様の妻になりましたわ」

「絶対に不可能という事はありません。部分的に試して、それを広げていけば可能性は上がります」

「あっちの暮らしも快適ですよ~」

ありがとう、フラーレン、ライブリー、ジェラリー。

「戦いたい奴や欲をかく奴を人側と魔族側でどう抑え込むかを考えないといけません。

 100の信頼も1つの裏切りで簡単に壊れるのも事実。だからこそ挑み甲斐もあるかも知れませんね、宰相殿!」エンヴォーも応援してくれる。


 こちらを見つめるササゲーさん。その瞳には、涙が溢れていた。必死に堪えていたが、止める事は出来なかった様だ。

「わ…私は…お前達に…死ぬ危険のある戦いを命じた!」

「まあこうして生きてステキなご主人様と出会えましたし~」

「恨んで然るべきなのに!何故!私の想いを叶えようとするんだ!」

「ていうかあ、魔王様可哀想だしぃ」「「「うんうん」」」

「お前達はぁ!…優し過ぎる…」尚も涙を堪えて話すササゲーさん。

 国を預かる宰相としてはどうなのか、しかしこの人も充分優しい心の持ち主だ。


******


「ササゲー。どこなのじゃあ」玉座の奥から声がする。小さい子供の声だ。

「いけません!誰か!」「それがどうしてもと!」「ササゲー!」

 私達の前に出て来たのは、10歳の少女、寝間着は汗でびっしょりだ。

「風邪をひく!服を乾燥させるが宜しいか?」「気遣いには及ばぬ!」ササゲーさんが対処した。たちどころに温風が魔王を包む。

「あったかいのじゃあ~」ふらつく魔王をササゲーさんが抱き止めた。

「駄目じゃないですか。ちゃんと休んで下さいませ」

「またササゲーが倒れたらいやじゃー」

「大丈夫ですよ。いいこ、いいこ」


 激痛の後遺症か、魔王ペディは熱を発していた。

「みんな死んでいなくなっちゃうんじゃあ!ササゲーも!かあちゃんも!いなくなっちゃいやじゃー!わあーん!」


「ぐっ!」レイブが何かに堪えた。心優しい彼の事だ。

「俺達はこんな子供と戦うところだったのか!こんな小さい子を苦しめたのか!」

 シルディーもホーリーも俯いていた。


「何言ってんの?イセカイマンがいなかったら王都の人達は、こいつより小さい子供達も怪獣に踏み殺されていたのよ?いい気味だわ!」


 空気が変わった。ササゲーさんが殺気を向けた。

「クレビー…本気で言ってるのか?」

「本気に決まってるじゃない!私だってみんな殺されたのよ!コイツなんてこの手で殺してやる!」

「クレビー駄目!」ホーリーがクレビーを抱き止めた!

「あんた今悪意が凄い!落ち着いて!」「アンタだってレイブくんを殺そうとしたくせに!」

 シルディーは盾の様にペディとササゲーさんの前に仁王立ちになった。

「例え友であってもこの子を傷付ける事は許せません!」

「かあちゃーん!かあちゃーん!会いたいよー!」

「あたしの母さんを殺しておきながらこの餓鬼!」

「この子が殺した訳じゃないでしょうが!」

「うるさい!父さんの敵!兄弟の敵!友達の敵!!死ね」

「やっぱり…こうなるしかないのかしら…」泣きわめく魔王を抱きしめながら、ササゲーさんが何かを覚悟したかの様に冷めた目で呟いた。

 今、私が彼等の心に働きかける事は何も無い。


 その時、レイブがクレビーを抱きしめ、口づけした!

「俺は君を愛している!」


 クレビーの憎しみが止まった。

「俺がいるんだ!君には俺がいるんだ!俺はずっと一緒だ!」


 私は、ホーリーは、魔王は、ササゲーさんは、シルディーさんは、妻達は二人を見つめた。

 抱き合った二人は、憎しみの嵐を鎮めた。


「あたし一人じゃないの?」

「そうだよ」

「でもみんな殺されちゃったよ」

「そうだね」

「あたし、皆の仇を取らなきゃ。皆の恨みを晴らさなきゃ」

「もう晴らしたんだよ。みんなを殺そうとした奴は、君がやっつけたんだ」

「まだいるよ?」

「もういないんだ。戦って戦って、戦い合って、君も、あそこにいる人達も、戦いで大事な人を殺されちゃったんだ」

「死んじゃったの?」

「殺されたんだ。向こうも、こっちも」

「もう、嫌。嫌」

 優しい少年の胸の中で、少女の憎しみが少しずつ和らいでいく。

「嫌よ、父さん!母さん!みんなー!帰って来て!会いたいよー!」

 しかし悲しみは消えない。


「あの子どうしたの?」泣きながら魔王がササゲーさんに聞いた。

「あの子もね、お母さんやお父さんが死んじゃったの」

「あの子かわいそう、あたしも母ちゃんにあいたいよー」

「私達が…私がお母さんの代わりになるわ。ペディちゃん。私のかわいいペディちゃん…」

「母ちゃんー!母ちゃーん!」


 母を失った二人の少女が、敵同士の女の子泣いている。

 この世の地獄だ。


「ご主人様。二人とも可哀想です」自分の事は何も言わないライブリーが涙を流して言った。

 フラーレンもエンヴォーも、涙を堪えていた。

 ジェラリーは…音を遮る魔力を周囲に巡らしていた。涙と鼻水を垂らしながら。

 魔王が「母ちゃん」と、平民の言葉を放ったのに反応したのか。ジェラリーも下級貴族、周りに魔王の放った平民の言葉を悟らせない様にしたのだ。君もいい子だ。優しい子だ。


「終わらせよう。戦いを早く終わらせよう。ますはそれからだ!」

 レイブが逞しく言い放った。

「ペディちゃん。ササゲーさん。お願いだ。先ず、戦いを一旦止めよう。そしてもっと話をしよう。

 それからみんなの心をゆっくり癒すんだ」

 私が同じ言葉を言っても、レイブ程の力は無かっただろうな。

 彼の優しさが、魔王を討ち取ってしまった過去が、強い願いとなって言葉になった。


******


 その時爆音が響いた!

 魔王城が攻撃されている。ならず者共に!

「いやー!こわいよー!」「大丈夫よペディちゃん!私が守ってあげるわ!」

「俺達も貴方達を護る!みんなもいいか?」レイブが声を放つと、シルディーが、ホーリーが、泣きはらして赤い目をしたクレビーが無言で頷いた!


 皆が攻撃を放った方向に向かうと、魔王城に軍勢が向かっていた。

 その先頭にいるのは、ダークナー!

「皆の者!あの魔王を僭称する小童と毒婦は魔族を裏切った!今こそ裏切り者を討ち取り、人族を奴隷とするのだ!」「「「うをー!!!」」」

 あのヘナチン、新魔王即位以来ウーマンリブに煽られて魔界のすみっちょ暮らししてた男性陣を取り込みやがったな?

 私はその場を離れ(中略)「うおまぶし!」ダークナー共の頭上に光る魔石の輝きと共にイセカイマンが現れた!


 今、敵と味方を越えて歩み寄ろうとする人々を、欲にまみれた悪意から守れ!戦え!イセカイマン!


…では また明後日…

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