18.遠いお空に母さん眠る

 聖剣を失った勇者に残された新たなる古代の武器、それは同時に新たに魔王となった少女を苦しめ苛める災いでもあった!

 苦しむ魔王を救わんとした私達は魔王城で宰相ササゲーさんと会見し、憎しみを乗り越えて戦いを終えるための一歩を踏み出そうとしていた。

 しかし!そこに魔界制覇を企む黒騎士ダークナーが男魔族たちを扇動して魔王城を襲った!

 果たして人族と魔族は戦いの無い世の中に踏み出せるのであろうか?


******


 新魔王出現以来冷や飯喰らいだった男軍団を引き連れた黒騎士ダークナーが叫ぶ。

「魔王城を落とせ!歯向かう女共は奴隷にしろ!

 あんなチンチクリンな小娘など我が剣でぬおお!」喰らえ空間移動でヤクザキック!

「流石ご主人様!」「「「やっちゃえー!」」」

「おのれこのデブオヤジぐわ!」更に廻し蹴り三回転!「ぎえ!ぐあー!」

 たまたま近くにあった傾斜地を果てしなくゴロゴロと落ちて行った。

「えー?アイツ駄目じゃん!」「勇者を退けたってのウソじゃね?」「帰ろ帰ーろおうちに帰ろ」男共の士気もダダ下がりだ。


「帰れるなどと思うなヘナチン共奴!」男共の上空に浮かぶ、眼から禍々しく赤い光を放つササゲーさん!

「魔王様に盾突いた罪!死んで償え!」振り上げた手に赤黒い光を生み出す!

「ひえー!」「だからアイツの誘いに乗るなんて止めとけって言ったのにー!」「言う事聞いたら合コンセットしてくれるって言うからー!」コイツらもサイテーだな

「灰になれ!」


「だめー!」


 止めに入ったのは、魔王。いや、ペディちゃん。

「やさしいササゲーにもどってー!もう痛いのいやなのー!うわーん!いやだよー!」

 泣き声が響く。

 妻達が、シルディーとホーリーがペディちゃんを守りに駆け寄る。そして…

「この子に手出ししてみなさい!お母さんを失ったひとりぼっちのこの子に!

 私が絶対許さない!」

 クレビーもペディを守って立ちはだかった!

「あれ勇者の女だろ?」「何で人族が魔王様守ってんだ?」「あれビッチのジェラリーじゃん」「何か敵に回したらヤバそうだ」

 脳筋な割には危機感あるなあ。あ、だから生き残ったんだ。


 上空のササゲーさんは、大きくため息を吐いて、降りて来た。

「ごめんなさいね、ペディちゃん。大好き。優しい子。」

「もう戦わない?」「そうね…」

 慈母の様に魔王に微笑んだササゲーさんに、男達はほわぁ~っとなり…


 ギッ!と野郎共に殺意を放つと、「うわー!」と男共はひれ伏した!

「貴様等当分は美味い飯を食えると思うなよ?!」「ははー!」ササゲーさん凄いな!

「あの方は四天王より実力では高位なのよ?」「納得です」「そうなのか?レイブ」

「いえ~四天王とか言ってた奴はその、確かに無茶苦茶強かったんですが。

 俺が言うのも何ですが、底が薄いって言うか、只のチンピラって言うかそのお蔭で勝てたって言うか…

 でもササゲーさんは魔族や魔王を背負って立つに相応しい気迫を感じます」

「ニュールンベルグ裁判と東京裁判の違いか」「何ですそれ?」「ゴメン何でもない」


 母子の様に抱き合う二人に、クレビーが跪いた。

「ごめんなさい…ごめんなさい!あたし酷い事言った!私と同じ嫌な目に合わそうとした!

 あたしあいつらと同じよ!ごめんなさい!」

 ホーリーも、シルディーも、そしてレイブもクレビーの傍に行って、跪いた。

「俺達も同じだ。許せないかもしれないけど、どうか戦いを終わらせる力を貸して下さい!」

 ササゲーさんは黙ってペディを抱きしめていた。ペディはゆっくりと眠りに入って行った。


******


 ちょっと和んでいたら…地獄の底から悪魔の化身が蘇る!

 すかさずジェラリーが防音の壁で抱き合う二人を包んだ!


「おのれ!ヘナチョコ女共!」「いやお前がヘナチンだろ!」

「俺様がこの程度で逃げ帰ると思うか!見よ!我が魔竜軍団を!」

 なんかさっきまで誰もいなかった所に、赤い肌の娘が数人並んで、虚ろな目で笛を吹く!

 すると地面から吹き上がる炎!

 炎の中から現れたのは、真っ赤に焼けた鉄を纏った灼熱怪獣!


「あれは火山の底でも生きている強力で狂暴な古代の魔竜です!あの子達は催眠術で同じ音を合わせて操作しています!」

「ありがとうライブリー!流石怪獣博士だな!」

「え…嬉しい様な、ちょっと違う様な」「ありがとう!」抱きしめると「はあん」と赤くなる。可愛い。

「魔導士様!俺は黒騎士をやっつける!あの女の子達をお願いします!」

「駄目です!強力な怪獣過ぎて操る者がいなくなったらこの辺一体が破壊し尽くされます!」

「どうすれば!」

「やっつけるんだよ!ヘナチンを!」

 二人で、いや私達に続いてシルディーと妻達がダークナーに突っ込んだ!

「猪口才な!とおー!」敵は火炎弾を放った!その一発が私を包んだ!

 「あ」「上手いわね」妻達が突っ込むや否や私は(中略)魔界の暗がりを照らす様に光を放ち、イセカイマンがパースのついた拳を灼熱怪獣にブチ当てた!ちょっと熱い。

 灼熱怪獣はひっくり返り、のたうち回る!

「待っていたぞイセカイマン!お前の大切な街が焼き尽くされる様を見るがいい!アーミーマー!」

 ダークナーが呪文を叫ぶと、灼熱怪獣の足元に魔法陣が現れ、怪獣を消し去った!

「イセカイマン!」レイブが叫ぶがイセカイマンはゆっくり頷く。

 その手にレイブを乗せると、足元から光る魔石を放ち、次にベルトから、胸の魔石、腕の魔石から光を纏わせ、灼熱怪獣が襲うイセカイ温泉までテレポーテーションした!

 因みに光る魔石は無くても全く問題ないのだった!


 イセカイ温泉上空に突如光って現れた魔法陣、その中から現れた灼熱怪獣!このまま落下したら多くの人達が焼き潰されてしまう!

 しかしその直後にイセカイマンが光と共に現れ、灼熱怪獣にキックをかました!

 灼熱怪獣は温泉街の外、新たに作られた城壁の外に蹴り飛ばされた!

 レイブを降ろし、両の手を構え怪獣に立ち向かうイセカイマン!


「おー!イセカイマンだー!」「がんばれー!」「お?あんたもイセカイマンキ〇ガイですか?」「私もイセカイマンキ〇ガイで」温泉地が賑わった!

 もう怪獣プロレスは温泉地では娯楽になっていた。

「ビールは一人10杯までだぜー!」イコミャー!10杯飲んだら流石に翌日死ぬよ!


 石垣の上に白壁と本瓦を拭いて二層櫓を随所に立てた温泉外郭の外で、灼熱怪獣とイセカイマンが対峙した!

 高熱の火炎弾を街に向けて吐き出す怪獣、それを胴体正面にバリヤー状に光る壁を放ち弾くイセカイマン!オックスベリー炸裂高予算の映像だ!更に突き出す光線の槍!色彩が無い分飯〇定雄の世界を目指した攻撃に吹き飛ぶ灼熱怪獣!


 バク転で攻撃をイセカイ温泉から逸らし、反対側へ誘導する!その先はもう誰もいない(筈の)王都の廃墟!


******


 王都のかつての高級レストラン。ヒゲを生え散らかし、ハゲ散らかしたレゲェ…じゃない国王アシヒッパ4世。

「アイラブ王都か?ウェルカム怪獣か?酒はカミュでなけりゃ」と食事をあさっていたら、目の前に灼熱怪獣!

「デカイ顔して歩き回っていいってもんじゃ…」セリフ長ぇよ!「やっぱりこわいー!」新宿副都心から京都駅にワープした様な王様、建物ごと怪獣に踏みつぶされて一巻の終わり。


 点々と建物が残る地平線上を移動カメラが走る視点の先、戦うイセカイマンと灼熱怪獣!

 灼熱怪獣の放つ火の玉を全て怪獣に向けはじき返す、自らの火の弾を喰らって爆発する灼熱怪獣!

 更に両手を合わせて前に突き出し、怪獣に向かって振り下ろす!灼熱怪獣の周囲は零下に下がり、両手から青白い光線が放たれる。

 灼熱だった体表に罅が入り、そこへムーンサルトキック!

 着地し振り返ると!

 怪獣の全身がスパークし、大爆発!!

 宙を舞う灼熱怪獣目掛け止めを刺すレイブ!


 怪獣の熱気が王都に降り注ぐ。

「あったかいんだからぁ~」焼けた怪獣の破片で王様が暖を取っていた。生きてたんだ。


******


 戦いは終わった。イセカイマンはレイブを手の平に載せ、魔王城へ戻った。

 魔王の寝室では、ササゲーさんがペディちゃんを寝かしつけていた。部屋の外には心配していた妻達が控えていた。駆け寄るレイブに静かにする様合図する。

 私はちゃっかり彼らの下に戻る。 

「大丈夫だ。灼熱怪獣はイセカイマンが倒してくれた」レイブがササゲーさんにそう言うと、

「そう…ありがとう」と静かに返してくれた。


「この子は、戦うべき子じゃないの」ササゲーさんが話した。私達を信用してくれたのだろうか。

「親がいないのは、やはり戦いの所為か?」

「魔族の男たちはね、馬鹿ばっかなのよ。この子の親も、四天王とかいう馬鹿を目指して勝手にくたばってね」

「お母さんはどうなったの?まさか貴方が…」

「私はこの子とは何の縁も無いわ。この子のお母さんはこの子のために働いて、働き過ぎて死んだのよ」

「貴女の優しさの源は、何なんですか?一方で魔導士様の奥様達に死ぬかもしれない戦いを命じ、一方で涙を流す」

「それが魔族の、いえ人族も同じでしょ?組織の頭の使命よ。でもこの子や他の子供達は違うのよ」

 レイブは二の句が継げなくなった。

「あなたは勇者にしては甘いわね。優しいというよりも甘いわ。そこのオジサンより」

「私?」

「いえ、いい勝負かもね」ササゲーさんは私を見てちょっと笑った。美しい。だが…

 今回はこの辺にしておこう。


「話して頂いてありがとう。今日は帰りますが、また話ができますか?」

「必ず」

「それまでこの子を苦しめる事はしない。例え人族がピンチに落ちても、俺の魔力は使わない」レイブが言葉を添えた。

「ありがとう。甘くて、優しい人族達」

 その時、魔王が何かを呟いた。

「かあちゃん…これあげる…だいすき…」

 幸せな夢を見ているのだろうか。幸せな夢から覚めたら悲しい現実に向き合わなければならないのか。

 私達は魔王城を去った。


******


「レイブ君!」「はい?」「大好き!愛してる!」「お、俺もだ!」惚気?じゃなかった。

 賢者クレビーは真剣な顔で勇者レイブを見据えている。


「でも私やらなきゃならない事があるの。あの遺跡で昔の事を調べなきゃ!」

「それは私も同じ」とホーリー。「どうせあの子を守れないか調べにいくんでしょ?」

「それもあるけど、やっぱり戦いは終わらせなきゃ駄目!あんな風に泣く子を放って置いちゃ駄目!」

 クレビーの目は今までと違っていた。

「やっと賢者らしくなったねえ~。まあ私も一緒にあそこを調べるか」

「わたくしもこの国の貴族の娘として、愚かな戦いを人族同士で行わせない様に勤めます」

「俺はイセカイ温泉を守るよ。あの小さい魔王が苦しまない様になったら、またマホーキーで戦う」

「みんな立派だな。私も皆を手伝う」「アンタはイセカイ温泉の領主様でしょうが!」またしてもクレビーがマトモな突っ込み!

「え~?」「あの街の皆を守れるのはアンタと奥さん達じゃないの!」「「「そうよ!」」」妻達まで!

「解った。あの街だけじゃなく、みんなでこの戦いの謎を解き、この世の悲劇を少しでもなくそう!」


 母の無い子の夢路を後に、私達は新たな戦いを目指して更に歩みを進めた。

 魔族も人族も、多くの人が幸せになる日まで戦え私!戦えイセカイマン!


…では また来週…

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