16.欲に狂った人間様の心が産んだ蟲
勇者派遣を口実に愚王が横領した借金、それを廻って隣国の軍勢が迫る!
さらに謎の頭痛で魔王を痛めつけた事への報復と魔族の放った怪獣軍団が迫る!
極めつけはその魔王を頭痛攻めにした原因と思しき、勇者が狩るマドーキー参戦!
そこには怪獣より恐ろしい、人と魔族の業が悲劇の炎を燃え上がらせていた!
「いだいよ!いだいー!だすげで!いぎゃああー!」
「ペディちゃん!何であなたがこんな辛い目に!」
「イセカイマン、助太刀するぞ!」
「今だ!この国を全員エバリ公の奴隷とするのだ!縄を持て!あの堀を越え城壁を落とすのだ!」
「公爵は欲の皮を被った魔族以下!人間にとっては悪魔だ!攻撃用意!」
この場に居合わせた者達が四角、五角に争っていた!
******
イセカイマンはマドーキーを駆る勇者に語った!テレパシーだ。
『勇者レイブよぶよぶよぶよ…止まるのだのだのだ…魔力を抑えるのだのだのだ…』エコーを効かせイセカイマンが語る。
「何故だイセカイマン!このままではみんなが危険だ!怪獣を倒さなければ!」
『今は待つのだのだのだ…』
イセカイマンは怪獣の攻撃を右に左に捌きつつ、空飛ぶ怪獣の攻撃には避けるだけであった。
『帰れえれえれ!帰るのだ勇者うしゃうしゃうしゃ!その魔力をただちに止めるのだのだのだ!』
「嫌です!俺も戦う!」マドーキーから発せられた光線が虫怪獣を貫き、爆発四散させた!
「か!か!は!あがが…」魔王城では魔王が息も出来ずに痙攣していた。これは駄目だ、このままではこの少女が死んでしまう!
『ササゲー様ー!我等の結界では、もう、魔王様が!ペディちゃんが!ああ!うあー!』結界を張っていた娘達も倒れていく。
「怪獣は消えろー!俺は、皆を守るんだー!」レイブはマドーキーで古代怪獣を攻撃し続ける!
「ジュワっ!」イセカイマンは飛ぶマドーキーを追って空中で掴んだ!そして地面に降ろした!
『攻撃を止めるのだのだのだ!魔力を抑えるのだのだのだ!今は私を信じろじろじろ!』
「イセカイマン!…また俺なんかやっちゃいましたか?」やっちゃったよ。まあ今度ばかりは無理も無いけど。
マドーキーを降ろした後ろには古代怪獣二匹と飛竜…しかし飛竜がおかしい。魔王城の様子を聞いて動揺しているのだ。
『ササゲーゲーゲーゲー』なんか宴会の翌朝みたいで嫌だな。飛竜の上のササゲーさんが驚愕の眼差しでこっちを見た。
『聞く耳があるならば聞けきけきけ…魔王城へ帰り魔王ペディを介抱するのだのだのだ…』
「魔王様を…貴様は敵なのか味方なのか!」
『あなたと同じだじだじだ…。弱き物、人を愛する者の味方でありたいたいたい…』
ササゲーさんは考え、その後何かを詠唱し、怪獣も飛竜も消えた。
イセカイマンは、マホーキーを抱え、遺跡目指して空高く飛んで消えた。
「しまった!あっちの戦いが終わってしまった!引け!引け!」
まだ堀の底にすら辿り着いてなかったエバリ軍が引き上げて行った。
遺跡の中、マホーキーから降りた勇者は悩んでいた。
「俺が貴方の言葉を聞かなかったから、何か悪い事を起こしてしまってるんだろうか?」
******
カナリマシ王国の王城では、国王アッタマーイ3世を前にエバリ公爵が報告書を読み上げていた。
どこからどう見てもガマガエルみたいな奴である。
「キレモン伯爵は魔族に味方しております!イセカイマンとかいう鎧の巨人も然り!
私は公爵として討伐を奏上申し上げます!ツッカエーネ王国は魔族の手に堕ちた故全土を占領し、住民共は奴隷として接収すべしと!派遣軍の増強を何卒!」
国王は頭が痛かった。エバリ公爵の報告はいくつか不都合な事実を隠していたからだ。
彼等より先に密かに派遣していた情報部隊が、報告書で隠されていた「突如現れた城壁、深淵にして長大な空堀」「怪獣を撃破したイセカイマン、謎の飛行物体」という重要な出来事をしっかり知らせていたからだ。
「エバリの言う通り侵略したら国軍は相当な被害を負う、それすらもエバリの狙いなのか?」国王は悩んだ。
と、ドスン!と王城が揺れた。一同は外を見て仰天した!そこにはイセカイマンが着地していた。その手にキレモン伯爵以下使節団数人を乗せて。そしてイセカイマンはエバリ公爵を睨んだ!
「ひ!ひいー!誰かあいつを撃て!撃ち滅ぼせー!」無論、誰も動かない。
キレモン伯爵が王の間に降り立ち、王に礼を捧げる。
「カナリマシ王国全権大使キレモン伯爵、只今ツッカエーネ王国との和議を結び戻りました。まだ、全権大使を名乗っても宜しいのでしょうか?」
恨みが込められたキレモン伯爵の視線を受け、国王はエバリ公爵に言い放った。
「エバリ、貴公はツッカエーネとは決裂したと称し領兵派遣の許諾を得た。あれは偽りであったか?」
「こ、こ奴は敵に洗脳されております!のこのこと手ぶらで帰ったのが何よりの証拠」
「土産ならこちらに」キレモン伯爵の合図と共にイセカイマンはその場にエバリ公が強奪した品を馬車や護衛のエバリ領兵もろとも瞬間移動させた。突然場所が変わって一行は目を白黒させている。
「そこの騎士!この品をどこへ運ぶか?」エバリ公の紋章をあしらったマントを付けた騎士が答えた。
「は!エバリ公爵の下へ…え?ここは?」
「陛下、これはツッカエーネ国王が逃亡した後、王都難民を統べていた魔導士テンポ殿及び同国辺境伯デファンス殿より陛下へと託された物。何故この男の私物の様に扱われているのでしょうか?
「毒見である!危険物であればそれをそのまま…」
「王都郊外で危険物改めは行われるが?それに先ほど私に『手ぶら』と言ったのは誰だ!
自領の軍に命じ、ツッカエーネ王国に宣戦布告し、住民を奴隷とすると宣言したのは誰だ!」
「貴様!出鱈目を申すな!伯爵の分際で図が高い!」
「両者、止めよ!」王は叫んだ。
虚言、横領、独断専行。明らかにガマガエルはアウトだ。しかし堂々とアウトを行ってなお罰せられないだけの力がこのガマガエルにはある。
「両者へは、追って沙汰を言い渡す」
「国王陛下!私は沙汰等受ける筋合いはありません」「何を?」
「私はこの男の軍により、全権大使でも何物でもないと宣告を受けております!最早この国の貴族ではありませぬ。魔導士テンポ殿と共に、罪なき人々を攫おうとする鬼畜外道を地獄へ追い落とすだけの男となり果てました!」キレモンの目は怒りに燃えていた!
『待てまてまて…!早まるなるなるな…』
イセカイマンの声が響いた。
『勇気ある者は己の場所で戦えかえかえ…』「しかし!」
イセカイマンは首を振り、空へ飛び立った!
国王もキレモンも空を仰いだ。
「あの…イセカイマンという者は、何者なのだ?」
「国に属さず、人も魔族も分けることなく、弱き者、戦う意思の無い者を悪意から守る者です」
「それが本当であれば、人族にとっても魔族にとっても、恐るべき敵となるな…」
イセカイマンを「敵」と評した国王に対し、キレモン伯爵は彼が冷徹な現実主義者であると改めて感じた。
「エバリ公爵!キレモン伯爵!双方改めて報告を聞く。偽証は命取りと思え!
後、あの土産は確かに受け取ったぞ」
一転、キレモンは呆れた顔になった。ガマガエルの方は苦虫を噛んだ様に引きつっていた。
******
カナリマシ王国は国内情勢によっては敵となり得るが、一応の衝突は回避された。
イセカイマンは空に消えた。私はイセカイ温泉へ戻った。
「如何でしたか?」フラーレンが聞いて来た。
「無駄な戦いは避けられたが問題が起きた。君達の新しい魔王様が死にそうだったんだ」
「「「魔王様が?!」」」
「遺跡に行こう。君達魔族は皆来てくれ。あ~すみませんメイドさん達、後片付けお願いします」元王城メイドさん達に頼んだ。
「「「は~い」」」元気な返事が返って来た。
******
遺跡の中、作戦指令室で4人は項垂れていた。
「何故イセカイマンは戦いを止めたんだ!」
「この大きな窓から見てたけど、イセカイマンは飛行怪獣と何か話していたみたいよ。そしたら奴等は去ったわ」
「それについては私から話そう」と空間移動で私達が来た。
かつては魔王の部下であった妻達、決死隊娘達も心して聞いた。
「レイブ、君がこのマドーキーを動かしたり、この基地のバリヤーを作動させると、魔王城にいる魔王に激痛が走るんだ」魔族組が驚いた。
「何よ!いい事じゃないの?!」馬鹿垂れ。だったら皆深刻な顔して無いっつーの!
「何が良い事よ!魔王様って言ったってまだ10歳の子供なのよ!親もいない女の子なの!」フラーレンが怒る。
「「「10歳?」」」レイブ達は驚いた。
「そうなんだ。君が前魔王を倒した後、何故か魔王に付与される強大な魔力が、両親のいない10歳の魔族の少女に付与され、新魔王となった」
「何でアンタが知ってんのよ!」「見て来た」「あ…時空魔法か」「便利だわ~」レイブとホーリーは解ってくれたが「え?え?」クレビーェ…コイツ何で賢者なんだ?
「今まで魔王が倒れると勇者も威力を持った武器を失い、100年は魔王と勇者の戦いは無かった。
しかし今新たな魔王がすぐに現れ、勇者が新たな武器を振るい、新魔王が激痛を受ける事となった。
推測で検証が要るが…本来いなくなる筈の勇者の魔力が、新魔王に予期せぬ悪影響を与えているのかも知れない」
「じゃあ勇者がこの武器を使い続けたら、魔王様はどうなるの?!」
「今回かなり死にそうだった。頭が破壊されて死んでしまうかもしれない」
「そんな!」「魔王様可哀想!」妻達や決死隊の娘が同情を寄せる。
「やっぱりいい事じゃない!新魔王が死ねば戦いは終りよ?平和になるのよ?」
「「そんな訳無いだろう!!」」
私は、いや勇者も叫んだ。
一同は言葉を止めた。
「前魔王が倒れ、新魔王が現れた。あの新魔王が最後の一人とは思えない。
もし人族と魔族の戦争が続けて行われるとしたら、魔王の同類が現れてくるかも知れない」私に志〇喬が降りて来た!
「それだけじゃない」レイブが続いた。
「相手は強力な魔力を持つとはいえ、その正体は年端も行かない少女なんだろ?
何もわからず魔王にされ、何もわからず苦しめられて死ぬ。それが良い事なのか?」
「そんなの仕方無いじゃない!」
「俺は人々を守るために戦ってるんだ。もし魔王の正体が只の小さな女の子だったら…一体どうすればいいんだ?!」
「話をするしかないわね」とフラーレン。
「休戦協定を結べば魔王様は苦しまずに済む。でもそれを宰相様が受け入れるかどうか」とライブリー。
「宰相様は魔王様にベッタベタ、まるで親子みたいよ?結構上手くいくかもね?」
「詳しいなジェラリー」「一部では噂になってたわ」「そういうのは耳聡いのね」「生き残るための知恵よ~」
「魔導士殿!俺は魔王と会って話をしたい。貴方と結婚したこの人達みたいに、俺達が仲良く争わずに生きて行けないか、話したいんだ!」
妻となったフラーレン達が「キャッ!」と照れた。可愛い。
「その通りだなレイブ。魔王ペディと宰相ササゲーに面会を申し込もう。その前に、厄介な奴を追い払おうか」
「え?」
その時、ブザーが鳴りモニターに侵入者が映し出された!
「何?誰?」「黒い鎧ねえ」黒い鎧を纏い、馬?の様な魔物を駆って遺跡に迫る謎の黒騎士!
「魔竜使いじゃない。多分単身か精々オークやオーガを操れる程度の魔力」冷静に分析するライブリー。
「ホーリー、弱めにバリヤーだ!」「わかった!」魔導パネルにホーリーが手を翳すとバリヤーが出現する。
「何よ命令しないでよ!」「命令されてないテメェが何で文句言ってんだ役立たず!」「ムッキー!」
なお魔王城ではロリ魔王様はササゲーさんになでなでされつつおやすみ中だった。この程度なら大丈夫か。
黒騎士はバリヤーに気付き、剣を翳し魔力を撃ちこんだ!しかしバリヤーはビクともしない!
『固き守りに籠る臆病な勇者共!武勇の気概あらば我黒騎士と勝負せよ!』
「あ、コイツバカだ」
「まって、何か策があるのかも」
『閉じこもるのであれば輪が魔力でこの城を粉砕してくれよう』
「まずいなあ。バリヤーの強度を上げれば…」
『知っているぞ!魔力で攻めれば貴様等は守りを強くする。そうなればあのペディとかいう小娘の頭も弾けてくたばり果てよう!我が魔力を喰らうが良い!』
「卑怯な!」「何で知ってんの?」「あいつも魔族かな?」
「多分、四天王の部下だった…え~と誰だったか~卑怯な奴」ライブリーが頭を抱えて思い出そうとしている。
「アレ、ダークナー様…もう様いらないや、ダークナーじゃない?」またジェラリー。
「なんか俺様な野郎で、四天王に媚び諂って女の子達に威張り散らしてたサイテーな男よ」「流石情報通ね~」妻達が感心してジェラリーを見直す。
「そうよ。ヘナチンの癖に」
「ヘナチンなんだ…」妻達が見直すのを見直した。
「何ですね、その…魔族も一枚岩じゃないんですね」レイブが気まずそうに割って入る。
「そうよぉ。だから魔王様が死んで戦いが終り、そんな単純な話じゃないのよ、そっちもこっちも」
「そっちも?」
「隣の国があんた達の国のみんなを奴隷にするって息巻いてたわよ~?」
「あの使節殿が?」
「いいえ、カナリマシ王国の公爵家が横から割り込んで来たのですわ。キレモン様は私達の味方をして頂いています」「はあ…そうなんだ」シルディーの説明に項垂れるレイブ。
「わかったかしら?坊や。気張んなさいよ?」フラーレンがからかう様に言うとレイブは少し照れて元気に答えた。「はい!」「あらいい顔ね!」
外ではまだ何か黒騎士とかが叫んでいる。
「じゃあちょっくら片づけて来るか」「俺も行きます!」「わたくしも!」「あたしもよ!」「え~、私どうしよう」「ホーリーはここを守って。最悪の場合、マドーキーで援護してくれ」
妻達が俯いて「仕方無いわね…出番がない様にご主人様!頑張ってね!」「ああ!」
******
転移魔法で外へ。馬上の敵…と思ったら金属製の魔道具、ゴーレムか何かの上に跨った黒騎士ダークナー。
「待ちかねたぞ臆病者!我が武勇に臆したな?!」
「か弱き少女を盾に勝負を挑み、武勇を誇る。人、それを道化と呼ぶ!」
「愚弄する気か!貴様一体何…」「空間衝撃チェース!」「げぼおっ!」我が空間魔法を喰らって落馬する黒騎士!
「名を訊ねる最中に攻撃するとは何と外道な!貴様一体何…」「隙ありー!」「ぶべら!」勇者が切りつける!
魔力を失っても魔王討伐で磨いた剣の腕は英雄の名に恥じない!
右に左に黒騎士に重い剣を叩きつけ、反撃を往なす!派手に動く黒騎士に対し最小限の動きで攻撃を躱すレイブ!
「レイブー!かっちょいー!カッコマーン!」グ〇ラか?ファイティングがつく前のブギウギバンドか?クレビーの気の抜ける応援に私は心の中でツッ込んだ!
黒騎士の大技…の隙を突いて下段から敵の剣を弾き飛ばすレイブ!「勝負あった!」
「何を!魔法攻撃の出来ぬ小童など!我が炎の巨弾を喰らえ!」馬?ゴーレム?に飛び乗り、正面に魔力を集中させるダークナー!
「レイブ!」「お任せください!」飛来する凶悪な炎を…レイブは弾いた!
炎の玉は馬ゴーレムをダークナーごと弾き飛ばし、爆発四散した。
改めて剣をダークナーに向けるレイブ!
するとダークナーは立ち上がる。どアップの奴の後方では首が地面に埋まった馬がギッタコ、ゲッタコ足を動かしてる。
「勇者。今日の戦いはドローだ!また会おう!」サ〇ンデモンかよ!
「どう見てもドローじゃねーだろ!ボロ負けだろが!」突っ込み疲れた私はちょっと退場し(中略)イセカイマン登場!但し等身大!ダークナーにキック一閃!
「うごあ~!」
たまたま遺跡の近くにあった斜面をひたすら転がり落ちるダークナー!
崖の上のイセカイマン、とりあえず右手を突き上げポーズをとる!そして飛び去る!
******
一部始終を見てた女性陣が。FXで全財産を溶かした様な顔をして見てた。
「なんだったんだアレ?」レイブがジェラリーに聞くと「だからヘナチンよ」とだけ答え、みんなゾロゾロ遺跡に戻った。私も後を追った。
…では また明後日…
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