8.邪な聖女の心に操られ
月明りの下、突進して来る俊足怪獣!それを受け止めるイセカイマン!
腹にキックし怯んだところをヘッドロックして下手投げ!
遺跡に激突して崩れる石柱群!「きゃー!」カワイイ声で叫ぶ魔娘!ただ流石俊足怪獣、すぐに飛び起き体制を整える!
再度の突進!構えるイセカイマン!しかし怪獣はクルっと反転、直後に長い尾が飛んで来る!これをムーンサルトで躱す!
すると尻尾で大地を蹴って両足でキックを繰り出す!
両腕をクロスしキックに耐えた!
俊足怪獣は更にキックを連発!ゴ〇ザウルスかっ?!
イセカイマンはキックに合わせジャンプ、両足を俊足怪獣の足の裏と突き合わせて空中高くジャンプ!!ス〇イラブハリケーン!
その勢いで空中一回転!更に両手から空間圧縮をお見舞いしつつナンチャッテ光線を発射&弾着!俊足怪獣がブっ倒れた!
着地して再度身構えると…俊足怪獣は逃げたー!
「正面から戦っても勝ち目は無さそうだで!今日のところは許してあげるがねー!」
何か情けない捨て台詞を叫びつつ敵は去った。
******
転移魔法陣で王都に戻った5人。
「すまない魔導士殿!彼女を助けて貰って…」「こんな裏切り者放っとけば」
「それは本気か?!お前も潰れたまま見殺しにされていればよかったのか!!」ちょっと腹に据えかねるな。マジ激怒でクレビーを睨んだ。
「あんたに私達の何が解るっての?こいつはレイブを殺そうとしたのよ!」向こうもマジ激怒か。
う~ん。どっちもどっちっぽいしコイツ等に任すか。にしてもこの女口が悪い。最悪だ。
「感謝!」跪くシルディーさん。やっぱマトモなのこの人だけだ。
「一体何で別の勇者を召喚しようなどとしたのか、コイツの本音を聞き出さなければ先に進めまい。
恐らくコイツは魔王と勇者の関係について何か掴んだんだ。解ったら教えてくれ。それとレイブ、君は異世界人なのか?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」「ねえ?」
「聞いてないよ~!!」銅像が建った歴史的コメディアンの魂が宿った!コイツは全く!
******
例によって酒場…無人だけど、そこから勝手に酒を汲みだして勇者達は飲み始めた。
私は慌てて帳簿を書いてお代を誰もいない勝手に置いた。「お前らちゃんとお代払えよな!」
「俺はこことは違う世界、地球って星にいたんだ」地球ねえ。
「天の川銀河系オリオン腕太陽系第三惑星のか?」
「え?単に地球ですけど?」だからどこの地球だよ?
「月はいくつあった?」「月って一つじゃないんですか?」コイツ…フォボスとディモスとか、ソ〇ムとゴ〇ラとか、ガ〇ラスとイ〇カンダル…あれは惑星だがそんなのも知らないのか。
「他の惑星は?!」「星とか理科は苦手でしたんで」「水金地火木土天海冥とか聞いたことないか」「念仏ですか?」「太陽系の惑星の並びだよ!」「すみません、全然…」コイツの世界ではゴ〇ドシグマは放送されてなかったんだな。
「何話してんのかしら?」「占星術?」「天文学だよ。コイツのいた世界と私の世界が同じかどうか確かめているんだ」
「アンタ星の事なんて解るの?」
「私の社会では子供でも宇宙がどうやって生まれて、どんな姿してるか大抵知ってるよ」
「えー!アンタ別の星から来たの?」「そうなんだが、この星空には無いかも知れない。別の星空かもしれない」
「…不思議」「どうやって星からここまで来られるのかしら?」
「う~ん。異世界って言うのは別の星というより、全く違う宇宙と言った方がいいかも知れない」この子達にマルチバースとか言っても解るかな?
「この宇宙は巨大な袋の中にある様なものだ。この大地も巨大な袋の中に浮かぶ無数の球体の一つで、太陽の周りをまわっている。この宇宙にはそんな太陽を中心とする星の集まりが無数に存在する。解るかな?」
「え~!太陽って大地の果てから出てきて反対側に沈むんじゃないの?」「そっからかあ~!オイ異世界人!お前も何か言え!」「だから俺理科苦手で…」「常識だろうが!」「興味津々!」
それから多元宇宙の話をして、異世界の概念を説明した。どうやらレイブの世界と私の世界は違うみたいだ。
「この別の風船の中の地球と、この地球を魔力で無理やり繋げて、強い力を持つ勇者を呼び出すのが勇者召喚だ」
「勇者召喚がそんな魔法だなんて、聞いた事がないわ」
「やっぱりそうか。君はレイブ召喚に立ち会ったのか?」
「いいえ。教会と国王から呼ばれて、初めて会ったの。運命の出会いだったわぁ~!レイブったらキョトンとしちゃって」
「惚気はいいから」「チッ!」「私も同様」
「そうか。この魔法は秘匿されていたのかも知れない。あの筋肉マニアのおばさんがいればなあ」
「今頃オーガ相手に宜しくやってんじゃない?あ~キモ」キモいけど話聞かないとなあ。ホーリーの話と整合性を取ろう。
「魔導士殿も異世界人なら、帰りたいと願うのか?」
「私はもう何十か何百もの世界を渡り歩いて、何千年も過ぎている。それに元居た世界の家族も縁者も皆天寿を全うした。今更帰ろうとは願わないよ。君は?」
「俺は…みんなと暮らすよ。魔導士様と似た様なものです。俺は…」
「レイブ殿、無理に話す事はない!魔導士殿も、解って欲しい」おっとまたシルディーさんがマトモに話した。
「シルディーさんは仲間思いだな。いいよ。君は君と仲間の為に戦うべきだ」
「じゃあ貴方は?」
「私も同じだよ。君とね。仲間が心配してるんで失礼する」
私は勇者パーティーと別れた。
ちゃんと飲んだ分金払えよ?
******
「あらあら~デブは死ね!」
魔物の洞窟の奥、玉座…みたいなカンジにデカいオーガが胡坐をかいて鎮座し、その上に女大神官が鎮座御座しましていた。異様に艶々してて上気してる。なんか若返ってない?さぞかし満足した事だろう。
しかしイキナリ死ねとはヒデェ。
周りはオーガがこれまた上気しつつ侍っていた。すっかりオーガの女王様になってしまった様だ。幸せそうで何よりだ。
「そもそもあんた聖女に何を吹き込んだんだ?」
「何かね、勇者の仲間に強力な魔法とか王国の闇とかを教えて、仲違いをさせてしまえーって言われたよーな気がして、じゃあもう一人勇者呼ばせたらってやり方教えただけよ?」
「軽いなあ!なんか古代から伝わる禁呪だとか、厖大な魔力使うから100年に一度だけとか、そういうスペシャルな何か無いの?」
「別にい?魔王が出たーって言われて伝承の通りに呪文となえれば魔導士100人位で召喚できるのよ?
それともアレそんなに危険なもの?え?私達捕まって殺されちゃうの?」
「最悪はね」
「いやよー!折角愛の理想郷をみつけたのにい!お願いデブな人!私達を助けてえ!」「腹は出てるが失礼な!さっきデブは死ねとか言ったよね?」
「私は掴まっちゃってもこの子達は悪くないのよー!」「あら意外と仲間思いだな」
「助けてー!助けてくれたら私の体を」「それは結構。まあ仲間思い…筋肉愛?に免じて弁護は引き受けるよ」
「あなたいい人ね~!ちょっと見直したわ!あら意外といい筋肉」「オーガ汁まみれでひっつくなー!」
******
色々疲れた。
とりあえず温泉で色々流して休憩。
アルカリ単純泉?これは明日朝グッタリ来る感じの、疲れが取れる温泉効果抜群の良い泉質だ。ちょっと日本酒を頂こう。
「本日のご報告ですー」とフラーレンが入って来た。裸で。眼福々々。
「有力な商会達が王都の代わりにこの地に定期的に市を立て、比較的安価で食料や生活必需品を販売する事になりました。
避難民も当面の持ち合わせで生活出来そうです」とクールにライブリーが眼鏡を湯気で曇らせつつ報告する。
「お疲れ様。後近いよ」「失礼しました見えませんので」「で何でもっと近づくの?あててんの?」「このままお召し上がりになっても」「積極的だね!」
ずいっとライブリーを押し下げて今度はフラーレンが「水廻りも王都以上に清潔ですし私も清潔です」と。
「君もあててんのか!後でね!今はちょっと色々あったから休ませて!」
「あの人なんであんなモテてんの?」「そりゃあ命の恩人だからよ」「そりゃそうだけど」後決死隊の娘達も何故かやって来た。
「魔界の男なんて私達女を使い捨てじゃないの」「あの人私の事怪我しない様に避けてくれたのよ」
「私も勇者の仲間に真っ二つにされそうな所を助けてもらったー」「優しいんだー」「いいなあ」
周囲で私の評価がインフレしてる。デフレが来ない事を願おう。
「で、エンヴォー。勇者召喚について聞きたい事がある」「へ?勇者召喚?勇者ってどっかから召喚されるものなの?」
「え゛?知らないの?」「知るわけないでしょう?人間の魔術なんて」「そうなんだ」この線は無いか。
「あのね。私達魔族にとって高位の魔法は魔王様だけのものなのよ。あんな神殿がホイホイある人族の方がオカシイのよ」
「成程、魔族側の魔法に関する知識は魔王独占。それって組織的には弱いよな」「それだけ魔王様は強いのよ」「今は弱いぞ?」
魔族娘達は考え込んだ。さっきまでのお色気ムードは消し飛んだ。
その時!遥か遠くで爆発音が聞こえた!
「あ~、あれ、人族の王都じゃないかしら?」フラーレンが指さした先は、湯煙の向こう遥か彼方の王都、あの神殿のあたりだ。
「また騒動か。ちょっと行って来るかあ」「「「行ってらっしゃーい!」」」いい娘達だ!
******
「この辺だわ!この辺に魔王様と同じ波動の魔力があるんだわ!これを抑えりゃあ!」
俊足怪獣を走らせて、人のいない王都、神殿周辺を銀髪ショートの魔族娘が何かを探していた。
その目の前で魔石の光が輝いた!「うおまぶし!」巨大化エフェクトの中!イセカイマン登場!
「また邪魔しに来たな?でら巨大な鎧!私の邪魔してかん!」
私は銀髪ショート娘に話した。エコーで。
「ここは王都の神殿だしんでんだでんだ…。そんな敵陣でじんでじんで…お前は魔王の波動を探しているのかいるのかのか?」
「そうよ!人族と魔族で同じ魔力の波動があるなんて見つけたら、いっぴゃー報酬がもりゃーるわ!それを元手に大商い始めてやりゃあす!」
「そんな重要な情報掴んだらんだらだら、お前は消されるかも知れないしれないないない…。
それにお前はおまえはえはえは…その情報源こないだぶっ潰しただろうだろうろう…」
「にゃあ~~っ!そうだった~!ぐぬぬ~行け!今度こそあいつをやっつけやあ!」逆恨みか!
突進する俊足怪獣の頭をキャッチ!ジリジリと押されるイセカイマン!
神殿周辺、手前に小さい建物のミニチュア置いてジリジリ神殿に近づく両者を地平目線の移動カメラがパンして捕らえる!
イセカイマン、体を逸らし手刀を魔石でフラッシュさせチョップ!
もんどりうった俊足怪獣が神殿に突っ込む!大破壊!崩れ去る神殿!
「ぎにゃ~っ!飯のタネがなくなったがね~!」俊足怪獣から吹き飛ばされた銀髪ショート魔娘、そんな事言ってる場合か?
「ふにゃっ?」銀髪魔娘がキャッチされた。駆け付けたフラーレン達が受け止めてくれた。「手間かかる奴ね!」ナイスアシスト!
主を失った俊足怪獣はひたすら突進して来る、それを華麗に空中回転で躱すイセカイマン!
更に反転し迫る怪獣を前に仁王立ち、眼前に四角い板を描く様なポーズを取り、光る魔石を天辺から滝の様に降らせる。
光の滝に激突して弾き飛ばされる俊足怪獣!光の滝の裏側に空間魔法で見えない壁を立てたのだ!アクリル板やガラス板だと割れちゃうからね!
銀髪魔娘を地上に降ろしたフラーレン達。ライブリーが胸の谷間から笛を取り出し、吹いた。
大人しくなる俊足怪獣。
イセカイマンは怪獣を持ち上げ、「シュワッ!」と空に運び去った。
******
崩壊した神殿の大広間の、更に奥の部屋。
「この辺が勇者召喚の間か」「確かに魔王様の魔力を感じるわね」「これは…魔法陣!」
「銀髪の君、君が感じた魔王の波動とはこれか?」「そーだがね。もうお金にならなんけどね」
「いえ、この魔法陣、魔族の古代文字で書かれているわ?」「人族の神殿に何で魔族の文字が?」
「私には普通に人族の文字に見える。どこかに認識操作の呪文は書かれていないか?」
「認識操作?」「見る者によって見え方を変える、とかそういう類のカンジの物だ」
「ん~、ありました!」「それ一文字消してみよう」魔法陣の一部を削り取ると…
「読めなくなりました!!」
「やはり。あの遺跡の魔法陣も、この魔法陣も、今の人族の物でも魔族の物でもなかった。別の誰かが作った物を偽装して使わせていた可能性が出て来たな」
一同が得体の知れない恐怖に襲われた。
「勇者召喚と魔王降臨に何らかの関係があるとすると、両者の根底を揺るがす大事ね…」ライブリーが懸念を漏らす。
「え~やっぱ私殺されてまうん?許いて許いて~!」銀髪魔娘が抱き着いて来た。ナイス感触。無言で引きはがすフラーレン、間に入るジェラリー。
「まあ放って置く訳に行かない。それに何か商売やりたいんだろ?私達の所で働いてもらおうか」
「「「ハァやっぱり…」」」溜息を吐くフラーレン達。「ご主人様らしいです」笑顔のライブリー。
「私イコミャー言やーす!商売がんばりゃーす!」
元気は良さそうだ。
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「いりゃあせー!靴は脱いでちょーせんかー!」看板娘が一人増えた。
「この温泉地は2万人は避難して来とるで、どえりゃー市が建てられる思やーすがねー!」
「風呂に入った後の需要があるせいか、お酒も売れてとりゃーす!量にして1日…」
「商隊の護衛をやって稼ぎてゃーって人もぎょうさんおるがねー!給料の相場は…」
「あの娘商人相手に早速商売始めてるわね」半分あきれつつ、半分安心したフラーレン。
「笑顔で話を持ち掛ける分、話しやすいのも武器だがね」「移ってますよ訛り」「え?はは!」温泉地に笑顔の花が咲いた。
******
色々崩壊している王都をやたら豪華な馬車が進む。王家の紋章が着いた馬車だ。
「離宮も一番豪華な公爵邸もぶっ壊されてしまった今!王たる私に相応しいのは神殿だ!私が神殿の主、神として住むのだあ!」
馬車の列が止まった。
「国王陛下!神殿に到着です」
「よしよしこの場こそ私にガビーン!」
怪獣との戦場は荒野であった。
「今夜も野宿です」冷たく言い放つ宰相。
そしてドジャーっと雨が降って来たのであった。
******
そして王都の宿では天井が抜けた元酒場で、五分刈りにされた聖女が首から看板をブラ下げた状態で吊るされていた。
「許してよ~」雨曝しで泣いてるホーリー。まあいい薬なのかな?
看板には「裏切り者!ハラグロ!泥棒猫!勇者に近づくな!byクレビー」と書かれていた。
ナチス追放後のフランスの売春婦みたいでえげつないなあ。
「へぶしっ!」低体温症は死ぬから程々で許してやってくれ。
******
雨雲に覆われた王都を見下ろす温泉地。
難民キャンプで位置が開かれ、人々が食料を買って人心地ついていた。それを売りさばくのはイコミャー。
酒も売ってご満悦だ。飲んでる人達もご満悦だ。その家族はジト目だが。
「一人一杯までだぜ!」おお、良心的な商売だ。家族達は安心して「私もー!」と注文する。
中には市場から安く大量に仕入れて仮設住宅で小売りを始める人まで出始めた。元々小売り商人だったんだろう。
「魔族の姉ちゃん商売上手だなあ!」商人達もイコミャー率いる魔族娘の客捌きに感心している。
誰もが笑顔でいる。
人族と魔族の垣根を超えるこの笑顔を守るため、戦え自分!戦え、イセカイマン!
…では また明後日…
(掲載頻度を週2回から週3回に変更します)
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