7.黄昏迫る温泉の ホテルは大繁盛

 今や機能を停止したツッカエーネ王国の王都。

 その郊外の丘に…


「空間掘削チェースっ!」まず川から水を引きます。途中に浄水施設も作ります。

 さらに下水と汚水処理場を作ります。ここ定期的に浚渫が必要。

「重力圧縮チェースっ!」道と敷地を作ります。王都は滅んでも地方の有力貴族との往来、商業拠点を確保しないと国が消えます。

「チェス!チェス!チェースット!」心は薩摩隼人。ひたすら街路と建物の区画を地ならしし、巨石を砕いて礎石をドスドスと地面に叩き落します。

「私達の『宿』を立てるぞ!後は難民用の仮設住宅か」

「建てるのはご主人様だけですよねぇ~」「そうだった!」


 日本から来た異世界転移者十八番、和風建築をドスドスと建てる!土足厳禁!畳敷き!

 明治以降の数寄屋建築で桟瓦葺きの軽やかな建物が完成。ブ〇ーノ・タウト絶賛!更に!

「空間掘削チェースっ!」中庭に広大な穴を穿ち、その一隅に細く深い穴を明けると…

 ドバーっと出て来た温泉!もう秋田油田沈没も気にせず大喜びなフ〇ンツ・グルーベルみたいに「ヒャッハー!」と大喜び。

「あったかぁい!」「さっきまでいたキャンプ地と同じ温泉ね?」

「この温泉で…まさか人族を呼んで、私達が彼らに宿を提供する?」

「正解だライブリー。先ずは人を集めよう」「じゃああの娘達も」「従業員にする」

「「「えー?」」」不満そうな決死隊の娘達。

「待て皆!一度は死を覚悟した私達だ。人族から金を得て生活するのだ。ここはご主人様に従おう」隊長らしくエンヴィーが指揮った。頼もしいね。

「「「は~い」」」従順だな。

「よ~し、この温泉宿を5~6棟、温泉だけの建物を20件くらい建てるかぁ。その前に公衆トイレか…」やっぱり面倒だなあ。


 かくて異世界定番の和風温泉宿が出来た。そして。


******


 王都からとりあえず逃げ出したものの、行く宛てのない人々が難民と化した。その数ン万。

「あの丘の上に、水場があるらしいぞ?」「魔族がいるらしいが大丈夫か?」「ここで腐って死ぬよりマシだ、俺は見て来るぜ!」

 そんな感じで万単位の難民が水場を求めて丘を登って来た。


 だがそこには広く水を湛えた堀と、石の壁が巡っていた。

 私は故郷の地球、日本の城を模して、キャンプ地たる温泉街周辺を覆い、外敵~怪獣や魔族ではなく、皮肉な事に貴族や盗賊等の人族~から守る壁を築いた。


「保護を求める者はー!門の前に整列せよー!列を乱したものは敵と看做す!」

 城門の前で戦士シルディーが声を張り上げた。実によく通る声だ。

「「「おおー!戦士様ー!!!」」」

 勇者パーティーだけあって知名度も影響力も抜群だ!

「水も、魔物を遮って安心して眠れる場所もある!湯を浴びて寛げる場も作った!列を守れ!子供や怪我人を優先しろ!」

 シルディーさん、ちゃんと喋れるんだ。更には城門を通過する子供達に

「がんばったね。今日はゆっくり休んでね。私が守るよ!」

 なんてサービスまで!男の子達や周りで聞いていた野郎共が顔を真っ赤にしている!

 やったねシルディー、ファンがふえたよ!


 で、湯を浴びる事ができると聞いて言った先の公衆浴場には。

「いらっしゃーい!」「ま、魔族だー!」待っていたのは和服に着替えた決死隊の女の子達。

「うるさい!私達はシルディーさんの依頼でここを仕切ってるのよ!文句はシルディーさんに言って欲しいわ!ま、言える度胸があるんならね!」

 これには難民も沈黙した。「入浴は一人一回までだぜ!」決死隊の娘達、仕切りも上手だ。

「コラ!体を洗ってから湯に入れ!」黙々と入浴指導を受けつつ…

「うぃ~」「極楽ぅ~」「死んだ婆ちゃんも生き返る~」みんな温泉カピバラ状態。


 壁の向こうの女湯から…

「この草から作った油で髪をこすると…」「いい匂い~!」「わー!泡が!こんなに汚れが落ちる!」「ステキんぐー!」

 黄色い声が沸き上がる。壁を男たちがよじ登る!修学旅行の風物詩だよね。だが許さん!

 壁が一瞬雷を帯びて「ギャー!」男たちは湯の中へ沈没!

「父ちゃんサイテー!」一緒に入っていた子供達が、生みの親を軽蔑の眼差しで見ていた。

 こんな微笑ましい景色が温泉地の各地で繰り広げられた。


 夜にはみんな人心地ついて、配給の食事を食べ、屋根と床があるだけだが一家がまとまって眠れる宿舎で眠りに就いた。


 英気を養う温泉や、煮炊き出来、屋根があり眠る床もあり、さらに便所まである施設があれば人は安心できる。

 幸い天気は良好だ。但し便所は行列だ。

 とはいえこんなサービス、数日で限界だ。湯も濁れば食も尽きる。


 で、こんだけ私が色々やってる最中に、この世界を救う義務があると思しき勇者君はと言えば…


******


「ホーリー、どこへ行ったんだ…」

「レイブぅ、きっと帰って来るわよぉ。だからここで一緒に抱き合って待ちましょうウヘヘヘ」糞賢者が。


「グダグダ言わねえで探せってえの!」「うわ!恩人殿!」「チッ!」

「うわじゃねえよ馬鹿!ボケボケウジウジしてるヒマがあんなら手を動かせ!足を動かせ!お前なんかよりシルディーさんの方がよっぽど王都の人達を救うため頑張ってるぞ!」後面倒だから言わなかったけど糞賢者消えろ!

「シルディーは素養があるんだ。俺は戦うしか能が無いんだ!」コイツホントにメンタル弱いな。

「だったらその糞みたいな脳を鍛えろよ!みんなお前に期待してんだ!」

「俺は戦うぶふぉお!」勇者君を思いっきりブン殴った!「何すんのよぐぶろ!」阿保賢者にも男女平等顔面パーンチ!


「テメエの口は糞を吐く前に『イェッサー』か『ハイ』か渡〇篤史の『ぅ解りました』だけを吐け!

 今からあの糞ひん曲がり聖女を探しに行くぞ!場合によっちゃあぶっ殺しに行くぞ!」

「ぶっ…殺し?!そんな事させでらうぇあ!」更にビンタかました!

「アイツは何か危険だ!この世界の魔力とか物理法則…世の中の理を越えた何かを持ってる。

 テメェずっと居てそんな気配を感じた事ないのか?!」

「あるもんか!あいつは」

「だから未だにチェリーなんだよ!お前は結局与えられた使命だけに縋って頼り切って!他の何も見ようとしてない!何も見ない様にして逃げてる弱虫だ!

 お前如きに救える人など一人もいないと知れええ!」


 あー。何でこんな赤の他人に係わっているんだ私は。

 早くハーレムに戻ってのんびりしたいよ。

 だが放っておけば罪の無い人が殺されるばかりだ、数万単位で。それは避けたい。

「そうだ。俺には、この世界を、人々を救う義務がありょえらあ!」も一丁パーンチ!「違うだろうがあ!」

「何なんですかあ!」「そうよこのハゲぐぶぐぅ!」やかましい女の顔面にヤクザキック!

「義務だとか抜かすんだったらンな物捨ててとっとと逃げろ!捨てたくない、逃げたくない物の為にだけ戦え!」

「捨てられないもの…」

「もうテメェには期待しないぞ!私は勝手にあのヤンデレを探してぶっ殺す!」

「ま、待ってくれ恩人殿!」「この御託聞き飽きた!!」


******


 手掛かりは犯罪現場にある。あのイカレおばちゃんの神殿から聖女は消えた。


「転移魔法を使ったか、あるいは転移門でもあるか。単に逃げただけか目的地があるのか。

 そもそも奴は何を企んでるのか。魔族を殲滅する超兵器でもあるのか。

 ざっと考えただけでもこれ位は考えるべき問題があるんだぞ?」

 ぼへーっとしてる勇者レイブに私は檄を飛ばした。


「お前等も何か心当たりはあるか?」

 勇者の後ろでもっとぼへーっとしているマッチョ神官達に聞いた。

「お前等の親分だったあのおばちゃんが魔物と逃げたんだ。連座となって処刑されない様弁護して欲しければ知ってる事は話せ」

 ビビるマッチョ達。

「何と言う手際の良さ…やはり魔導士殿は只者じゃない」感心する勇者…感心してんじゃねえ!

「本当はお前の仕事だろ?!」

「こういう頭仕事はホーリーが得意だったんだ。魔王退治の旅でも遺跡の中から転移陣を見つけ出したり、魔王殲滅アイテムを探し出したり」

「それだ!」「え?」

「遺跡の転移魔方陣とか魔王対策のための武器とか、ホーリーはこの間魔族に洗脳される前から魔王との戦いに必要な物、いうなればこの世の裏事情めいた物に気付いていたんじゃないか?」

「ん~、解らないな…」「ホーリーは魔王を倒した後の事とか、何か話していなかったか?」

「あーあの娘、『私がぁ~レイブをぉ~解放して養ってあげるぅ~』とか偉そうな事言ってたわね」

「『解放』ってのが引っかかる、多分王からの報酬の事じゃないな。他には?」「知らないわぁ」「使っかえね愚か賢者!」「ムキー!」

「あの~」マッチョ神官が言った。「大神官様のお部屋の奥には魔法陣が書いてありまして」

「それもだ!」「え?」

 案内されたそれは、紛う方無き転移魔方陣だ。書かれた文字を読み解けば、行先は王都を離れた遺跡。


******


 温泉宿には王都の商人達、富裕層を招いて1泊無料、2泊目から有料とした。

皆満足したらしく、優良顧客となってくれた。和風の落ち着いた感じが騒ぎ続きの一同の心を癒したらしい。

「毎度ありー」魔族娘達も現金なもんだ。


 商人達が落ち着いたおかげで、彼らは王都への物流をこの地に誘導してくれて、市が立って避難民に物資と食料が齎されるそうだ。ここは一安心だな。

「シルディー、皆が落ち着いたのは君がいたからだ、有難う!」「我が責務」あ、口調が戻った。

「私達は聖女ホーリーを追って古代の遺跡へ向かう。君も来るか?」「御意!」そうか。仲間だもんなあ。

「するとこの地を誰に任せるか…」

「私でどうかしら?」

 フラーレンが…肌を人と同じ肌色に変化させ、ドレスを纏っていた。角も消えている。

「魔族相手だとやりずらそうだから魔法で変装ってね。そこの戦士の代理人って事でいいかしら」「合意!」

「まずは宿泊客の商人達の内、信用できる者を組織して町内会的なものを組織する。彼等の街へ帰る計画や食料の調達なんかをやらせようと思う」

 計画の概要をライブリーが説明する。有能だ。

「流石だな!」「聡明!」

「脚本がライブリー、主演がフラーレン、かな?決死隊だった娘達はどうかな?」

「みんな安定した就職先を見つめて頑張っているよ」君も頼もしいぞエンヴォー。

「ありがとう。大変だけど頑張ってくれ!」

「働きたくないでござる~」「ジェラリーも働け」

「早く帰って来てご主人様!ホントは人族なんかのために働きたくないけど、この場を何とかしなきゃいけないし。でも寂しいのよ!」フラーレンが泣かせる事を言う。

「ああ。とっとと終わらせて帰って来るよ」

 魔族の娘達の方がチームワークいいなあ。大丈夫か勇者パーティー。

「あ、そうだ。私があの年増の女神官を洗脳した時なんだけど…」エンヴォーが意味深な事を言い出した。


******


 夜。王都の人気のなくなった神殿。女大神官を失ったせいかマッチョ神官もどっかへ行ってしまった。

 完全装備した勇者パーティーの三人。

「エンヴォーの話では、神殿と繋がっている遺跡には魔王の力と似た魔力を感じたそうだ。お前達を倒した後に調べる予定だったらしいが、どうにも陰謀めいた物を感じるな」

「そんな魔族女の言う事信じられるもんですか!」

「私にとっては君よりは信じられる。そこの何も考えてない脳筋よりもな」

「レイブを馬鹿にすんなこのキモハゲ!」「ハゲてねえって」やっぱ嫌な女だコイツ。

「行くぞ!みんなでホーリーを助けるんだ!」「救助?…奪還…」「シルディーさんもそう考えるか」「不確定」

「じゃあ魔法陣に魔力を注ぐわよ!」私達は魔法陣の上に立ち、そして。


******


 どこかの地下、薄暗い中光る魔石に照らされた一室に転移した。

「遺跡の割には手入れしてあるな」

「敵影…なし!」シルディーさんが周囲の気配を察知する。

「どこだホーリー!」「馬鹿っ!」大声出しやがってこのタコ!

「思ッタヨリ遅カッタワネェ~」奥の部屋から、あの媚びた声がする。奥へ向かうと…

 そこは開けた大聖堂になっており、その中央には巨大な魔法陣が描かれていた。その傍らに佇むホーリー。

「ホーリー!大丈夫か!探したぞ!」「お前探してねえだろが!」「あらあん!ありがとう私のレイブぅ~!」

 勇者に駆けよるホーリー。しかし!


「待てレイブ!」瞬間移動で勇者を掴んで投げ飛ばした!

 駆け寄るホーリーが手にしていたのは、ナイフ!

「抜刀!」剣から気を飛ばしてそれを弾き飛ばすシルディー!

「ちッ!ヤッパリ荒事ハ苦手ネエ~。マ、イイワ。れいぶハネェ、ココニイテクレレバイイノヨォ~」

「そこの賢者。この魔法陣も転移魔法らしいがかなり仰々しいな」

「これって…勇者召喚?!」

「大当タリ!!『エロイムエッサイム地の底より云々タマハリハムハリ中略我が聖なる要求に応えよ!』」「懐かしい呪文だな」召喚魔法陣が光を放った!

「う、うう~!」「レイブー!」

「ヤッパリれいぶハ召喚魔法ノ魔力源ニ最適ネ!王都ジャ魔族騒ギデ発動サセル暇モナカッタケドォ、ココナラジックリ取リ組メタワァ?彼ノ血ガアレバモット強力ダッタンダケドモネ!」

「貴様!新しい勇者を召喚して、新しい魔王と戦わせる積りか?」

「アラ何デ解ッタノカ知ラナイケド、御名答ゥ~!ソシテ私ガアノ愚カナ国王ニ替ワッテコノ国ヲ統ベルノヨォ!

 ソシタラれいぶノ戦イモモウ終ワリヨ!私ガ養ッテア・ゲ・ル!私ノペッとトシテ可愛ガッテア・ゲ・ル!」

 その時であった!


 天井が崩れた!そして巨大な足が魔法陣を踏みつぶした!

「ギャー!私ノ魔法陣ガー!」「今だクレビー!レイブを担いで逃げろ!」「重い~!愛が重いわあ~!」「阿保か!シルデ…」「救助!」レイブをお姫様抱っこしてサっと離脱した!流石だ!「待ってー!」

 魔法陣を踏みつぶした巨大な足は…怪獣のものだった!その頭上には。

「ふぃ~!危なかったー!前魔王様に似た巨大な魔力!只事じゃなかったがねー!」なんか訛ってる魔娘がいる。

「ちゃっとこのヤバ気な遺跡ブっ壊して行こまい!」

 う~ん、無人の遺跡とは言え「魔王の魔力に似てる」ってのが気になるな。

 あ、ホーリーは…天井に押しつぶされてるな。黒い奴だが今後のために助けておくか。


 フラッシュ一閃!私はコルセットで腹を(中略)イセカイマンへ変身、ホーリーを潰していた天井を払いのけ、時間逆転チェースッ!で怪我を治し、もと来た道の近くに降ろし、そして…

 巨大化したー!久々の巨大化!敵怪獣、今度は割りとスマートで俊足そうな怪獣と対峙する!

「おみゃーが先輩衆をやっつけたってイセカイマンかあ!よっしゃあやっつけろー!」

 ショートの銀髪に褐色で元気良さ気な、例によって痴女服の魔族娘が怪獣を嗾ける!

 怪獣が猛スピードで突っ込んで来た!それを空中一回転で躱す!着陸してナンチャッテ片手撃ち光線で反撃!

 月が照らす遺跡の中でイセカイマンと俊足怪獣が向き合う!


 この遺跡の謎とは何か!勇者召喚の魔法と魔王の魔力が似ているというのはどういう事か!

 その秘密は次回に続く!


 一話完結にしないと子供の視聴者は飽きて視聴率落ちるぞ!


…また明後日…

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